美味しく食べるあなたが見たいから
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「お弁当……ですか?」
「はい、食べてみたいと思いまして」
お昼休憩に2人でご飯を食べるのが日課になっていた頃、ふとアオキさんがそんなことを言い出した。
忙しいアオキさんに合わせて食べるため、
お昼ご飯はお互いに買ってくるか時間に余裕があれば、どこかのお店で食べるかだったので個人的にはほっとしていたのだが、とうとう恐れていた事が起きた。
確かに付き合い始めてから1ヶ月は過ぎたし、そういった話題が出るのも頷ける。
しかし誰かに対して、自分の作った料理を出すのに抵抗を感じていた。
そう私は料理が下手なのである。
野菜を切れば切りきれず繋がったまま、
炒めたら火加減を間違えて焦がすか生焼け状態、
ご飯を炊くのでさえ水の分量を間違えてカチカチかドロドロのお粥になる
昔初めて付き合った恋人にも同じくせがまれて作ったが、
その時に言われた
「なにこれ、こんなの人の食べるものじゃないよ。」
と引き気味の言葉と、お弁当を突き返された事がトラウマになり料理を作ることが出来なくなってしまった。
(そのデート後に振られた)
でもそんなことアオキさんは知らないし、私も言ってない……というか言えない。
恥ずかしいし、また嫌われたらどうしようという気持ちがある。
でもあれから時間も経ってるし、レシピ通り作ればもしかしたら出来るかも…?と思い。
「わ、分かりました!明日作って持ってきますね!」
と答えてしまった。
「ありがとうございます、楽しみにしてます
ね。」
うぅ…期待されるとプレッシャーが……だけど私もアオキさんの為に頑張るぞ……!!!
そう思っていた数時間前の私に言いたい。
(やっぱりダメだった……!!!!!!!!!!!)
あの後、帰り道にスーパーによって食材を沢山買ってきて直ぐに調理に取り掛かった。
スマホロトムに「お願い、私でも出来る料理のレシピを探して欲しいの!!」と懇願し、
私の必死な様子にロトムも「わかったロト!!!ロトムもサポートするからご主人頑張ってロト!!!」と張り切って手伝ってくれた
(と言ってもやることはレシピを読み上げるくらいだが、それでもありがたい)
しかし
「わぁーーー!!!ご主人、鍋が吹きこぼれてるロトー!!!!」
「えっ!う、うそ!!!あっっつい!!!!」
「ごしゅじーーーーん!!!!!」
「大根の皮剥くの大変だね…」
「し、慎重に……ゆっくりでいいから指、気をつけて欲しいロト」
「出来た!!で、でも身も削りすぎちゃった……」
「野菜炒めこんな感じでいいかな?」
「うんうん、火加減もバッチリロト!ってあれ、そういえば味付けしたロト??」
「あっ!!忘れてた、えっと、塩コショウ……(どばっ)」
「い、入れすぎロトーーーー!!!!!」
ロトムが見張っていてもこうなってしまった…仕事ではこんなにミスすることなんかないのにどうして料理をする時はこうなるんだろうか……
机に突っ伏して項垂れるしか無かった。
おかず1品1品に対して時間をかけすぎたせいで、気づけば深夜をすぎていた。
もうスーパーも開いてないし、作り直す時間もない。
とりあえずお米だけでも炊いて、おにぎりにして持っていこう。
そう思い、洗米をして炊飯器の予約設定をして気を失うように寝た。
「……しゅ………ん」
「……………………」
「ご……じん!……きて……!」
「んん〜………」
「ご主人!!!お願いだから起きてロト!!!大変だロトー!!!」
「んぁ……?」
ただならぬ様子で、本体を私の顔へペチペチとぶつけて起こしてきたスマホロトム。
え、もしかして寝坊した?と慌てて目覚まし時計見るがいつもの起きる時間だった。
「何ぃ…どうしたの?」
「ご主人どうしたじゃないロトよ!!炊飯器ちゃんと予約出来てなかったロト!!!!」
「………………………え?」
ロトムの言葉にサッと血の気が引いた。
素早くベットからおりて、台所の炊飯器の蓋を開ける。
そこには水に浸ったままのお米がそこにあった。
