1章『その名は勇者』
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行きはよいよい、帰りは怖い……というが、今回ばかりは帰りの方がよいよいだった。魔物に襲われることもなければ、崖から落ちそうになることもなく、無事に下山した二人を、村の人たちは総出で出迎えた。
「神の岩に雷が落ちたから怪我をしてないか皆で心配しておったぞ」
皆が口々に心配を口にする中、ダンが二人に近付き、重々しく問う。
「ゆうしゃ よ、頂上で何が起こったのじゃ」
「はい。大きな魔物を見ました。鳥の姿をしていて、襲われたのですが……偶然、雷が落ちて魔物にあたり、なんとか窮地を脱することが出来ました」
ゆうしゃ が答え、ダンは頷く。
「ふむ、そのようなことが……何にせよ、無事で良かったわい。きっと神の岩に宿りし大地の精霊様が二人を守ってくださったのじゃろうな」
ダンは髭に埋もれた瞳を弧の字にして、二人の無事を喜んだ。
「それで、儀式のことは忘れておらぬな?」
「ええ、何が見えたかを報告するのよね」
エマは笑い、ゆうしゃ を見た。ゆうしゃ は頷いた。
「見渡す限りの海が見えたわ。お日様に照らされてきらきらしててね、あんな光景はじめて見たわ」
「エマは海が心に残ったのじゃな。して、ゆうしゃ はどうじゃ」
「私は、世界を見ました」
ゆうしゃ は先ほど目にした光景を、思い浮かべる。何処までも続く青い空と、何処までも続く青い海。日の光が大地を照らし、命を育む。
「空も、海も、大地も、世界を育む日の光も……命の大樹も、くっきりと見えました」
「うむ、この世界ロトゼタシアいかに広大かをイシの村しか知らぬおぬしらもわかったようじゃな」
満足したように、ダンは頷いた。
「この儀式はな、イシの村しか知らぬであろう若き者たちに、このロトゼタシア広大さを教えることが目的なのじゃ」
やっぱりね、と言いたそうにエマはゆうしゃ に笑いかけた。
「イシの村は深い谷あいにある地形のためか、はたまた大地の精霊の御加護によるものか、人はおろか魔物ですらなかなか近づかないのじゃ。平和な村じゃよ。穏やかな人柄の人たちばかりで、生活も自給自足で事足りているから、滅多なことでは村の外へ行くこともない。じゃが、おぬしらはまだ若い。いつかこの村を出ることもあるかもしれぬ。どのような人生を送るのかは、おぬしらが好きに選べるのだということを、わしは言いたかったんじゃ」
ダンの言葉は、ゆうしゃ の心に深く染みこんでいった。
世界を見た。世界を見たのだ。ゆうしゃ は、イシの村しか知らなかった。イシの村が世界だと思っていたのだ。
だが、神の岩から見えたのは、イシの村よりも大きく、何処までも広がる雄大な光景だった。
「さて、ゆうしゃ や。儀式が終わったことをペルラに教えてあげなさい。おぬしを誰よりも心配して追ったぞ」
ダンの言葉が終わるよりも、ゆうしゃ の腹の虫が鳴く方が早かった。
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