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第一章 力と宿命

 シルフィはさっきとは違う異様な空気に無意識に冷や汗が流れる。膨れ上がる親玉の力に全員が固唾を飲んで見守っていた。再び親玉の咆哮が上がる。それは前よりも格段に力が上がり全てを吹き飛ばすほどの力だった。ほぼ全員が飛ばされシルフィも守っていたバリアーが割られ空へと吹き飛ばされた。

「わああぁー!」
「シルフィ!」

 何とか持ちこたえたウィルマだが吹き飛ばされたシルフィに気が付き光のように近づき受け止めた。空中へ一回転すると受け止めながら壊れた家屋に着地した。

「大丈夫か?」
「う、うん」

 見渡せばさっきの咆哮でやられた住民や精鋭部隊達が横たわり呻いている。親玉の驚くほどの変わりようにウィルマ自身も何が何だか分からなかった。分かったことは親玉の能力が跳ね上がった事だけ。悍ましい親玉のオーラに悔しそうに唇を噛みしめる。

(住民はもう戦えない。精鋭部隊も壊滅…)

 ちらりと横を見れば不安そうな妹、シルフィの顔が飛び込む。絶対絶命とでも言いたげなその青い瞳にいつも見せる微笑みを浮かべ、恐怖で震える妹の手を優しく包む。

「大丈夫、すぐ終わらせるから」
「で、ででも!」

 姉の言葉がにわかに信じられなくて震える声でシルフィは反発する。住民はほぼやられ戦闘不能。精鋭部隊も戦える人数は数えるほど。親玉は暴れまくり、近くにいる魔物達は溢れんばかりに襲い来る。こんな状態で余裕にも見える姉の言葉はシルフィにとってとてもじゃないけど信じられなかった。

「早く帰ろう、今日はごちそうだよ」
「……え?」
「今日はシルフィの誕生日だろ?」

 ふんわり笑ったウィルマは握った手を放し親玉へと対峙する。忘れていたシルフィは一瞬キョトンとなる。が、視界から消えた姉に思わず手を伸ばすが風を掴むだけ。

 破壊され立ちまち火が渡る街の中。まだ残された高く伸びる建物の上に薙刀を掴みウィルマは親玉を見据えた。火の粉が上がり熱風がウィルマの艶やかな短い髪をさらう。目の前に広がるのは無数の魔物と中央には力を増した親玉。後方には苦しみ倒れ込む住民や精鋭部隊。不安げな顔で見つめるシルフィ。
 
 魔物達は一斉にウィルマただ一人に飛びかかる。全てが集まっているためまるで巨大な黒い煙のようになった魔物達に彼女は薙刀を強く握りしめる。
 
 襲い掛かる瞬間、彼女は一進に薙刀を指すとその先から強い魔力が集まり濃い青い光が集まる。柄から氷の閃光が放たれ黒い煙となった無数の魔物達を一瞬で氷漬けにしたのだ。その高い魔力に見守っていた住民達は驚きの声を上げる。

「あいつ氷の使い手だ!」
「凄い、一撃で!」

 見事に氷に覆われた魔物達に圧巻の声を上げる。シルフィ達のミルファ族は基本水属性だがまれに氷の力も授かり高い魔力を持っていると噂される。
 
(凄い、凄いよ!!)

 ただ一人ウィルマの氷の力の事を知っていたシルフィはまたもや姉を誇らしげに思うのだ。覆われた魔物達は氷が粉砕し黒い煙を放ち消えていく。魔物の大半消したウィルマに大きな歓声が上げられる。

 同胞を失った親玉は怒りの声を上げ始めると大きな体が動き始める。一度動けば鈍い足音と揺れが止まない。斧を真上に振りかざした魔物は強化されたスピードとパワーでウィルマに振り落とす。空高く飛び上がり斧の攻撃を防ぐと片手に魔力を溜める。

『ブリザード』

 手のひらから暴風雪を発射し親玉の顔へと向ける。しかしそれを大きな腕で魔物は防ぐ。風雪に塗れた親玉の腕は徐々に凍っていくが、それを力技で腕を振るい止める。
 
「チッ……」

 一筋縄ではいかない親玉に苦虫を噛んだような顔をするウィルマは立て続けに魔力を高める。

『フリーズ・ランサー』

 再び薙刀の柄を親玉に向けると柄の先に魔方陣が展開され、大量の氷で形成された槍が魔物に発射される。

 幾つもの氷の槍が親玉に命中し悲痛な声を上げ始める。休む間もなく発射され親玉を押すウィルマにシルフィは「頑張れソル姉ちゃん!」と応援する。再び体制を崩した魔物にウィルマは魔法を止めると親玉の真上に上がり始める。

『フローズン・コア』

 魔力で形成された巨大な氷の礫が魔物の上から直撃し勢い良く地面へ倒れた。大きな地揺れと物音が響き渡る。ウィルマの猛攻が効いたのか親玉は動くかなくなり住民達、精鋭部隊達が喜び、歓声の声が上げられた。

 空から弧を描き着地したソルフィアだが片膝を付き肩で大きく息を吸う。中級、上級魔法を使い魔力を大幅に使い体に負担がかかってた。氷魔法は水魔法より威力が高い分、消費魔力が大きいのだ。

「ウィル姉ちゃーん!」

 無邪気に声を上げ近づいてきたシルフィは勢いよくウィルマに抱き着く。

「ウィル姉ちゃんやっぱ凄いよ! あっという間に倒しちゃった!!」

 抱き着きながらも興奮気味のシルフィは自分の事のように喜んでいる。無邪気にはしゃぐ妹に子供のようだ、と少々呆れる。そんな喜びもつかの間。倒れていた魔物はピクリと肩を震わせるとその巨体がゆっくり動き始めた。

「っ!?」

 まさかとウィルマとシルフィは同時に親玉へと向ければ倒れていた魔物が動き立ち上がっていたのだ。その立ち上がった親玉に再び住民達の悲鳴が上がる。

(魔法をもろに食らったのに…)

 あり得ないとでもいうようにウィルマは驚愕してしまう。これほどまでに氷魔法を食らい立ち上がった魔物は見たことが無い。ましてや上級魔法で倒れない魔物なんて初めてだった。

「ウィル姉ちゃん…」

 未だに抱き着くシルフィは恐怖で震えている。何度も立ち上がるその親玉の異様な体力に怯えている。
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