2章『脱獄ランデブー』
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スプーンで掘ったという穴は、入り口こそ狭かったが、中は思った以上に広かった。どうやら掘り進めていく内に元々あった穴……というより、通路のようなものに当たり、そこをそのまま脱出ルートとして選んだようだ。
やがて薄く光が差し込む壁に当たる。ブロック型に差し込む光に、もしかしてと軽く押してみれば、簡単に壁は崩れ、広い空間に出る。穴から出ると、ひんやりとした空気と、土の匂いがした。石畳の通路と、流れていく水の音。壁には等間隔で松明が立てかけてあり、意外に明るい。
「水路か」
青年はゆうしゃの松明を取り上げると、水につけて火を消す。
「消しちゃうの…?」
「灯りを持ったまま動いてたら見つかりやすい。どこかに出口があるはずだ。逃げたことがバレる前にさっさと出るぞ」
「う、うん…」
松明を破棄し、青年は駆け出す。あまりにも手慣れていて、素早い。ゆうしゃは置いて行かれないように追いかける。
「待て」
角にさしかかったとき、青年は腕を伸ばしてゆうしゃを制する。少しだけ顔を出して確認すれば、もはや見慣れた例の甲冑が見えた。思わず身体ごと引っ込めたゆうしゃ。青年は舌打ちする。
「ちっ……もうバレてんのか……いちいち相手なんかしてられねぇな……」
「どうしよう……」
「人気が少ない道を選ぶしかねぇよ。行くぞ、勇者様、オレについてこい」
青年は兵士がいた方向とは逆の方向へ駆けだし、人気がないのを確認し、ゆうしゃを手招きする。ゆうしゃはなるべく足音を立てないように追いかける。
同じような景色が続いていて、迷いそうだと思った。だが、目の前の青年は確かな足取りで進んでいく。まるで道がわかっているかのようだった。もしかすると、来たことがあるのかも知れない。
……そういえば、自分はまだこの青年にお礼を言っていないじゃないか。牢の鍵を開け、奪われた荷物を取り戻してくれたのに。しかも、現在進行形で脱出を手伝ってくれているのに。
「あの…」
「おい、見つけたぞ、こっちだ!!」
お礼だけでもと口を開いたとき、背後から大声がした。振り返れば、またしても同じ甲冑。数人いる。松明を片手にばたばたと駆け寄ってくる。
「くそ!逃げるぞ!」
走り出した青年を追いかけ、ゆうしゃも走り出す。窓のない地下に存在する水路には、少しの物音もよく響く。まるで何十人もの兵士に追いかけられているような錯覚を覚える。逃げなければ。逃げなければ、殺されてしまう!
「いたぞ!!」
橋にさしかかったとき、向かい側からも何人かの兵士がやってくる。反対側へ逃げようとしても、後ろからも兵士が駆けてくる。
「挟まれたか……!」
青年が腰の短剣に手をかけたのを見て、ゆうしゃも背中の剣に手を伸ばす。
しかし、相手は人間だ。甲冑を着ていて顔は見えないが、魔物や獣とは違う、生身の人間なんだ。手を伸ばしても、その手に力を入れることが出来なかった。
ひとりの兵士が手を伸ばしてきたとき、床が消えた。驚いて足を引っ込めると、消えた床の先に、ゴウゴウと流れる水が見えた。そのとき初めて、橋がずいぶんと高い位置にあったことに気づき、ゆうしゃは青ざめた。ゆうしゃの足が、橋を形成する石の一部を踏み抜いていた。
「おいおいマジか……!」
青年も気づいた。ごめんなさい。謝ろうとした瞬間、踏み抜いた箇所からガラガラと橋が崩れていく。
落ちる!! もう何年も前に、一度体験した恐怖がよみがえってくる。思わず傍にいた青年の腕にしがみつけば、青年の腕が背中に回った。ゆうしゃはそんなことに気づけないまま、床が消えた事に悲鳴を上げた。
「きゃあああーーーっ!!」
「うわぁああああーーー!!!」
青年はゆうしゃの身体を抱きしめるように腕に力を込める。衝撃を和らげるため、せめてもの対策だった。水の中に投げ出され、手が離れる。それでも絶対に、離すまいとゆうしゃの手を掴んだ。
絶対に離してはいけない。やっと見つけたんだ。やっと。
その身体を引き寄せて、青年は目を閉じる。意識はそのまま、遠ざかった。
▽