4章『その名は悪魔の子』
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「そういや、お前とは入れ違いになっちまったんだけどよ、デルカダールから神父が来てたぜ」
イシの大滝への山道。決して険しくはないが、急な坂が続くため、気をつけていないと足を痛めてしまうような場所だ。
とはいえ、ゆうしゃは幼い頃から通い慣れた道なので、すいすいと進む。カミュもこういう道に慣れているのか、立ち止まることなく歩いている。
「神父様が?」
「ああ。どうも、デルカダールの王様はお前のことを正式に悪魔の子だと発表したらしい」
「……そんな……」
「悪魔の子を育てた罪深き村を、裁きの炎によって浄化したとか言ってるらしい。とはいえ、その神父もあの光景を見てどっちが罪深いのかわからないとか言ってたな」
「……」
「つらいのはわかるが、いまは進むしかねぇよ。村にある根が光ってお前に過去を見せたんだ。それほどじいさんが残した伝言はお前にとって大切なことだと思うぜ」
「そうだね……」
「……待て」
カミュは立ち止まる。左手は短剣にかけられ、瞳は草むらを睨んでいた。
「誰だ? そこにいるんだろ」
カミュは低く、唸るように問いかけた。ゆうしゃも周囲を警戒し、背中の剣に手をかけた。
草むらががさがさと動き、おそるおそる、という様子で出てきたのは、銀色のシルエット。
「あ……!?」
カミュの目が輝いた。逃げられる前に仕留めなければ。短剣を引き抜きすぐに動こうとするが、それよりも早く、風のように傍らをゆうしゃが駆け抜け、その銀色のシルエットを抱きしめた。
「メタすけぇぇぇぇぇ!!!!」
「ゆうしゃーーーぶほぉわっっっ!!!?」
「メタすけ!! メタすけ!!! メタすけぇぇぇぇぇ!!!! うわあああああ無事で良かったぁぁぁあぁ!!!!」
「痛い痛い痛い痛い痛い!!! 嬉しいのは解ったからはなじでぇぇぇ!!!」
草むらから覗いていたのは、メタすけだった。ゆうしゃはメタすけを抱きしめ、ぎゅうぎゅうに締め上げた。カミュはぽかんとして、引き抜いた短剣が所在なげに煌めいた。
「……メタスラがしゃべってる……? ゆうしゃ、お前が仕込んだのか?」
「メタすけは良いメタルスライムなんだよ。私の呪文の師匠です」
「あ、どうも、弟子がお世話になってます」
「………魔物が人間の師匠……? あり得ねぇ……」
「メタすけはメタルスライムだけど、初対面で崖から落ちそうになった私を助けてくれた、良いメタルスライムなんだよ」
「まず初対面で崖から落ちそうになった経緯が知りてぇ」
「まぁそれはおいおい話すとして、とにかく無事で良かったよ、ゆうしゃ」
メタすけはぷにゃぷにゃと動いて、ゆうしゃの腕から飛び降りた。
「デルカダールで、ゆうしゃによく似た手配書を見たよ。急いでイシの村に戻ってみたら、酷いことになってたし……一体何があったの?」
「実は……」
ゆうしゃはメタすけと別れた後のことを話した。悪魔の子として地下牢獄に軟禁されたこと。地下牢獄でカミュと出会い、共に脱出してからのこと。
メタすけはぷにゃり、とうつむいた。
「………どうして、そんな酷いことを……」
「わかんない……けど、デルカダールでは勇者は魔王をよぶ悪魔の子っていうのが通説みたい」
「ゆうしゃ、これからどうするの……?」
「ここに、おじいちゃんが遺してくれた何かがあるみたい」
ゆうしゃは顔を上げた。もうすぐ、三角岩が見えてくるだろう。
「おじいちゃん、どうして遺言を覆さなかったんだろう」
メタすけが呟くように言った。
「え?」
「だって、ゆうしゃと過去に会ったんなら、こんなことになるからデルカダールには行くなっていう遺言に変えたら良かったじゃないか。なのに、どうして……」
メタすけも動揺しているのがよくわかった。
「それも、此処に隠されてるんじゃないか?」
ずっと黙っていたカミュが言う。
「確かめようぜ」
ゆうしゃは頷いた。
坂道を登り切れば、特徴的な形をした岩が見えた。カミュは早速短剣を抜いて土を掘り返す。ゆうしゃも両手で土を掘り、それほど時間もかからず、目的の物は見つかる。
綺麗な、赤い箱だ。引き出して、開けてみれば、中には石がひとつと、手紙が二通。
「手紙……二通あるが、ひとつはかなりボロボロだな。お前宛だろ、読んでみろよ」
「はい、ハンカチ」
メタすけがハンカチを口にくわえて差し出してくれた。手についた土をハンカチで落として、ゆうしゃはぼろぼろの手紙を開いた。優しく、丁寧な字。おそらく女性の字。
「え…!?」
「どうした?」
「……い、愛しい、私の娘へ……って、書いてある」
「え!?」
カミュも横からのぞき込んで、手紙を読み始めた。ゆうしゃは手を震わせながら、続きを読んだ。
「愛しい私の娘、ゆうしゃへ。
あなたがこの手紙を読めるようになった頃、きっと私はもうこの世にはいないのでしょう。今、私はあなたに道しるべを遺すべく、急いでこの手紙をしたためています。少し字が歪かも知れませんが、許してね。
今日はあなたのお披露目の日。可愛い王女の生誕を、皆が喜び祝福する、すばらしい日になるはずでした。
ですが今、このユグノアの地は魔物の襲撃を受けています。私は万が一のことを考え、この手紙を遺します。戦えない私には、きっと、あなたを逃がすことが精一杯になるでしょうから。
いいですか、ゆうしゃ。
心ある人に拾われ、立派に成長したら、ユグノアの親交国であるデルカダールの王を頼るのです。あの方は聡明で、あなたのお父様と親しい間柄です。きっと、あなたに道を示し、正しく導いてくださるでしょう。
あなたは誇り高きユグノアの王女。そして忘れてはならないのが、大きな使命を背負った勇者でもあります。
勇者とは大いなる闇を打ち払う者のこと。いずれこの言葉が何を意味するのか、わかる時が来るでしょう。
ゆうしゃ……あなたの成長していく姿を見守りたかった。あなたをこの手で育てたかった。
あなたと一緒に、居たかった。こんな手紙を遺すことしか出来ない、無力な母を、どうか許してください。
どうか、忘れないで。
父も母も、あなたを愛しています。
エレノア」
ゆうしゃは、動けなかった。
これは、なんだ? こんな人は知らない。
なのに。
ゆうしゃの心は震えていた。喉の奥が熱い。
「……どうやらお前の母親の手紙のようだな」
カミュの声が遠い。ゆうしゃは震える手で、手紙を収め、胸に押し当てる。
「……いたんだ」
「ゆうしゃ?」
「私に……本当の、お母さん……血の繋がったお母さん」
声が震える。全身が震える。世界が崩れていきそうだった。
「ゆうしゃ、大丈夫か」
カミュの手が肩に載る。ゆうしゃはなんとか頷く。
「ゆうしゃ、こっちの手紙……読める?」
メタすけがもう一通の手紙をくわえ、差し出した。ゆうしゃは受け取り、なんとか手紙を開く。
今度はすぐにわかった。祖父の、テオの字だ。
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