序章『未来は知っている』
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最後の一人を倒したとき、ゆうしゃ は目を開けた。視界に映ったのは、見慣れた天井の木目と、寝ぼけて突き出されたゆうしゃ の小さな右手だった。
……なんだ、夢だったのか。ゆうしゃ は突き出した腕をおろして、ため息をついた。……でも、かっこよかったな。強くて、勇ましくて……私もあんな風になれるかな。
ゆうしゃ は心の奥が、踊り出しそうなほどドキドキしているのを感じた。これ以上は眠れそうにない。まだ夜空は白み始めたばかり。起きるには早い時間で、騒ぎ出せば母からのげんこつが待っている。「まったく、お前はどうしてもっとおしとやかに出来ないんだい!」と両方のほっぺを伸びしろいっぱいに引っ張られるんだ。ゆうしゃ は寝返りを打つが、全然心は静まってくれない。……ダメだ! もう寝ていられないよ!!
ゆうしゃ は布団を蹴飛ばすように起き上がって、枕元に置いてあった衣服に着替える。いつも着ている、麻で作られた質素な服。脱いだ服はきちんとたたんで、また枕元へ。蹴飛ばした布団もたたんで直して、扉の近くに立てかけてあった《ひのきのぼう》を取って、まだ眠っている母と祖父を起こさないように、外へ飛び出した。
山間のイシの村は、夏であっても朝は涼しい。太陽はまだ顔を出し切れていない。ゆうしゃ は祖父がよく釣りをしている川辺まで走る。土の匂い、湿った風の匂い、ゆうしゃ は全身でイシの村の空気を感じながら、先ほどの夢を思い出す。
夢の中の自分はとても凜々しくて、強かった。手と足はすらりと伸びて、小さなゆうしゃ にはまだ持てないような長い剣を、軽々と扱っていた。自分よりも大きな体格の男相手に臆することなく、多勢に無勢など気にすることなく、愉快だと笑い飛ばしていた。
あんな風になりたいと思った。夢の中でなりきるだけじゃなく、現実に。母と祖父と、親友のエマと、村の人たちを守れる、強い大人になりたい。
「えいっ、やあぁっ!」
そのためには鍛錬が必要だ。ゆうしゃ はめちゃめちゃにひのきのぼうを振り回す。祖父に何度お願いしても、まだ早いと言って稽古をつけてくれなかった。けれど、ゆうしゃ は早く大人になりたかった。早く大人になって、一人前として認めてもらいたかった。
この村で剣を扱えるような大人は、祖父のテオくらいしかいなかった。テオは昔、腕利きのトレジャーハンターとして世界中を旅していたという。今でもたまに村の周辺で大きな魔物が出ると、退治に出かけることがある。村中の人たちはテオを信頼する。自慢の祖父なのだ。
母のペルラは「そういうのは男の子のやることだよ」と窘めるけど、ゆうしゃ はどうしても強くなりたい理由があった。
「えいっ、えいっ、えええっい!!」
振り回していたひのきのぼうが、つるり、と手の中から滑って消えた。「あれ?」と振り向くと同時、「痛っ!!?」という声が聞こえた。ゆうしゃ の手の中から飛んでいったひのきのぼうは、弧を描いて草むらの中へ。カラカラと音がして、ひのきのぼうが地面に転がる。ゆうしゃ はおそるおそる草むらをのぞき込む。
「いててて……誰だよぉ、朝っぱらからひのきのぼうなんか振り回してるの……」
まんまるで、つるつるとしてて、てかてかと光ってる。大きなくりくりの目。大きく弧を描く口。村の近くによく出る魔物だ。でも、あいつは真っ青だったから、こいつは違うのかな。
じっと見ていると、視線に気づいたのか、魔物はおそるおそる、という様子でゆうしゃ を見た。いつも見る魔物とは違う、金属のような姿のそれは……。
「メタルスライムだぁああーー!!!」
ゆうしゃ の目が輝いた! なぜなら、こいつは出会うことも希、倒すことなどもっと希。こいつを倒すことは冒険者にとってとても良い経験になるのだ、と祖父が言っていた。メタルスライムはゆうしゃ の大声に飛び上がって驚き……
「うっうわぁああああーー!!!」
一目散に逃げ出した。
「待てぇええええーーー!!」
ゆうしゃ はスライムを追いかける。スライムはすばしっこいが、ゆうしゃ も足の速さには自信があった。エマとかけっこをすればいつも一等賞だったからだ。絶対にあのメタルスライムを倒して、はやく一人前になろうと追いかけ回す。捕まえようとしては後一歩のところで逃げられて、終いには魔物に「しつこい!!」と叫ばれる始末。
しかし、メタルスライムだけを見ていたのが悪かった。
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