4章『その名は悪魔の子』
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「親愛なる孫、ゆうしゃへ。
未来から来たお前に出会った後、わしは約束通りにお前の道しるべとなる物を用意しておる。
母親の手紙はもう読んだかのう? あの手紙はお前が流されてきた時、お前が寝かされていた籠の中に一緒に入っていた物じゃ。
わしはあの手紙を読み、お前が勇者の生まれ変わりだとすぐにわかった。お前の左手にある痣は、昔、わしが旅をしていたときに知った勇者の証そのものじゃったからのう。
わしはあの手紙にしたがい、お前をデルカダール王国に向かわせたが、辛い思いをさせたようじゃ。
なぜユグノアの地が魔物に襲われ、勇者が悪魔の子と呼ばれているのか……わしには見当もつかんかった。
ゆうしゃよ。
今、これを読むお前は、わしが何故、遺言を覆さなかったか、疑問に思っておるじゃろう。
わしも、お前の旅立ちを止めることを考えたとも。だが、それは同時に、お前を真実から遠ざけることに他ならん。デルカダールへ行くことなく、一生をこのイシの村で過ごすならば、それはきっと、お前に平穏な幸せを与えてやれるじゃろう。
けれどゆうしゃ。お前は、そんなことを望まないじゃろう。
何せ、このテオの孫じゃ。好奇心旺盛で、やんちゃで、じっとしておられん。お前はわしの子供の頃にそっくりじゃ。
だからこそ、わしはお前に、茨の道を遺す決意をした。
ゆうしゃよ。
真実を求めなさい。
かつてわしが手に入れた、魔法の石をお前に授けよう。
この魔法の石で、東にある旅立ちのほこらの扉を開けることが出来る。
それを使って世界を巡り、真実を求めるのじゃ。
お前が悪魔の子と呼ばれ、追われる勇者となった すべての真実を。
ゆうしゃや。
人を恨んじゃいけないよ。
わしはお前のじいじで幸せじゃった。
テオ」
祖父の字だった。
大好きな、祖父の字だった。
ぽたり。と。
ひとつ、涙が落ちた。
「ゆうしゃ……」
メタすけの声が聞こえる。ゆうしゃは手紙をたたんで封筒に収めた。
「私……棄てられたんだと思ってた」
「ゆうしゃ……」
「要らなくなって、川に流されたんだと思ってた。でも、違ったんだ」
ゆうしゃは痛感していた。
己がこんなにも、愛されていたことを。
命を懸けて、ゆうしゃを逃がしてくれた母。
敢えて茨の道を遺し、その道を越えられるように、さまざまなものを遺してくれた祖父。
女手ひとつで、ゆうしゃを育ててくれた育ての母も、背中を押してくれた幼なじみも。
こんなにも、みんなの愛で満たされていた。
「私、知りたい」
袖で涙を擦るようにぬぐう。
見上げた空は、旅立ちの日と同じ。
青。世界の色だ。
「どうして勇者が、悪魔の子と呼ばれるのか」
「やっと立ち直ったみたいだな」
カミュが軽く、ゆうしゃの背中を叩いた。
「オレも付き合うぜ」
「カミュ……」
「と、言いたいところだが……」
「わかってるよ、レッドオーブでしょ」
「さすが、よくわかってるじゃねぇか」
ゆうしゃは手紙をもう一度、胸に押し当てた。
「……ありがとう、おじいちゃん……おかあさん」
空の向こう。命の大樹。
……祖父も母も、そこにいるのだろうか。エマたち、イシの村の人たちも…。
ならば、なおさら立ち止まっているわけにはいかなかった。
空からなら、どこに居たって見えてしまう。口うるさいペルラや、お節介なエマに怒られてしまう。
「レッドオーブが移されたのはこの道の先にあるデルカダール神殿だ」
「うん」
「え、ちょ、ちょっと待って!!」
足下からメタすけの声がした。ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、メタすけが騒がしく声を上げる。
「神殿ってなに!? 何をする気なの!?」
「オレが盗んだお宝が保管されてる。もう一度盗みに行くんだ」
「神殿を荒らすって事!? というか、デルカダール神殿なんて、敵の懐に飛び込むみたいなもんじゃないか!!」
「うるせぇな、ごちゃごちゃ言ってると経験値にしちまうぞ」
「ひえっっ!?」
「カミュ、メタすけをいじめないで」
ゆうしゃはメタすけを抱え上げる。
「メタすけ、いいじゃない、おもしろそうだよ」
「どこが!!」
「だって腹立つじゃん。何もしてないのに牢屋に入れられたんだよ。しかもトイレなかったもん。壺があった。目の前の牢屋には異性が居るのに、壺だよ。壺」
「つぼ……」
「一矢報いるくらいは許されるんじゃないかな」
そう言って笑うゆうしゃの顔は、悪戯小僧のそれだった。
カミュはにやりと笑ってそれに答える。
メタすけは組ませてはいけない二人を組ませてしまった気がして、一人溜息をつくのだった。
続
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