「ど、どうして?ちゃんと予約時間指定したのに……」
「………もしかして、時間だけ設定して炊飯ボタン押さなかったロト?」
「え、炊飯ボタン…?これって時間設定したら勝手にやってくれるんじゃないの?」
「え?」
「え?」
詰んだ。今から炊きあげてたら出勤時間に間に合わない。
いやでもまてよ、一応レンチンするご飯があったはずだからそれでおにぎりを…でも……それじゃあ量が足りない。
アオキさんはよく食べる方だし、私の分もある
おにぎりだけじゃ、おなかいっぱいにはならない。
どうしよう……
「ご主人……」
ロトムも心配そうに見つめてくるが、それに反応してあげる余裕もない……
もうそろそろ出勤の用意をしないと遅刻してしまう。
悩み悩んだ挙句、結局失敗した料理は私が食べる用にお弁当箱に詰めて(おにぎりも作ったが、塩を掛けすぎた気がする)
アオキさんには出勤途中でサンドウィッチを買っておいた。
沈んだ気持ちのまま、業務に励んだが心ここに在らずな状態だったため
いつもはしない小さなミスを連発した。
そのせいで余計に気が滅入ってしまって、同僚や上司に心配されてしまった。
見栄を張らずに、素直に料理が出来ないことを伝えていたらこんなに悩まずに済んだのかなと考えてみても、後の祭り。
そしてとうとう、お昼時間になってしまった。
「お疲れ様です」
「………お疲れ様です」
「……?どうしましたか?気分が優れませんか?」
「い、いやそうじゃないんですけど……」
「そうですか……体調が悪いなら無理しないですぐ自分に言ってくださいね」
「すみません…」
「……では行きましょうか」
「はい…」
いつもご飯を食べる場所につき、2人とも定位置に座る。
カバンに入れたお弁当とサンドウィッチを取り出そうとし、固まる。
なんて言えばいいんだろ……実は料理するの忘れちゃって〜は昨日の今日だし、あんなに張り切ってたんだから通じない。
アオキさんの嫌いなもの入れちゃったので〜も駄目だ、アオキさんに苦手な食べ物なんかないことは私が1番知ってる。
作ったけど食べられるもんじゃないので〜って正直に言ったら、じゃあなんで作るなんて言ったんですかとか返ってきたら私が耐えられない。
どうしよう、どうしようと考えていたら
「ハヅキさん?」
アオキさんが心配そうに顔を覗いてきた。
「やっぱり顔色が良くない……このまま上司に言って早退させて貰いましょう」
「あ、ち、違います!体調は悪くありません!」
「違うことないでしょう…目に隈が出来てますよ」
目の下に手を添えて隈の部分をなぞる。その仕草が本当に私を心配して気遣ってくれているのが伝わってきて
そして自分が情けなくてぼろぼろ涙が溢れてきてしまった。
「う、ぅうぅぅ……」
「ハヅキさん…教えてくれませんか?貴女が何を隠しているのか、
それとも自分では力不足でしょうか?」
「うっ…ぐす…そんなこと……ないです……」
「……じゃあ、ゆっくりでもいいので話してくれますか?」
そのまま腕を引かれて、アオキさんに抱きしめられる。安心させるように背中を優しく摩ってくれた。
一通り泣いた後、私は今までの事を全部話した。
初めての恋人に料理を貶されたこと、その事がトラウマで料理が出来なかったこと。
でも、頑張れば作れるのではと思い約束したこと、そして結局失敗してしまったこと。
「……そうでしたか…そんな事が」
「せっかく楽しみにしててくれてたのに、裏切っちゃってすみませんでした。」
「いえ、こちらの方こそ嫌なことを思い出させてしまって申し訳ないです。
思えば自分が頼んだ時に少し顔が引きつっていた気がしました。」
「えっ…か、顔に出てましたか……?」
「その時はそこまで気にならなかったんですが、理由が理由ですからね。仕方ないです。でもそうなると、少々気になることが」
「なんですか?」
「その、初めての恋人に作った後は料理はしなかったんですよね」
「まぁ……そうですね………」
「貴女がその後にどれだけの人と付き合ったかはこの際どうでも良いですが、それまでも作ったことは無いということでいいんですよね?」
「まぁ…はい」
