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第一章 力と宿命

『……れ、よ』

 小鈴が鳴るような音にシルフィの視線はハッとする。無意識に見渡すが荒れ果てた状況しかか映らない。しばし無でいた時、今度こそはっきりとした声が耳、そして脳内まで木霊した。

『選ばれし者よ』

 凛とした声がどこからともなく聞こえた。シルフィは再び見渡すと、天高い空から一筋の光が降り立つ。その光は真っ直ぐに降り、凍り付くウィルマへと照射された。温かな柔らかい光。光は彼女を包むと固く覆われた氷が溶け始めた。

 隣に立つシルフィは驚き戸惑っていると、氷はすぐに解けきり青白くなっていた姉の体は通常の温かさを取り戻した。そしてーー

「……シルフィ?」

 静止していたウィルマが動き出し、切れ長の瞳はしっかりとシルフィを捉えた。

「っ、ウィル姉ちゃん!」

 嘘のように全快した姉にシルフィは大喜びで抱き着くとその勢いで地面へ倒れこむ。鈍い音と倒れた衝撃にウィルマは顔をしかめるが抱きしめるシルフィは「良かった、良かったぁ!」と半泣き状態。なぜシルフィは泣きそうなほど喜んでいるのかと思うが記憶が蘇り始める。親玉と対峙していた事も、身が凍る魔力も。

(そうか、あたしは……)

 体を侵食する氷の感覚。目の前に泣きじゃくるシルフィの顔。

 死を覚悟していた。最上級魔法を唱え対価として身を犠牲にする可能性のある魔法だったからだ。小型魔物に対し多く低級魔法を唱えていたこともあり、最上級魔法を唱える前に魔力が減った事も今回の対価へ繋がったと今、分かった。

「ウィル姉ちゃん良かったよ~!」

 姉が生きている事を全身で感じるようにシルフィは痛いくらい抱きしめる。それが怪力だからかウィルマはしかめっ面が苦痛の表情へ変わる。

「分かったから離れて」
「やだやだ!!」

 子供のように駄々をこね始めウィルマは少々呆れを感じる。けれどもこうして再び生きているなんて不思議だった。そしてもう一つ。くっつくシルフィから今まで微塵も感じなかった魔力にウィルマは驚きに満ちていた。


『あと少し遅かったら危なかったわね。ウィルマ』

 鈴の声が二人の耳へ届く。それは涼風を思わせる透き通るような声だった。

「この声……」

 あの「選ばれし者よ」と言った声と同じだった。シルフィは忙しなくキョロキョロしているとウィルマは小さく笑い始める。

「助かったよフェン。姿を見せてくれるか?」
「えっ!?」

 姉の親しみが込まれた言葉に更に驚いたシルフィ。2人の前にやっと声の主が現れた。それは煌々と光る白い光だった。

「丸い光?」

 シルフィは現れた光に覗き込むと突然光はパッと弾けると小さな小さな少女が宙に浮かんでいた。約20㎝くらいの身長だ。ベルベットのように滑らかに滑る純白の髪。ウェーブがかかっており背中まで伸び綺麗にまとまっている。柔らかな印象を持つ目元に黒の瞳。白い素肌にベージュのローブをまとっている。鼻立ちには幼さが残っているが端麗な容姿だった。

 弾けた事にビックリし飛びのいたシルフィは目を真ん丸にする。少女は閉じていた双眸を開くと穏やかに微笑んだ。

「初めましてシルフィ。私はフェン。精霊よ」

 フェンと名乗った精霊は礼儀正しくお辞儀をすると再び麗しい笑顔を見せた。

「…しゃ、喋ったー!!」
「へ?……っ!?」

 ビックリ仰天したシルフィは怖がる事もなく、むしろ興味津々で大声を上げその小さな精霊を腕の中に収めた。
 
「なにこれ初めて見た! 可愛い!!」

 目をランランとさせギュウギュウ抱きしめるシルフィと捕らわれたフェン。フェンは唖然としているウィルマに助けを呼ぼうとするがシルフィの怪力によって声が出せず段々と意識が遠のいていく。

「シルフィ、もう止めな」
「えっ?」
「死にそうだよ」

 フェンの屍に近づく表情にウィルマは気が付くとようやく声をかけシルフィを止めにっ入った。キョトンとしたシルフィだがウィルマに促され腕の中を見れば口をパクパクし目を真っ白にさせたフェンが見えた。

「あ、ごめんなさい!!」

 シルフィはパッと開放し謝るが宙に浮かんでいるフェンはもうすぐ死に近づいてると言っても過言ではないくらい顔面蒼白になっていた。この経験からフェンはシルフィは危険だと思い始めた。
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