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第一章 力と宿命

 まるでゾンビのように立ち上がる体力に化け物だと思うほど。更に禍々しいオーラは益々色濃くなり恐怖を煽るのだ。最初に倒した魔物達も親玉のオーラに引き寄せられるように集まり始める。再び大量の魔物達に囲まれた2人。

ウィルマは埒があかないとでもいうように顔を歪めるとしがみつくシルフィを立たせる。驚いた妹を連れその場から去るように走りだす。それを魔物達は追いかけ始め親玉も動き始めた予想通りだった。魔物達の標的は街や住民ではなく、ウィルマとシルフィの2人へ変わっていた。街から離れるように道を走ればくっつくように魔物達は追いかける。

 丘を越え林の中へ入りシルフィを背に隠し薙刀を構える。無数の魔物が集まり黒い煙となった魔物は雄たけびを上げれば、一瞬にして分裂し一斉に飛びかかり始めた。ウィルマは迫る攻撃に片手を向ければ青い魔方陣が2人の真下に現れる。そして見えないバリアーが張られ次々に跳ね返される。
 
 だが、親玉のとてつもない咆哮が襲いバリアーが破壊された。吹き飛ばされそうなのを必死に堪える2人。最初よりも、さっきよりもまた格段に能力が上がっている。
 
(どうなっているんだ…)

 ウィルマは親玉の能力の上昇に狼狽え始める。こんな魔物見たことが無い。魔力を高め始めた彼女は自身から青いオーラが発せられる。

『オーロラ・フリーズ』

 立ち上る青い光は空へと勢いよく漂い始めると七色のオーロラが宙を漂う。幻想的な光景にシルフィは「うわぁ!」と目を輝かせうっとりとした。
 
 広範囲の上級魔法に確実に命中した魔物。急激な低温、湿度低下、凍結。そして錯乱、幻覚異常付与の魔法に全ての魔物が喰らい過半数が黒い煙を放ち消えていく。親玉も効いているのか逃れるように狂い始めた。

「効いてる!」
「いや、待て!」

 喜びを見せたシルフィだが未だ険しい顔のウィルマは一層親玉を睨む。彼女の言う通り暫くすると親玉は魔防の威力をかき消し怒りを増長させる。悪魔のような精神に手も足も出せなくなってしまった。ウィルマの怒涛の攻撃が続いたが親玉が動き始めその大きな斧を天から地へ振り落とした。途端、振り落とすと同時に衝撃波が放たれ二人を襲い掛かる。

「っ!」

 あまりにも早い衝撃波にとっさにシルフィを横に押す。押されたシルフィは衝撃波から免れたが姉は爆発と共に砂煙に撒かれた。

「ウィル姉ちゃん!!」

 悲鳴にも似た声でシルフィは駆け寄ろうとしたが次の一手が親玉から繰り出される。

「ヒッ…!」

 向かってくる衝撃波に思わずギュッと目を閉じるとシルフィを囲むように青白い光が包まれる。砂煙が晴れると衝撃に身体を至る所を焦がしたウィルマが妹に手を向けバリアーを張っていた。

 爆発寸前、ウィルマ自身もバリアーを張ったが早すぎて完璧にはバリアーを張れずダメージを受けたのだ。さっきの魔法により大きく魔力が無くなったことで体への負荷が大きくなってきた。体に力が入らず頭も思うように働かない。

「ウィル姉ちゃん!」
「っ、危ない!!」

 駆け寄るシルフィに気が付いたがその後ろに映る親玉の動きにウィルマは緊迫した声を出した。ハッとシルフィは振り返れば今まさに斧を振り落す姿が目に入る。無情にも落とされた斧は空気を切り彼女がいた建物を破壊した。
 
 大きな破壊音と崩れる物音。再び砂煙が無い上がり周囲を包み込む。息を呑み目の前が真っ白になったウィルマ7は一目散に駆けだした。が、親玉は続けて攻撃し始め巨大な足を後ろに引きウィルマを蹴り飛ばす。上手くバリアーを張り攻撃を受け止めるが異常なほど強くなった攻撃力に反動で自らにダメージを追う。しかし今の彼女にはそんなダメージは無に等しい。ウィルマの瞳に映るのは怒りに燃える炎。
 
 ウィルマはバリアーを解除すると残り少ない魔力で薙刀に氷付与を付け狙いを定める。また親玉は足を動かし蹴ろうとした瞬間、ソルフィアは光のような速さで移動し親玉の膝裏を一発攻撃した。片足のみバランスを取っていたあっという間に後ろに倒れ始める。落下音が轟く中、粉砕した建物の中に取りこされたシルフィに駆け寄る。
 
 魔法で全てを吹き飛ばそうとした時、突然粉砕した瓦礫の真ん中から勢い良くシルフィが飛び上がり現れた。驚き目を見開いたウィルマの前でケロッとした様子で現れたのだ。


「あービックリした!」
 
 無傷で現れた妹に終始茫然としていたが良く思えば、妹は超怪力の持ち主だ。こんな状況でも打開できる持ち主だと冷静に思ってしまった。シルフィが再びウィルマの後ろに隠れる。シルフィの顔は不安は消えず一層強まる絶望感。

 ゆっくりと魔物を見やるウィルマは後ろにいるシルフィへまた視線を戻す。無意識にだろう。不安により強く握られる妹の手から恐怖が伝わるのだ。何度か同じように視線を送る。ソルフィアは静かに瞼を閉じた。頭に浮かぶ幾度の妹の笑顔。無邪気にこちらを呼ぶ声が脳内に木霊する。息を大きく吸い何かに決心したのか再度魔物を見やった。

 
 この世界の未来を

 妹の未来を消させないーーー
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