序章『未来は知っている』
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「あっ」
「えっ?」
何度目かの攻防。捕まえようと飛びかかったゆうしゃ の腕をすり抜けたメタルスライムは、あることに気づいて青ざめた。ゆうしゃ はというと、小さな身体が遙か彼方、崖下へ飛び込もうとしていることに、宙へ躍り出てなお気づいていなかった。何が起きたのだろう。地面が消えてしまった。地面が消えたら、まっすぐに落ちるしかないじゃないか。
「あぶなぁあああああっい!!!」
ゆうしゃ が、自分が落ちたことに気づいたのは、何者かに足を捕まえられて、ぶらぶらとぶら下がってからだった。
「きっ……きゃあああああ!!!!」
そのとき、はじめて声が出た。怖い。怖い、怖い。全身から血の気が引いて、強ばって動けなくなる。
「大丈夫!!」
怖くて堅く閉じた瞼。その向こうで声がした。それは少年の声。邪気のない、純粋で、穏やかな声。
「僕が持ってる。ちょっとずつ上にあがるから、じっとしてて!!」
恐怖が溶けていく。ゆうしゃ は言われたとおり、動かずにじっとしていた。少しずつ、身体が上へあがっていく気がした。
「よい、しょ」
その声が合図だったように、ゆうしゃ の足は地面についた。ずるずると地面に引き戻されて、ゆうしゃ はうつぶせで土に寝転んだまま、動けなくなっていた。
「うっ……うぅ……」
怖かった。落ちて、死んでしまうと思った。死んだら、もう母のシチューは食べられない。エマとは遊べない。祖父に剣を教えてもらうことは出来ない。そんなことを想像したら、涙があふれてきた。
「よしよし、怖かったね」
地面に伏せて泣き出したゆうしゃ の頭に、何かが寄り添った。涙でぐしゃぐしゃの顔を上げれば、そこには先ほど追いかけ回していたメタルスライムがいた。
「……あ、り、がとう……」
「まったく、ちゃんと周りを見ないとダメじゃないか。逃げるのに必死でこんなところまで来ちゃった僕も悪いけどね」
ぷにゃり。目玉が怒ったようにつり上がるけど、全然怖くない。落ちそうになった……というか、落ちたゆうしゃ の身体をつなぎ止め、引き上げてくれたのは、他でもないこのメタルスライムだった。しかし、ゆうしゃ が知る限りでは、魔物が人間を助けたなんて話は聞いた事がない。しかも、メタスラが。
「しゃ……」
「ん? どうしたの、しゃ……」
「シャベッタアアアアアアア!!!」
そして何よりも、人語を解していることに驚いた。魔物と言えば、うなり声を上げることがあってもこんな人間くさくしゃべるようなものではない。ゆうしゃ は目を輝かせてメタルスライムを両手で掴んで持ち上げた。
「すごい!! すごい!!! シャベッタアアアア!! どうなってんの!!? 中に何か入ってるの!!?」
「ひええええ!! 何も入ってない!!! 何もないから背中擦らないでこそばゆい!!」
ぷにゃぷにゃと形を変えながらなんとか逃げだそうと這いもがくが、スイッチの入った子供の握力というのはとんでもないものである。ぎりぎりと握り込んで来るので痛い。
「おじいちゃんに見せよ」
「あいだだだだだだ!! やめて!! 入らないから!! ポケットになんか入らないから!!」
「大丈夫だよ、スライムだから身体柔らかいでしょ?」
「質量保存の法則って知ってる!!? とにかく入らないから無理!! それに僕を連れていったりしたら村が大騒ぎになっちゃうよ!!」
「大丈夫だよ、スライムくらいならみんな慣れっこだもん」
「僕は普通のスライムじゃなくて、メタルスライムなんだぞ! ここに来るまでもあっちこっちで冒険者に追われるし!! しかもみんな、僕のことメタルスライムじゃなくて『けいけんち』って呼ぶし!!」
「だって、メタルスライムは倒せたら冒険者としてすごい経験なんでしょ、私も早く強くなりたいし、気持ちわかるなぁ」
「……君、強くなりたいの?」
「うん!」
「どうして、女の子なんだから、弱くってもいいだろ」
「……」
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