3章『生業の中で』
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城門……というより、城壁に空いた穴だった。一番に感じたのは、ツンとしたニオイ。前方を歩くカミュはフードで顔がよく見えないが、あまり気にしているようではない。
土で汚れた壁。ろくに舗装されていない道。歩いている人の多くが、あまり衛生的でない身なりをしているように見えた。
「上の城下町とは、違う雰囲気で驚いたろ? ならず者たちが暮らす掃きだめ……ここもまた、デルカダールのひとつのカオさ」
カミュが歩きながら言う。ゆうしゃは置いて行かれないように、少しだけ歩調を速めた。
町に入る前、カミュが言っていた「お前みたいな小綺麗な格好のお嬢ちゃんが気軽に行くとこじゃない」の意味がよくわかった。ゆうしゃは、顔を隠すために身につけたぼろ布が、とても心強く思えた。
「……ここの人たち、ちゃんと生活できているの?」
「“ちゃんと”っていうのは“まっとうな”って意味か? だとしたら、そりゃ半々だな。きちっとした商売してる奴もいれば、人をだましたり、物を盗んだり、っていうのが生業(なりわい)の奴もいる。オレみたいな奴がな」
「……カミュってやっぱり……盗賊なの?」
「なんだよ、今更か?」
「だってカミュ……あんまり盗賊っぽくないっていうか……昔読んだ本に出てきた盗賊は、もっとおっかない感じだったから」
「これでも、以前は世間を騒がす大盗賊だったんだぜ? 忘れたか、俺たちがいたあの地下牢獄は最下層だ。よほどのことをやらなきゃ入れられねぇ場所だ」
「……何をやらかしたの?」
ゆうしゃがおそるおそる聞けば、カミュは振り返り、にやりと笑った。その表情は悪戯小僧のそれで、とてもではないが、地下牢獄の最下層に入れられるような極悪人には見えなかった。
「1年前のことだ。オレはそのとき一緒に盗賊稼業をやってた相棒と協力して、古代からデルカダール王国に伝わる秘宝を盗み出した」
「……それだけ?」
「なんだよ、それだけって。レッドオーブはデルカダールの国宝だ。大昔に精霊が力を封じたとか言われてる、由緒正しいもんだよ」
「そっか……よっぽど貴重な物だったんだね……」
「まぁ下手を打って捕まりはしたが、あらかじめオーブは後から回収できるよう安全な場所に隠しておいたのさ」
「でも、1年前の話でしょう? 誰かに持って行かれたりしてないかな」
「いや、大丈夫だ。普通は絶対に立ち寄るような場所じゃねぇ」
自信満々に答えたカミュに、ゆうしゃは首を傾げた。……その意味を知るのは、ものの数分後。
ゆうしゃは鼻を突くニオイに顔をしかめ、鼻をつまむ。正直、口でさえ周囲の空気を吸いたいと思えない。
其処にあったのは、山のように積み上げられたゴミだった。残飯だろうか、カビの生えたパンやチーズ。足の折れた椅子や、何に使われていたのかわからない薄汚れた布、などなどなど。あげれば切りが無いが、そのどれもが異臭を放ち、とてもではないが近寄りたいとは思えない。なるほど、カミュが自信満々だったわけだ。
「ヤツら、自分たちが出したゴミの中に自分たちのお宝が隠されてるなんて夢にも思ってないだろうぜ」
「……うぅ、早くしてね……」
「おう」
さすがに近寄りたくなかったので、オーブとやらの回収はカミュに任せ、ゆうしゃは邪魔が入らないように周囲を警戒する。
おそらく、町に入ってすぐに感じた異臭の正体はこのゴミ山だろう。ゆうしゃは顔を覆う布を鼻に押し当て、なるべくニオイを誤魔化す。このぼろ布もあまり良い匂いはしないが、慣れた分、ゴミ山のニオイよりはマシだ。
「馬鹿な! 何で無いんだ!?」
怒号に似た声に、驚いて振り返る。カミュが後頭部を掻きながら戻ってきていた。
「カミュ、どうしたの?」
「ないんだ! レッドオーブがない!」
「……やっぱり誰かが持って行ったとか……」
「あり得ない! オーブを隠したのはゴミ山の奥の方だ! いくら下層部の人間でも、こんな所を目的もなく掘り起こすような奴はいねぇ!! こんな場所……」
言いかけて、カミュはハッと口をつぐんだ。何か思い当たることがあったようで、後頭部を掻いていた手を止めた。
「まさか……デクの野郎……オーブを持ち逃げしやがったのか?」
「デク?」
「さっき言ってた元相棒だよ! くそっ、デクの野郎……見つけ出して締め上げてやる!」
ゆうしゃは嫌な予感がした。
「お前にもあいつを探すの手伝ってもらうぜ。デクの足取りを追うんだ!」
やっぱり……。
思いながら、ゆうしゃは口にはしなかった。カミュの押しの強さは、どことなくエマのそれを思い出させる。幼い頃から学習しているゆうしゃにはわかる。こういうタイプが思い込んだ場合、やり通すまでは止まらないのだ。止めても無駄だし。
かくして、カミュの元相棒を探すこととなった。
▽