序章『未来は知っている』
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とぷり。闇の中へと沈んでいった。目を開けているのか、閉じているのか、さっぱりわからない。
闇の中で、誰かが歌を歌っている。母がいつも歌ってくれるものではない。眠れない日、怖い夢を見た日、エマと喧嘩した日、悪戯をして怒られた日、母はいつも布団越しに優しく身体を叩きながら、諭すように子守唄を歌ってくれる。
だけどこの歌は違う。母の、諭すようなものではない。ゆらゆら、ゆらゆら、と。思う存分に甘やかすようなもの。この微睡みの中にいつまでもいたいと思った。この微睡みの中にいつまでも、離れずに。このまま死んだっていい。この微睡みの中にいられるのなら。
ぽたり。冷たいものが頬を叩いた。手を伸ばして頬に触れ、閉ざした瞼を億劫に思いながらあげる。眩しさに一瞬瞳を閉じて、今度は恐る恐る、少しだけ開けた。眩しいと感じたのは、いま真っ直ぐに振り下ろされた金属のようだ。それは酷くゆっくりとした動作に思えて、思わず笑ってしまう。ほんの一瞬の出来事だっただろう。押さえつけられていた右腕を振るい、腕で振り下ろされたものを受け止める。薄く開けた瞼の向こうで、男が驚愕したのがわかった。いやぁ、愉快、愉快。
「女の寝込みを襲うなんて、酷い奴らだね」
ひとつ、宣言。もう片方、抑えられた左手を振るって両腕を両隣の存在に叩き付ける。鼻っ柱をへし折られた二人は鼻血を出して地に倒れる。もんどり打ってる二人を尻目に、立ち上がって、お尻についた埃を払う。ありゃ、雨が降ってきたようだ。このまま寝てたら風邪を引いたかな。だとしたら、起こしてくれたこいつらには感謝しないと。腰に下げた剣を引き抜き、二本、両手に構える。
「お礼はもちろん、こいつでね!」
雨飛沫の中、女が舞う。迫る剣を軽くいなして、大の男相手に軽々と手を、足を、踊るように、歌うように。とても、気持ちが良かった。
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