春に其世を編む
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入学式はお手本のようなスムーズさで終わりを迎えた。新入生代表として登壇したのは今朝目が合った少年だった。赤司征十郎。名前が呼ばれた途端、周囲がざわついた。隣の席の女子が小声で「赤司家の」と囁き、その隣が「全国模試一位の」と返していた。
壇上に立つ姿は堂々としていて、声は落ち着いて、よく通るものだった。生まれつき、天性のモノなのだろう。原稿を読んでいるようには見えなかった。発される言葉の一つ一つが、あらかじめ彼の中にあったものをそのまま口にしているような、そういう質感だった。
その言葉を真昼はただ静かに聞いていた。聞いてはいたが、内容はそこまで覚えていなかった。単純に興味がなかったのだ。有名であるとか、名家の子であるとか、そういうことに。それはあくまでその個人を構成する要素でしかないからだ。
むしろ気になったのは講堂の天井だった。高く、鉄骨がアーチ状に組まれていて、蛍光灯の光が白く反射している。窓は南向きで午後になれば日が差し込んで、きっと埃が光の中で踊る。この講堂はきっと多くの出会いと別れを見送って来たのだろう。
式が終わると、新入生はそのまま解散となる。教室でホームルームが短くあり、担任が配布物を配り、明日の時間割と持ち物が伝えられ、それだけ。
あっけないほど静かに、帝光中学校での最初の一日は閉じた。
校門を出ると午後の日差しが傾き始めていた。朝よりも風が緩んで桜はまだ散り続けては世界を彩っている。もう数週間で彼らも役目を終えるだろう。
真昼は鞄の中の調査票を指先で確認した。希望欄は相変わらずまだ白いまま。
その帰り道、駅に向かう途中で潮の匂いがした。遠く離れているのにほんの一瞬だけ。それは風向きの気まぐれだったのかもしれない。けれど真昼は少しだけ足を止めて、その方角の空を仰いだ。
ビルの向こうに、きらきらと輝く海は見えなかった。
壇上に立つ姿は堂々としていて、声は落ち着いて、よく通るものだった。生まれつき、天性のモノなのだろう。原稿を読んでいるようには見えなかった。発される言葉の一つ一つが、あらかじめ彼の中にあったものをそのまま口にしているような、そういう質感だった。
その言葉を真昼はただ静かに聞いていた。聞いてはいたが、内容はそこまで覚えていなかった。単純に興味がなかったのだ。有名であるとか、名家の子であるとか、そういうことに。それはあくまでその個人を構成する要素でしかないからだ。
むしろ気になったのは講堂の天井だった。高く、鉄骨がアーチ状に組まれていて、蛍光灯の光が白く反射している。窓は南向きで午後になれば日が差し込んで、きっと埃が光の中で踊る。この講堂はきっと多くの出会いと別れを見送って来たのだろう。
式が終わると、新入生はそのまま解散となる。教室でホームルームが短くあり、担任が配布物を配り、明日の時間割と持ち物が伝えられ、それだけ。
あっけないほど静かに、帝光中学校での最初の一日は閉じた。
校門を出ると午後の日差しが傾き始めていた。朝よりも風が緩んで桜はまだ散り続けては世界を彩っている。もう数週間で彼らも役目を終えるだろう。
真昼は鞄の中の調査票を指先で確認した。希望欄は相変わらずまだ白いまま。
その帰り道、駅に向かう途中で潮の匂いがした。遠く離れているのにほんの一瞬だけ。それは風向きの気まぐれだったのかもしれない。けれど真昼は少しだけ足を止めて、その方角の空を仰いだ。
ビルの向こうに、きらきらと輝く海は見えなかった。