1章『その名は勇者』
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「デルカダールまでは、普通、馬でも一日と半分はかかるんだよ」
メタすけは言う。
「普通って事は、普通じゃない行き方があるの?」
「舗装されてない山道とか、抜け道はいくらでもあるよ。でも、魔物が多いから、冒険初心者の君にはおすすめしないね」
かくして正規のルートで一日と半分をかけてデルカダールへたどり着いたゆうしゃ は、まず人の多さに圧倒された。町は三層構造になっていて、上に行けば行くほど、お金持ちが住むのだと門番の兵士が教えてくれた。しかし何よりも圧倒されるのは、奥に控える大理石の城だ。絵本の挿絵でしか見たことのない、三角の屋根と真っ白な壁。
「すごい……」
「あんまりきょろきょろしないでね、田舎者みたいだから」
「田舎者だもの。ところでメタすけ、どうして袋から出てこないの?」
村を出てからずっと、メタすけは道具入れ用の麻袋の中に入っていた。呼吸が出来るようにわずかに口を開けた袋の中から、大きな二つの目がこちらを見ていた。
「魔物が町中を歩いていたら普通はびっくりするものだよ。普通に一緒に生活しちゃう君の方がおかしいの」
「そういうものなの?」
ゆうしゃ はメタすけと常に一緒だったせいか、あまり魔物に対して恐ろしさや嫌悪感は抱かなくなっていた。襲ってきたら対応はするが、自分から襲いに行くことはしない。メタスラならば話は別だが。
「とりあえず、お城に行こうか」
「……悪いんだけどゆうしゃ 、一人で行ってもらっていい?」
「えっ!? なんで、『何処までもお供します姫!』て昨日言ってたじゃん!」
「そんなこと言ってないよ!! ほら、僕みたいな魔物、しかも激レアの僕がお城になんか行ったら騒ぎになっちゃうよ。勇者が魔物を連れて王様に会いに行くなんて前代未聞だし」
「そうかな、昔読んだ本には魔物を仲間に加えて魔王と戦う勇者もいたよ」
「それは物語の話! いい? 僕はいったん別れて行動するけど、ちゃんと君と合流するから!!」
「何処で合流する? 目印とか決めておいた方が良い?」
「大丈夫、僕はちゃんと君を見つけるから、君は前だけ見てて」
「? わかった……ちゃんと合流してね?」
物陰でメタすけを袋から出すと、メタすけはするすると物陰から物陰へと移動していく。
昔から、メタすけはたまに居なくなることがある。心配してゆうしゃ が探しても、いつの間にか帰ってきて、祖父と一緒にご飯を食べていたりした。
「…よし!」
ゆうしゃ は城の方へと向かって行く。石畳の道は、村の道と違って堅く、靴の音が跳ね返ってなんだか軽やかだ。ゆうしゃ はまっすぐに城へと向かうが、大きな城門の前には兵士が二人立っていた。
……そういえば、王様ってそんな気軽に会えるものなんだろうか。王様と言えば国で一番偉い人で、色んな人に守られている存在のことじゃないのか……。
「どうした、城に何か用か」
「はっ、はいっ……」
じっと見ていたせいで怪しまれたのだろう。兵士に声をかけられ、ゆうしゃ は裏返った声を出す。
「あ、あの……私、王様に会いたくて」
「王に? 王はお忙しい、お前のような田舎者に割いている時間はないぞ」
「あの、私、実は勇者で……」
「勇者? お前のような小娘が?」
兵士は隣にいた別の兵士と一緒に笑い出した。……馬鹿にされてる。しかし、いきなりそんな話をして、わかってもらえないのも無理はないと思った。自分でさえ、自分が勇者だという話を信じられていないのだから。
「そうだ……」
ゆうしゃ は服の下、首から提げていたペンダントを引っ張り出し、兵士に見せた。
「これを、王様に見せたいんです! おじいちゃんが遺してくれたものなんですけど、王様ならわかるって言われて……」
「どれどれ……?」
兵士のひとりがゆうしゃ の手の中をのぞき込んだ。値踏みするようにしばらく眺めた後、目を見張り、もうひとりを見た。
「! おい、これ…」
「え……あ……!?」
何かに気づいたらしい兵士が走り出し、中へ入っていく。もうひとりの兵士は先ほどとは打って変わって、ゆうしゃ を見ないように視線を逸らし始めた。
何かしてはいけないことをしてしまったのだろうか。問うよりも先に、走って行った兵士が戻ってきた。
「……先ほどは失礼しました。王がお会いになるそうです」
どこか緊張した様子で、兵士は言った。すこし様子がおかしいと感じたが、それよりもついに王様に会うことになった緊張の方が先行し、すぐに忘れてしまった。
兵士に連れられ、城の中へ入る。真っ赤な絨毯に、ぴかぴかと光る床。外から見たのと同じ、真っ白な大理石。どれも、絵本の中でしか見たことがないようなものばかりだ。
……改めて、とんでもないことになっているのだと思い知る。これから自分は、この国で一番偉い人に会うのだ。そして勇者とは何か、聞かなくてはならない。もしかすると、邪悪な存在と戦うことを求められるのかも知れない。
……出来るのだろうか、自分に。
▽