2章『脱獄ランデブー』
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二人は再び走り出し、灯りが漏れる方へと進んでいく。やがて小さな穴を見つけ、その先に水路が見えた。青年は短剣で穴を広げ、そこから水路へと出る。
「ここは、また水路か?」
「追っ手は、もう……」
来ないよね? そんなゆうしゃの淡い期待を打ち壊すように、足音がした。
「見つけたぞ! 悪魔の子だ!!」
あの甲冑だった。
「おいおいマジかよ!」
「追いつかれたんだ……!」
「逃げるぞ!!」
青年に言われ、ゆうしゃは走り出す。
何処をどう走ったのだろうか。後ろから迫ってくるだけではなく、あちこちから兵士たちが駆けつけ、気がつけば追っ手は十数人に増えていた。
光を求め、とにかく外を目指して走っていた。やがて光の差し込む、出口らしきものが見えた。安堵し、光の中へ飛び込めば。
「やられたな……」
青年が呟く。ゆうしゃは、顔を真っ青にして思わず後ずさった。
そこは、崖だった。巨大な滝と、切り立った断崖絶壁。ごうごうと流れる水の音と、ひゅうひゅうと空を切る風の音がした。
「いたぞ! こっちだ!!」
背後から、声が聞こえる。
「くそ! もう追っ手が!!」
「ど、どうしよう……!」
前には滝壺。後ろには兵士。逃げるつもりが、追い詰められていたのか。
青年はゆうしゃの肩を掴み、自分の方を向かせた。
「いいか、ゆうしゃ、よく聞くんだ」
青年の、空のような瞳と視線がかち合う。絶望的な状況にありながら、彼は何一つあきらめていない。ゆうしゃは、恐怖で凍り付く身体に、少しずつ温度が戻っていくのを感じた。
「ここで捕まったらお前もオレも長くは生きられねぇ。お前は【悪魔の子】として、オレはそんなお前の逃亡を手助けしたとして、おそらく処刑だ」
「え……!?」
それは脅しでもなければ、冗談でもなかった。そしてゆうしゃも、その結果を容易に想像することが出来た。
捕まれば、殺される。
―――殺されたら、村の人たちを守れない。
青年の瞳。何一つ、あきらめていない瞳。
彼は、飛び降りる気だ。ゆうしゃはすぐに理解した。
だが、弱虫な心はまだ拒否していた。……こんな所から落ちるくらいなら、捕まった方がまだ、逃げられる可能性が高いんじゃないか。
僅かに視線を背後に戻したとき、十数人の兵士たちが駆けだしてきた。
「行くぞ、ゆうしゃ」
青年は、ゆうしゃを見た。ゆうしゃも、青年を見た。
「オレは信じるぜ、勇者の奇跡って奴を……」
たった一言。
だが、ゆうしゃの身体は、それだけで全身に血が廻り、鼓動した。
信じる。
この人は、私を勇者だと信じてくれるのだ!!
「…うん!」
ゆうしゃは頷いた。青年も満足そうに微笑み、二人は滝壺の方へと身体を向けた。
「おい貴様ら、何をする気だ!!」
恐れはなかった。
脈打つ心臓が、流れる熱い血潮が、全身が奮い立つ。
「そういや、まだ名乗ってなかったよな」
青年が言う。青年はフードをずらした。
金色のピアスと、こだわりなのか、つんつんと逆立つ髪。
青い髪。……世界の色だ。
「オレの名前はカミュ。覚えておいてくれよな……」
ゆうしゃはきっと、忘れたくても忘れられない名前になるのだと確信した。
大きく頷き、それが合図であったように、二人は滝壺めがけて走り出す。
地を蹴り、迷いも恐れもすべてを棄てて、飛び出した。
眼前に広がったのは、薄い霧の向こうの、世界。
地面が消えたときは、やっぱりやめておけば良かったかな、などと考えてしまったけれど。
不思議と、ゆうしゃの心は躍っていた。
私は世界を見たのだ。
手を伸ばせば届きそうだったけれど、残念ながら、意識はそこで途絶え、身体は下へと落ちていった。
続