序章『未来は知っている』
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「ひっく……」
エマがしゃくり上げる声がして、我に返ったゆうしゃ 。見ると、エマは泣き出している。大きな目の端から、ぽろぽろと涙が流れている。いけない、どうにかしないと。
「私、取ってくる!」
「ええっ! 無茶だよゆうしゃ !」
木を上ろうとしたゆうしゃ をメタすけは止める。
「はしごを借りてこよう! それかおじいちゃんに頼もう!! 前みたいに落ちそうになったら危ないよ!!」
前みたいに。その言葉に、メタすけと出会ったあの崖でのことを思い出す。あれ以来、どうも高いところは苦手になってしまった。ゆうしゃ はサッと青ざめ、けれど隣で泣いている親友を見て、祖父が居るであろう川辺へと走り出す。
「エマ、待ってて!! おじいちゃんからはしご借りてくるよ!!」
川辺で釣りをしているだろう祖父の元へ走る。求めていた姿はすぐに見つかり、ゆうしゃ は安堵する。
「おじいちゃーん!」
「おぉ、ゆうしゃ か、どうしたんだね、そんなに慌てて」
祖父、テオは今し方つり上げたばかりの魚を籠に入れながら返事をする。
「ねぇおじいちゃん! はしご知らない!? はしご!!」
「はしご? はしごなんかどうするんだね」
「エマのスカーフが木の上に飛ばされたの!! 早く取らなきゃ風で飛ばされちゃう!」
「ははは、わかった、わかった。待っておれ、今行くでな」
ようやく、テオは振り返った。片付け終わった釣り道具を肩に担ぎ、テオは笑う。
「……おや?」
テオはゆうしゃ よりも向こうを見て、目を見張った。ゆうしゃ も追いかけて振り返れば、エマが手を振りながら駆けてくるのが見えた。それを見て、抱えていたメタすけが飛び降り、ゆうしゃ の足の影に隠れた。
エマは、一人の女の人を連れていた。長い髪、青い瞳……この村の人ではない。けれど、何故か懐かしいような、胸を締め付けられるような……不思議な感覚があった。
ああ、そうだ。この人、夢の中の女剣士に似ているんだ。
「ゆうしゃ 、はしごなら大丈夫よ。あのお姉ちゃんがスカーフを取ってくれたから」
エマの瞳から涙は消え去り、にこにこと笑っていた。頭にはいつものスカーフが巻かれていて、ゆうしゃ はひとまず安心した。
「それでね、あのお姉ちゃんゆうしゃ に会いに来たんだって! 知ってる人……?」
ゆうしゃ は女の人を見るが、懐かしい感じはしても、知っている感じはなかった。
「……ううん、知らないよ」
初対面だ。女の人はゆうしゃ を見て、なんとも言えない表情をしていた。嬉しいような、悲しいような、そんな、複雑な表情。
「ふむ……あの娘さんはわしに用があるようじゃ」
テオはゆうしゃ の肩を優しく叩き、言った。
「ゆうしゃ とエマは向こうで遊んでなさい」
「はーい。行こ、ゆうしゃ !」
エマに手を引かれ、ゆうしゃ は走り出す。ゆうしゃ は一度だけ振り返った。女の人は振り返らなかった。ただ、その背中が寂しく、もう少し話をしたいと思った。
「気になるの?」
木の所まで戻ったとき、エマがゆうしゃ に問う。ゆうしゃ は頷いた。
「うん、なんかね、知らない人のはずなのに……知ってる気がしたの」
「実は私も! ゆうしゃ のおじいちゃん、知ってるみたいだったから……もしかしたら昔、この村に住んでたとかかなぁ」
不思議な人だった。夢の中の女剣士に似ているようで、だけどあの人のような勇ましさはなく、なんだか、迷子になった自分を見ているようだった。
「そうだ、わかった、なんだかゆうしゃ に似てるんだ、あの人」
「私…?」
「あ、あのお姉ちゃん戻ってきたよ、きっとお話終わったんだよ」
エマの視線の先、あの女の人が佇んでいた。
そうだ、自分はまだ、お礼を言ってないじゃないか。お礼を言おう、ついでに色々聞こう、旅の人みたいだから、きっと色々知ってるはずだ、色々な話が聞けるかも知れない!
「お姉ちゃん! さっきはお礼を言いそびれちゃったけど、エマのスカーフを取ってくれてありがとう!」
声をかけながら、心の中はドキドキしていた。緊張する。女の人は澄んだ瞳を細め、ゆうしゃ の身長に合わせてしゃがんでくれた。
「……どういたしまして」
「あ、あのね、お姉ちゃん、旅の人なの? この村の人じゃないよね?」
「……昔、住んでたんだよ」
「やっぱり! まだこの村にいるの?」
隣からエマが顔を出して、女の人はへらり、と笑った。……なんだか泣きそうだ。何か、失礼なことをしてしまったのだろうか。
「ごめんね……もう、行かなきゃ。やらなきゃいけないことがあるの」
「えー……色々話を聞きたかったのに……」
エマが唇をとがらせる。女の人は優しく笑って、エマの頭を撫でた。
「またこの村に遊びに来てね! そのときに、旅のお話を聞かせて欲しいな!!」
ゆうしゃ が言えば、女の人は泣きそうな顔のまま、ゆうしゃ に腕を伸ばした。けれど伸ばした手はすぐに引っ込められる。
「…うん」
頷いて、笑ってくれた。ゆうしゃ が安堵したとき、目に光が飛び込んでくる。何かに太陽の光が反射したみたいだ。目を閉じて、開けたとき。そこにはもう、誰も居なかった。
「あれ、お姉ちゃん、何処に行っちゃったんだろう」
「……不思議な人だったね」
「ゆうしゃ 、エマ」
川辺からテオが歩いて来た。ゆうしゃ はテオに駆け寄って、その大きなお腹に抱きついた。理由はわからない。何故か、そうしたかったのだ。
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