2章『脱獄ランデブー』
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「どうして君はいつもそう、無茶ばっかりするのさ」
暗闇の中にいた。目を開けているのか、閉じているのかもよくわからない光景。
「一応女の子なんだしさ……怪我には気をつけなよ」
声が聞こえる。呆れたような、けれど心配してくれる、優しくて暖かな声。
私はこの声を知っている。だけどその姿は見えず、誰のものなのかわからない。
「はい、出来た。いいかい、治癒呪文は万能じゃないんだよ。傷が残ることだってあるんだよ」
「詳しいね」
唇が勝手に動いた。喉から出た声は、私の声だ。なのに、私の声じゃないみたいだ。
「ラムダの魔法使いが言ってた。色々教えてもらったよ」
「珍しいね、人嫌いのあなたが自分から教わりに行ったの?」
「違うよ。あっちが勝手にぐちゃぐちゃ喋ってたんだ。あんたの呪文は素人が付け焼き刃で覚えたみたいで、全然基礎がなってない! 本を読んで賢さを身につけなさい! てさ」
「ふふ、友達が増えたんなら良いじゃない」
「友達じゃないよ、あっちが絡んできただけ」
「ねぇ、あなたはもっとたくさんの人に愛されるべきだと思うの」
「なんだよ、突然」
「だってあなたは特別な存在よ。少し課程が狂ってしまっただけで、もしかするとあの子だって、あなたの仲間になったのかも知れないわ」
「そんなの……どうでもいいよ」
「ねぇ―――」
名前を呼ぼうとした。でも、私はこの人の名前を知らない。
どうして。あんなに、大好きだったのに。あなたは私を仲間と呼んでくれた。
私にとっても、あなたは私の、大切な仲間なのに。
私?
【私】って―――?
身体を揺さぶられ、暗闇から光へと戻っていく。
ゆうしゃは目を開けた。其処には、フードを目深にかぶった青年がいた。服がぐっしょりと濡れている。身体が重い。此処は何処だろう。
「無事か?」
「ここは……」
「洞窟みたいだな。水路の下にこんな場所があるなんてな」
見ると、ゆうしゃが寝ていたのは石畳ではなく、土だった。背後にはゴウゴウと音を立てて流れる水路。もはや、水路というより川だ。流れ着いたのか、はたまた青年がゆうしゃを連れて泳いでくれたのか。ゆうしゃは立ち上がり、服の裾を引き絞る。水がボタボタと落ちたが、乾く気配はなさそうだ。
見ると、麻袋がない。流してしまったみたいだ。慌ててポケットを確認すれば、エマのお守りと、母が僅かながら持たせてくれたお金の入った財布がちゃんとあった。牢に入れられたときの事を思い、なくさないようにポケットに移しておいたのが功を奏したようだ。袋の中には薬草くらいしか入れていない。これからは、大事なものは肌身離さず持っていようと思うゆうしゃだった。
「けどま、おかげで兵士たちを振り切れたな。もしかして、わざと橋を壊したのか?」
「えっ…!? まさか!!」
「ははっ、冗談だよ。ずいぶん長いこと利用されてなかったみたいだからな、壊れやすかったんだろう。たまたまお前が踏んだところがすっぽ抜けたんじゃねぇか?」
青年も立ち上がり、服の端を絞る。同じように水がボタボタと滴る。二人とも全身ずぶ濡れだった。しかし、乾かしている暇はない。
「この先から出られるかも知れねぇ、進んでみようぜ」
青年の言葉にゆうしゃは短く同意した。
ゆったりと歩き出した青年を追いかけ、先ほど橋の上で言おうとしていたことを思い出す。
「あの、ありがとう」
「ん?」
「助けてくれて……」
「あー……いや、うん……どういたしまして。つーか、まだ脱出できてねぇしな……」
「でも、牢から出してくれたし、お守りと剣を取り返してくれたし……さっきも、あなたが岸まで泳いでくれたんでしょう?」
「あ? あー……いや、オレも無我夢中だったからな。どうやってあそこまで行ったかわからねぇ。オレよりもお前なんじゃねぇの、勇者様」
「……その勇者様って、ちょっと嫌かも。私、まだ勇者かどうか、自信ないし……」
胸元。服の下に、祖父が遺してくれたペンダントが、確かにある。翡翠と言えば宝石だ。それがこれほどの大きさのものとなると、決して安物ではない。祖父は一体、これを何処で手に入れたのだろう。これが【勇者】の証であるのならば、何故デルカダール王はゆうしゃを「災い呼ぶ者」などと称したのか。
わからないことだらけだった。答えがあると思ってイシの村を出たのに。答えを知るどころか、ますますわからなくなるばかりだった。
「もしかしたら私……勇者なんかじゃないのかも」
本当に勇者ならば、国王に追っ手を差し向けられる事なんてないはずだ。国王が言っていたことが本当で、自分は災いを呼ぶ【悪魔の子】なのではないか。グレイグの言葉を思い出す。ゆうしゃを見下ろして、彼はゆうしゃを【悪魔の子】と呼んだ。自分の本当の親は悪魔で、ゆうしゃはいつか世界に災いをもたらすために人間の元へ送り出されたのではないか。ぐるぐると頭の中で疑問が回り出し、足を止めた。
「おい」
「え……ひぎゃっ!?」
呼ばれて、顔を上げたとき、額に痛みが走った。思わず両手で押さえれば、青年は口の端を持ち上げて笑っていた。彼の人差し指が、ゆうしゃの額をはたいたのだ。
「いたぁ……」
「おう、じゃあ起きてるな。長い寝言かと思ったぜ」
「えぇ……」
「ぶつぶつぶつぶつ……寝言いってる暇あったら足動かせ。急ぐんだろ、勇者様……じゃなくて、ええと……?」
「ゆうしゃだよ。イシの村のゆうしゃ」
「そうか。じゃあゆうしゃ。オレは……」
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