「どうして自分には作ろうと思ってくれたのかなと…」
「それは………」
そんなの、ひとつしかない
ご飯を食べている時のアオキさんの幸せそうな顔を見るのが好きだからだ。
宝食堂の焼きおにぎりを目の前にして、いつもの仏頂面が柔らかい表情になる時
美味しい料理を口いっぱいに頬張って食べている時
それを傍で見られる幸せは私だけの宝物だ。
だから、私の作った料理を食べてそんな顔になってくれたらどれだけ嬉しいか、
そんな姿を想像して一所懸命作ったのだが…
「…別にすごく美味しいお弁当じゃなくても、不味いものが出来上がったとしても自分は完食しますよ。」
「え…でもこんなの食べたらお腹壊しちゃいます!」
「こんなのってことは…持ってきてるんですね。ください、ハヅキさんの作ったお弁当」
「だ、だめ!アオキさんにはサンドウィッチ買ってきたのでそっちを……ってあぁ!!」
私のカバンをサッと取り上げ中身を物色された。(無断でそんな事しない人なのに…)
目的のお弁当の入った巾着袋を取り出して、中身を開ける。
焦げ目の多い卵焼きとウインナー、塩コショウの効きすぎた野菜炒め、味の染みていない大根の煮物、形の悪いおにぎりが2個
見栄えも悪い、味も悪い…この中身を見てアオキさんはどう思ってるだろうか……
表情はいつも通りで内心どう思っているか分からない。
お弁当を見つめたまま黙ってしまったアオキさんに我慢できなくなり
「ほ、ほらね!不味そうでしょ?私が食べますからくださ「嫌です」…え」
「嫌です、自分が全部食べますから。絶対渡しません。」
取られまいと、お弁当箱を私から遠ざけておにぎりに手を伸ばす。
あっと思った時にはアオキさんの口の中におにぎりが入っていった。
「っ…げほ!げほっ」
「!!!!」
やっぱり、し、塩かけすぎちゃったんだ!!
おにぎりも満足に作れないなんて……
また泣きそうになりながらアオキさんに水を差し出す。
「ど、どうぞ」
「い、いいえ、大丈夫…んっ…です、から」
「で、でも」
「ほんとに…大丈夫です。」
「アオキさん…」
その後もおかずと残りのおにぎりを黙々と食べていった(野菜炒めでまた咳き込んでいたが)
「…………………」
「…………………」
「ご馳走様でした」
「……ほんとに食べちゃった……あ、お水…」
「あぁ、ありがとうございます」
そう言って今度はちゃんと飲んでくれた。
コップに汲んだ水を一気に飲み干すと、アオキさんは私の目をじっと見つめて
「お弁当ありがとうございました。」
優しく微笑んでくれた。それを見て込み上げてくるものがありまた俯いてしまった。
「……美味しくなかったでしょ?」
出た言葉は震えていたと思う。
「………」
「正直に言ってくれていいんですよ、その方が気持ち的にも楽なので」
「そうですね……美味しいかと言われれば、美味しくはなかったです……でも、ハヅキさんが頑張って作ってくれた料理をどうしても食べたくて」
「………」
「どれだけ塩辛くても、まっ黒焦げでも、味が薄くてもそれが自分の為に作られたものだと思うと嬉しくてつい…」
「…………」
「もし、ハヅキさんが良ければまた作ってくれませんか?」
「……っまだ上手く作れませんよ?」
「はい」
「失敗沢山しますし、味付け忘れちゃったりします」
「はい」
「お米もちゃんと炊けません…それでもいいんですか?」
「はい……楽しみにしてます。」
もう限界だった。
さっきよりもぼろぼろ涙が止まらくなって、また抱きしめてくれたアオキさんのシャツがびしょびしょになってしまうくらいには泣いてしまった。
一通り泣き終わった後、やはり量が足りなかったアオキさんとお昼ご飯を食べていなかった私のお腹がぐっーと大きく鳴った。
それを聞いてどちらともなく、吹き出して笑った。
まだ食べてなかった、サンドウィッチを半分こにして食べる。
隣に座るアオキさんは、相変わらず美味しそうに食べている。その姿を見てふと気づいた、さっきお弁当を食べていた時も同じく
いやそれ以上に幸せそうに食べていたことを。
その光景を思い出し、まだ料理をするのは怖いけど頑張って練習していこうと思った。
1/1ページ