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第一章 力と宿命

 世界を覆うほどの真っ白な光が止む。それと同時に身が凍えそうなほどの冷気を感じ身震いをしてしまう。シルフィは恐る恐る目を開け数回瞬きをする。最初に捉えたのは微動だに動かず全身氷漬けとなった親玉だった。氷のオブジェのように凍結された親玉は言うまでも無く戦意を失い動く気配もなかった。


(凍ってる……っ!?)

 ハッとしウィルマの姿を慌てて探すと少し離れた所に一人の人物が固まっていた。ざわりと胸がざわめく。まさかと思う反面、そうであってほしくないと拒否する心が入り混じる。鉛のように動かない足を引きずりその人物へ近づけば唖然とし、脳内が真っ暗になる。

 ウィルマは親玉を内部まで凍りつかせる最上級魔法を唱えたのだ。己の身に大きな代償を起こる事を知りながら最後まで唱えるのを躊躇していた。

「ウィル姉ちゃん!!」

 弾かれるようにその場へ駆け寄る。触れれば手から伝わる冷感に嫌でも凍結しているのだと実感させられた。溢れる涙に視界は歪む。必死に自分の熱で溶かそうとするが無意味だった。なんでこんな事になったのだろうか。なぜ故郷が、なぜ姉がこんな目に遭わなければならないのか。

「ウィル姉ちゃん…っ」

 小さな揺れと地鳴りが耳に入る。ふと耳を澄ませば徐々に揺れや地鳴りが大きくなる。驚いている最中にもそれは大きくなる。氷漬けにされた親玉の氷が軋み始める。音が鳴り警戒するようにシルフィは見やれば、氷は次々にヒビが入り始めた。

(そんな……)

 愕然とする前で無情にも親玉の氷は崩壊した。次々と氷の破片が地面へ崩落し粉砕する音が木霊する。戦意を喪失したはずの親玉の目が邪悪に光りゆっくりとその巨体が動き出した。再び襲う絶望感にシルフィは恐怖に身が激しく震える。親玉の復活の大きな咆哮にあっという間にシルフィは怖気づいてしまった。ウィルマにしがみつくが彼女からは一切動く気配も無い。

「ウィル姉…ちゃん?」

 恐怖の中、動く頭は最悪な答えが浮かび始める。
 
 もしかして姉は…
 ウィル姉ちゃんは…

「…やっ…嫌っ! 嫌だよウィル姉ちゃん! 動いてよ!!」

 泣きわめくシルフィだがその訴えは届かない。完全に動けるようになった親玉はその大きな腕でシルフィ、ウィルマを叩きつけようと空へ振りかざす。
 
「っ!?」

 親玉の動きに気が付き振り返れば振り上げた腕が降ろされる瞬間だった。恐怖と怯えそして絶望。スローモーションのように親玉がその腕を降ろした瞬間、シルフィの体がまばゆく光り出した。漂う邪気を浄化するその光はおさまることをしらない。親玉はその聖なる光に腕が止まり苦しそうにうめき始める。

(なに、これ…)

 自身から放たれる光にシルフィは驚愕し目を見開く。それと同時に今まで感じたことも無い身体の感覚にも驚くのだ。底から生まれ始め湧き上がる彼女の魔力。シルフィは何かに導かれるように片手のひらを苦しむ親玉へ向ける。湧き上がる魔力が手のひらへ集まり始める。

 親玉も最後の力を振り絞ると巨大な口を開けると口内に赤い光が集まる。魔力が膨れ上がり親玉は口から炎を吐き出した。
 周囲の樹々が焼け枯れ一直線にシルフィの元へ向かう。魔力を十分に高めたシルフィは脳内に浮かび上がる魔法を詠唱した。

『アクア・トルネード』

 手のひらから大きな青い魔方陣が浮かび上がると、中心から水流が現れ渦を巻き発射された。高速の水流は向かい来る炎を意図も簡単にかき消すと勢いは落ちずそのまま魔物へ直撃する。大量の水流があっという間に親玉を飲み込みと親玉は苦しく叫びながら黒い煙を放ち消え去った。
 
 残ったのはうっすら残る霜と水しぶきにより濡れる木々。そして自分がやった行動に茫然とするシルフィと凍り付くウィルマ。小刻みに震える手のひらを見つめるシルフィは未だに自分が魔法を使い親玉を倒した事が信じられないでいるのだ。弾かれるように見上げれば冷たく覆われる姉の姿。途方に暮れ、ウィルマを抱きしめるように氷へくっつく。

「……誰か助けてぇ」

 まだうっすらと感じる姉の気。だが何もできないシルフィは大きな瞳から涙が伝うのみ。
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