3章『生業の中で』
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見事にもぬけの殻となった牢獄。その真ん中、ぽっかりと空いた穴を見て、グレイグは深く、深く溜息をついた。
「申し訳ありません!! 見張りも、全員倒されていまして……!」
「此処に捕らわれていたのは確か……」
「はっ、宝物庫に忍び込み、宝を盗んだ罪で捕らわれておりました。カミュという盗賊です」
「何故、盗賊風情が悪魔の子の逃走を手伝うのだ」
「わかりません……ただ、追いかけた兵士の話によりますと、どうも率先して脱走していたのは盗賊の方で、悪魔の子はそれについて行っただけのようでして……」
「ふむ……」
やはり、悪魔の子が盗賊を無理に協力させたわけではないのか。グレイグは変に納得してしまった。
彼女が悪魔の子であるとわかっていながら縄を解いたのは、彼女があまりにも憐れだったからだ。あの口ぶりと、あの行動。己よりもまず、己を育てた村の人々を案じ、グレイグに縋っていた。
……本当にこの娘が悪魔の子なのだろうか。グレイグはあのとき、一瞬でも主君を疑い、そしてすぐに己を恥じた。
我が王、デルカダール王は誰よりも聡明なお方だ。間違いなど、あるはずがない。
「……イシの村といったか。恐らく、あの者はそこへ向かうだろう」
「は……イシの村、でありますか?」
「南の渓谷地帯にある村だそうだが……」
「しかし、あの辺りは断崖絶壁の険しい道ばかりで、とても人が住めるような地形では……」
「行ってみればわかろう。私はホメロスを追う。おそらくもうこの辺りにはいないだろうが、念のため町の中の衛兵たちにも警戒に当たるよう伝えてくれ」
「はっ!」
はきはきと答えた兵士はすぐに走り去る。
悪魔の子。あの者が生まれたから、16年前の悲劇は起きたのだ。あの者がいなければ、あの方が死ぬことはなかったのだ!
グレイグは言い聞かせるように、脳裏に16年前の光景を描き出す。焼け落ちる建物、悲鳴、断末魔、この手に残る、生ぬるい魔物の血の感触を。
「……待っていろ、悪魔の子め。貴様はこの俺、グレイグが必ず捕まえてみせる」
それは、誓いだった。
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