1章『その名は勇者』
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「こちらです」
兵士の声に我に返り、一際大きな扉が開けられるビロードの絨毯の向こう、大きな椅子に、豪奢な衣装の老人が座っている。白髪の頂には、王であることを示す冠があった。
両脇には、二人の男が居た。黒い鎧と白い鎧。片方はがっしりとした大きな身体と、鋭い目つきが印象的な、薄紫の髪の男。背には大きな剣を背負っていて、いかにも歴戦の勇士といった感じだ。
反対側に立つ男は対照的に、涼しげな印象のやせ形の男。長い金髪を一つで結んでいて、口元は緩やかに微笑んでいる。
「旅の者よ、ようこそデルカダール城へ」
恭しく、胸元に手を当て頭を下げたその姿は、まさしく騎士。顔を上げて微笑めば、思わずドキリ、としてしまう美貌が見える。ゆうしゃ は少しいたたまれなくなった。
「ユグノアの首飾りか」
低く、威厳のある声がした。見上げれば、高い位置にいるデルカダール王が立ち上がる。かなりの長身で、老人と呼んでも差し支えない年齢であるはずなのだが、その立ち居振る舞いから「老い」は感じられない。
「よくぞ来た、旅の者よ。わしがデルカダールの王である。こうしてそなたが来るのを長年待っておった。ようやく会うことができ、嬉しく思うぞ」
「あ、は、はい、あの……お、お会いできて光栄です!」
ひっくり返った声で返せば、金髪の男の方が小さく吹き出した。恥ずかしい……。ゆうしゃ は頬に熱が溜まるのを感じた。
「その首飾りをたずさえ、王であるわしに会いに来たということは……そなたは自分の素性を知っておろう」
「……それは、私が勇者である、ということですか……?」
「うむ。もしそなたが本物の勇者であるならば、おそらく手の甲に痣があるはず」
ゆうしゃ はハッとして、反射的に左手の甲を見た。
「うむ、その痣こそ勇者のしるし! そなたこそ、あのときの赤ん坊なのだな……」
赤ん坊、という言葉にゆうしゃ は驚く。この人はやはり、私のことを知っているのだ。期待と、不安。そして恐怖が心を覆う。振るえる唇をなんとか動かし、問いかけようとすると、こちらを見下ろす王と目が合う。
そのとき、何か、嫌な気配を感じた。この感じを、私は、どこかで……
「ときに勇者よ、そなたはどこから来たのだ?」
「え…?」
「そなたをここまで育て上げた者に礼をせねばならん。教えてくれぬか」
にこり、微笑まれる。違和感を抱きながらも、言わないというわけにもいかない。ゆうしゃ は口を開く。
「……ここから北へ、馬で一日と半分……イシという村が、あります。私はそこで育ちました」
「なるほどな。イシという村か。ホメロス、しかと聞いたな?」
王は傍らに控える白い鎧と金髪の男に語りかける。
「はい、しかと聞きました。あのような渓谷地帯にそんな村があったとは……」
「ホメロスよ! わかっているな!? あとはまかせたぞ!」
「はっ!!」
金髪の男……ホメロスと、一瞬目が合った。
笑っていた。その笑顔に優しさはなく、冷たい、抜き身の刃を突きつけられたような気がした。
小さかった違和感が、大きく膨らんでいく。いけない、彼を、止めなければ。
理由のわからない焦燥感に駆られるよりも先に、ゆうしゃ の前にもう一人の、黒い鎧の男が立ちふさがった。
「まさかひとりで乗り込んでくるとはな」
近付くと、とても大きいのだとわかる。高い位置から見下ろされ、圧倒される。その目にあるのは、純粋な敵意だ。
「え?」
「何を企んでいるか知らんが、貴様の思い通りにはさせんぞ! 勇者め!」
男の抜いた剣が喉元に突きつけられる。
「え…!?」
「グレイグよ!その災い呼ぶ者を地下牢ぶち込むのじゃ!」
「何…!?」
周囲に控えていた兵士が、ゆうしゃ に槍の先を向ける。
「皆の者も知っておろう! 勇者こそがこの大地に仇なす者! 勇者こそが邪悪なる魂を復活させる者じゃ!!」
ゆうしゃ は王を振り返った。青く濁った瞳がこちらを見下ろしている。その目にあるのは、侮蔑、嘲笑……憎悪だ。しかし、ゆうしゃ にはそんな感情を向けられるいわれはない。
「どういうことですか!?」
「しらばっくれるな!!」
グレイグと呼ばれた男がゆうしゃ を制する。
「乙女の姿で我らを惑わそうとしたのだろうが、我が王はあのように聡明なお方。勇者が何者であるかわかっていらっしゃったのだ!! お前には不運であったな!!」
勇者が何者か。それは、ゆうしゃ 自身が知りたかったこと。
「よし! この者を捕らえよ!」
しかし、これではまるで。
ゆうしゃ は床に組み伏せられ、武器や荷物を取り上げられる。ゆうしゃ を床に押さえつけたグレイグの腕は、容赦なくゆうしゃ の細い腕を締め上げていた。
これではまるで、罪人だ。
痛みの中、ゆうしゃ はそう思った。
続