4章『その名は悪魔の子』
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差し込んでくる日の光に目を開けた。見えたのは青い空。ぷかぷかと漂う薄雲。懐かしいと感じた。身体を起こすと、壁も屋根もなくなっているが、そこは確かにゆうしゃの家、ゆうしゃのベッドだった。
「お、起きたか?」
かつて玄関だった場所から、カミュが入ってくる。入ってくると言っても、玄関だった場所にはもう、燃え残った木枠しか残っていない。壁も崩れてしまっているから、もう玄関の意味は果たしていない。
「ごめん、カミュ……」
「謝る必要ねぇよ。……オレこそ悪かったな」
「え?」
「ホメロスがあの抜け道を知ってる可能性を考えてなかった。デルカダールに戻らず、脱獄してすぐにここに来てりゃ、こうはならなかったかもしれねぇ……」
カミュは視線を外し、沈んだ声音で言った。ゆうしゃは首を横に振った。
「それはもう、可能性の話だよ。カミュのせいじゃない。それに、デルカダールに引き返すのに賛成したのは私だもの」
「そういや、あのときお前、忘れ物があるって言ってなかったか。それちゃんと回収できたのか?」
「……ううん」
「どうする、戻るか?」
「ううん。大丈夫。必ず合流するって言ってたし、信じてみる」
「は? 忘れ物って……物じゃねぇのか?」
「えーと……幼なじみなんだけど…」
メタすけのことを話すべきかどうか悩んだ。ここまで親切にしてくれたカミュだ。話し手も良いとは思うが、かなり現実味のない話ではあるとゆうしゃ自身、ここに来るまでに実感した。魔物と兄妹のように育ちました、なんて。
「まぁ、とりあえず、大丈夫な気がする」
「いいのか?」
「昔からね、私が行くところ、言わなくてもわかってるみたいに追いかけてきたから。何処かで合流できそうな気がする」
「アバウトだな……まぁ、お前がいいならそれでいいや。で、これからの事なんだけどよ、お前が倒れる前に言ってたお前のじいさんと話したってやつは?」
「あ、それはね……」
ゆうしゃはカミュに、不思議な力で過去にさかのぼり、祖父と話をしたことを伝えた。その力が、おそらく大樹の導きであることも。カミュは神妙な顔で頷いた。
「なるほどな。勇者は大樹によって選ばれるって聞いた事がある。お前にはたぶん、大樹の根を通じて過去を見る力が備わってるんじゃないか?」
「そう、なのかな……」
「実際、お前の左手の痣が光ってたしな」
ゆうしゃは己の左手を見た。幼い頃からずっとあった痣。デルカダール王は、これこそが勇者の証だと言っていた。
「それじゃ、じいさんの言葉を信じてイシの大滝とやらに行ってみるか」
「え?」
「え、てなんだよ。不満か?」
「そうじゃなくて……一緒に来てくれるの?」
「ああ、そうか。……いや、オレは実は、勇者を探しててな」
「……あ、そういえば、預言がどうのって」
「ああ。どうやらオレは、お前を助ける運命にあるらしい」
「その預言ってなに? カミュが生まれた村の教えとか……?」
「その話は追々な。それに、裏道を教える条件はレッドオーブの回収だろ。まだオーブは回収できてねぇ」
「それもそうか……」
「イシの大滝は村を出て東に向かった所なんだな? 身体が大丈夫なら、そろそろ行こうぜ」
「私は大丈夫だけど、カミュはちゃんと休んだの?」
「ん? ああ、教会が無事だったからな。そこでちょっと寝た」
「寝たって……もしかして床で?」
「あぁ」
「それじゃあ身体が休まらないんじゃ……」
「オレは1年間牢獄で雑魚寝してたんだぞ。教会の木の床の方が何倍もマシだ。ほら、行くぞ」
「わ、ま、待って…」
踵を返し、カミュは歩き出した。ゆうしゃは慌ててベッドから降りて、いつものように布団を綺麗にたたもうとして、手が止まる。
……たたんでも、もう意味は無いのに。まるでゆうしゃを待っていたように、ベッドだけが綺麗なまま、そこに残っていた。ゆうしゃはシーツの皺を伸ばし、布団をたたんで、枕も綺麗に整える。
家であった場所を出ると、冷たい風が吹いた。
「……」
何度瞬きしても、変わり果てた姿が、元に戻ることはない。
此処にはもう、何もないのだ。
「つらいのはわかるが……ここにいてもなにも始まらねぇ」
少し離れたところで、カミュが言う。ゆうしゃは頷いた。
正直に言えば、まだ、気分は晴れない。もう少し此処で泣いていたい。
だけどそれは、歩みを止めてしまうことに他ならない。
「行くぞゆうしゃ!」
カミュの声に、ゆうしゃは大きく返事をした。
迷いは晴れない。
だが、進む以外に、道はなかった。
▽