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序章『未来は知っている』

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女勇者


 一家はメタすけを快く受け入れてくれた。一家だけではない。ゆうしゃ の親友のエマも、その家族も、村人たち全員が、まるで人間の子供がひとり増えただけのように接してくれた。

 メタすけを巻き込んだ張本人のゆうしゃ はというと、家の2階、ベッドに寝転んで本を読んでいた。メタすけが言った「賢さ」を身につけるため、ゆうしゃ は時間があるときには本を読むようになっていた。メタすけはゆうしゃ の頭の上に鎮座し、ゆうしゃ がめくる本を上から見ていた。たまに難しい字をゆうしゃ が読み方を聞いてくるので、教えなければならないからだ。
 今日、彼女が読んでいるのは勇者とその仲間たちの冒険譚。中でも、勇者ローシュと賢者セニカの恋物語だ。後世の人間が想像で書いたものなので、もちろんフィクションなのだが、ゆうしゃ は真剣に文字を追っている。


ゆうしゃ ー! エマちゃんが来てくれたよーー!!」

「あっ…はーい!」

 ゆうしゃ は栞は挟んで本を閉じてベッドを降りる。メタすけはゆうしゃ を追ってその肩に飛び乗る。共にはしごを下りて玄関へ向かえば、少女と犬が待っていた。金糸を束ねたような綺麗な髪を、真っ赤なスカーフで覆っている。白い肌と眩しい笑顔。素朴ながらも、きらりと光る何かを秘めた少女。ゆうしゃ の親友のエマだった。

「おはよう、ゆうしゃ ! メタすけもおはよう!」

「おはよう、エマ! ルキもおはよう!」

「わうっ!」

 ゆうしゃ はしゃがんで、エマの傍らの仔犬の顔を撫でる。仔犬といっても、ゆうしゃ の腰くらいまでの大きさはあるので、しゃがんでしまうとほとんど同じ大きさだ。

ゆうしゃ 、今日はマフィンを焼いたのよ。今日は暑いから、木陰で食べましょ!」

「わぁ~! ありがとう!! エマのマフィン、美味しいから大好き!!」

「メタすけのぶんもあるからね!」

「やったぁ!」


 二人と二匹は村の中央にある大きな木へ向かう。世界のすべての命の源とされる、命の大樹の根が絡む特別な場所。……なのだが、幼い子供二人はまったくもってそんなことは知らず、無邪気にその周りを駆け回る。木陰に座り、エマが持ってきたバスケットから、さっそくマフィンを取り出し二人と二匹は食べ始める。

「エマのマフィン、ほんとに美味しくなったよね。はじめの頃は甘すぎて食べ終わる頃にはほっぺた痛くなっちゃったもん」

「いっぱい練習したのよ。失敗したのは全部お父さんが食べてくれたけど、そのせいで少し太っちゃったみたい」

「言ってくれたら私も食べたのに」

「だって……ゆうしゃ には一番美味しいのを食べてもらいたかったんだもん!」

 エマはゆうしゃ が大好きだった。この村にはゆうしゃ とエマ以外に子供が居ない上、エマの母は病弱で、床に伏せることが多く、一緒に遊ぶことがあまり出来ない。必然、ゆうしゃ と一緒にいる時間の方が多くなる。エマにとって、ゆうしゃ は一番であり、唯一の親友だったのだ。ゆうしゃ にとっても、エマと一緒に他愛ない話をするこの瞬間が、毎日の中で一番輝いていた。


「ところでゆうしゃ 、今は何の本を読んでるの?」

「今はね、勇者ローシュ様と賢者セニカ様の恋物語だよ」

「ローシュ様とセニカ様って、大昔にこの世界を救った人たちだよね」

「うん。本の中でローシュ様はね、邪神を倒すための方法を求めてラムダの里へ向かうの。そこでセニカ様と出会って、お互い一目惚れするんだって」

「うわぁ、ロマンチック! 素敵ね!」

「ローシュ様は危険な旅に巻き込みたくなくて、セニカ様を置いて行こうとするんだけどね、セニカ様はローシュ様を追いかけて旅の仲間に加わるの」

「きゃー!! 素敵!! それでどうなるの!?」

「それでね…」


 言葉を続けようとしたとき、風が吹く。


「きゃぅ!?」

「うわぁっ!」

 メタすけが風に煽られて転がっていく。ゆうしゃ は冷静に両手で抱えてたため、遠くまで転がっていくのは防げた。


「ああーっ!」


 エマが木を見上げて大きな声を上げた。見ると、エマの頭にあったスカーフが消えている。エマの視線の先、大きな木の枝に、スカーフが引っかかっている。

 ……そのとき、何故かゆうしゃ はそのスカーフに釘付けになった。木の枝に引っかかり、今にも飛んでいきそうな薄い布きれ。


 それをみて、何故か、「私だ」と……。



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