2章『脱獄ランデブー』
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青年は言いかけた言葉を飲み込み、弾かれたように進んでいた方向を振り返る。
「……何か居る」
「えっ…?」
洞窟の先。薄暗い空間に、何かが居た。
ずるり。闇が這いずって、暗闇に慣れてきた目は、その姿をしっかりと見た。
大きい。大きな、闇色をした、ドラゴンだ。あんなの、絵本でしか見たことがない。神の岩の頂上で見た鳥の魔物の、何倍も大きい。
何故、こんな城の地下に、こんなものが?
驚きと恐怖とで動けないで居ると、ドラゴンがこちらを見た。逃げなければ……! そう思ったときには、大きな尾が振られ、ゆうしゃは咄嗟に頭を両手で庇い、しゃがんで尾と地面の僅かな隙間に入って難を逃れる。尾は巨大な棍棒のように当たりの岩や壁を壊し、砂煙を巻き上げる。
避けられた。一瞬、安心して顔を立ち上がれば、砂煙の向こうに迫る真っ赤なものが見えた。それがドラゴンの舌で、牙であると気づくと同時、ゆうしゃの身体は駆けつけた青年に庇われ、横倒しに転がっていく。
「おい、逃げるぞ!!」
「あ、あ……!」
恐怖だ。全身が凍り付いたように冷たい。青年に背を押され、なんとか立ち上がって走り出す。恐ろしくてとてもじゃないが振り返ることは出来ない。しかし、破壊音と獣の咆哮が聞こえる。追いかけてきている!!
「あっ…!」
何かが足に当たった。ゆうしゃの身体は前のめりに倒れる。見れば、スライムが慌てて逃げていくのが見えた。
「ゆうしゃ!!!」
先を走っていた青年が、振り返って戻って来ようとしている。
しかし、ゆうしゃの背後にはドラゴンが迫っている。
このままでは。
「来ちゃだめ……!」
巨大なドラゴンに怯え、逃げ惑う小さな魔物たち。ゆうしゃを助けるために戻ろうとしている青年。
ゆうしゃは、何も考えていなかった。ただ、守ろうとしただけだった。神の岩の頂上で、エマを守ろうとしたときと同じ。背中の剣に手を伸ばし、引き抜き、ドラゴンの方へ駆けだしていた。
「バカ、止せ!!」
青年の声が聞こえた。
その通りだと思った。だが、止まればドラゴンは青年もろともゆうしゃを喰おうとするだろう。それだけはさせるわけにはいかなかった。彼はゆうしゃを助けてくれた。励ましてくれた。死なせるわけにはいかない。守りたい。
「…だぁっ……らあああっ!!」
迫ってきたドラゴンの牙が宙をかみ砕き、ゆうしゃは懐へ入っていた。
一瞬だった。堅い鱗に覆われていない、柔らかい皮膚の部分を、ゆうしゃは思い切り、斬りつけた。
悲鳴に似た咆哮が上がる。ドラゴンがバランスを崩して倒れる。それでもなお起き上がろうとしている魔物に対し、ゆうしゃは剣を振り上げた。
「ごめんね」
ためらいは、一瞬だった。ドラゴンの喉に、振り上げた剣をまっすぐに突き刺した。悲鳴もなく、ドラゴンは真っ黒な血を吐いて、動かなくなった。
ゆうしゃは膝を折り、突き立てた剣にすがるように伏した。青年が駆け寄ってくれたのがわかったが、すぐには顔を上げられそうになかった。
忘れていた恐怖が、全身を侵し、今更震える。肩で息をしながら、目の前、ドラゴンの命を奪った剣を見た。
「おい、大丈夫か?」
「わ、わたし……」
「倒せた……んだよな?」
青年はドラゴンを見た。ドラゴンが、闇に溶けるように黒い霧となって消えていく。確かに、死んだのだ。残ったのは、地面に突き立てられたゆうしゃの剣だけだ。
「……無茶しやがる。おかげで助かったけどな」
「……倒せた、んだね……」
「お前のこの剣、もしかして破邪の剣か?」
「え?」
青年はゆうしゃの剣を見て言う。立ち上がり、地面に突き刺さった剣を引き抜き、目を輝かせた。
ゆうしゃも立ち上がり、剣を見つめる。それは、祖父の形見のひとつだった。ゆうしゃが幼い頃から家にあったもので、若い頃に祖父が使っていたものだと聞いている。
「間違いねぇ。ドラゴンを倒せたのはこいつのおかげだな」
「…そんなにすごいものなの?」
「ああ。コレ一本で家が買えるぜ」
「そ、そんなに…!?」
「邪を断つ剣、て言われててな。これ、何処で手に入れた?」
「おじいちゃんの形見で……おじいちゃん、昔はトレジャーハンターだったっていうから……もしかすると、そのときに手に入れたのかも」
「なるほどな。大事にしろよ」
剣の柄をゆうしゃに向けて、差し出す。ゆうしゃは受け取り、背中の鞘に収めた。
「しっかし、ここは城の地下だろ。なんだってあんな魔物が……?」
「デルカダールにはドラゴンがよく出るの?」
「まさか! そうそうお目にかかるような魔物じゃねぇよ」
視界の端で、青い影が動いた。……さっきのスライムだ。ぴょんぴょんと飛び出してきて、ゆうしゃの足下で何かを吐き出し、すぐに逃げるように姿を消す。
「なんだ?」
いぶかしがる青年をよそに、ゆうしゃはしゃがんでそれを手に取った。ツンとする独特の香りがする、青々とした葉っぱ。
「薬草? もしかして、礼のつもりなのか…?」
岩の影から、スライムが覗いていた。小さく笑って、ゆうしゃは薬草を懐へ収めた。
「とにかく先を急ごうぜ。洞窟なのにお互いの姿がこれだけはっきり見えるって事は、灯りのある場所が近いって事だ」
「うん」
▽