第二章 運命の悪戯か
あの記憶は思い出すことなかった。消しておきたかった、留めておきたくなかった。
憎い、赦さない。
でも、私はーーー
第二章 運命の悪戯か
シルフィは生まれ育った地に名残惜しそうに振り返る。小さな丘の上に立ち、今までいた場所を見つめれば少しだけ気後れしてしまった。これからの旅の期待感があるのは間違いない。ただやはり故郷を離れるのは寂しさが募るだ。そんな彼女の心情に気が付いたフェンは「シルフィ」と一声呼ぶ。優しい風がシルフィの結っている長い髪を遊んでいる。しばし故郷を見つめていたシルフィは寂しさを振り切る思いでこれから進む道へ顔を戻す。
「大丈夫、行こう!」
力強く足を運ぶシルフィの姿にホッと安心したフェンは軽く微笑むと後を付いていった。が、念のために口を開く。
「本当に良かったの?」
「何が?」
「旅に出る事?」
「なんで?」
「何でって言われても…」
本当にこの子は分かっているんだろうかと再び不安感が襲う。
シルフィが思ってるほどこの旅は楽しい物じゃない。楽しさなんて微塵もないかもしれない。旅に出た事を酷く後悔するかもしれないほど過酷なものなのだ。暗い表情になったフェンにシルフィはニコッと笑いかけた。
「だって私達しかできない事なんでしょ? 私達が世界を平和にさせる。邪導師を封印できなくて復活しても私だったら戦えるんでしょ?」
「そ、そうだけど」
「じゃあやっぱり迷う事無いよ! 私はどんな運命でも受け入れるよ!」
「っ!」
「もしかしたら死ぬかもしれない。それはそうかもしれないけど、でも。でも私は負けないよ!!」
自信に満ちた表情でそう告げたシルフィは更に陽だまりのように微笑む。
「あーこれからが楽しみ!」と大きく天に腕を突きあげ伸びをした。
彼女の後ろで驚きで動かないフェンは唖然と見つめていた。こんな子初めて見る。どこにそんな自信を持っているのか。なぜ言い切れるのか。フェンはただただ強い意志を持った彼女瞳に心が揺さぶられる。自分だけが不安、迷いを抱いていた事に恥ずかしくなったのだ。
『シルフィはそういう奴なんだ』
別れるときに言っていたソルフィアの言葉が頭をよぎる。あれはどういう意味だったのだろうかと思っていたが今、はっきりと理解した。
(……面白い子)
物怖じしなく正義感が強い。感情論で動いて恐らく後先考えない。だけども不思議と彼女から不安を感じない。シルフィはそういう子なんだ、とフェンは理解した。
「なに笑ってるの?」
無意識に頬が緩んでいたのかシルフィは軽くフェンを睨む。ぷくっと頬を膨らませ怒り始める彼女にフェンはたまらず吹き出した。
「面白いなぁ、て思って」
「なっ!? 面白いってなにが?」
「そういうところ」
「どういうところよ!?」
意味分からない!と言い放つとシルフィは勢い良く顔を背ける。笑い転げるフェンに恐る恐る横目で見やるとシルフィも笑みがこぼれた。
「これからね宜しくシルフィ」
「うん、宜しく!」
様々な思いを胸に二人は顔を見合わせると弾けるように笑みを向けた。
「そういえばこれからどこへ行けばいいの?」
「東の方へ向かいましょう、まずここの領域を抜け出さないと。ずっと東へ行くとファレーズ(大門)があるわ。そこへ行きましょう」
」
シルフィはわくわくしながら問うとフェンは東の方へ向き口を開く。これから彼女にとって未知なる場所へと足を踏み出す。初めての他の種族の領域へと進むのだ。
一面に広がる淡い緑の草原に一歩ずつ踏みしめる。静寂の地『マラキア』を離れてからずいぶん経つ。音一つも無い地を出ると見渡す限り草地が広がる草原に辿りついた。優しい風がとシルフィの頭上に結っている長い髪を遊ぶ。
『神秘の湖 ロト・ラージ』から出て幾分経った頃、『マラキア』に着いた。普段受けている水とは違い、自身を包み込むような空気、風にシルフィは感動した。興奮しながら物珍しそうに首をせわしく動かす様子にフェンは小さく笑った。ようやく外界をじっくり堪能できシルフィは駈け出した。風を受けながら草原を走り回り外界に来たのだと強く思うことができた。
「新しい地はどう?」
「なんか、すごいねっ!!」
興奮が冷めないのか語尾が強まる。今にも腕を振り回しそうな勢いでフェンに答える。上手く言葉にできないのか短い言葉で終わったが目を輝かせる表情で十分だった。
(子供みたい……)
さっきの会話から感じていたフェンは今、落ち着かない様子の彼女を見て改めてそう思った。
シルフィは忙しく動かしていた首を止めるとずっと視線を送っていたフェンを見た。光を消していたフェンはにこやかな顔を浮かべている。そんな彼女に首を傾げた。
「なんだか子供みたいね」
「なっ、子供みたいってどういうこと!?」
「そのままの通りなんだけど」
「何それ! ひどい!」
憤慨したシルフィは頬を膨らませ始める。キッと睨みつけるがフェンは彼女の怒った顔がよほど面白いのかケタケタと笑う。
「そこが子供っぽいのよ」
「だからどこ!?」
意味が分からないとますます不機嫌そうに眉に皺を寄せる。感情豊かな所を自分は理解していなかったのだ。からかうと予想通りの反応を見せてくれフェンは楽しくて仕方が無かった。
「ふふ、おもしろい!」
再び転げ笑うような姿にシルフィは憤慨した。なによ!ち一言吐き捨てると腕組み顔を背けた。意味不明なことを言われ、それが面白いと告げられてもちっとも嬉しくなかった。
憎い、赦さない。
でも、私はーーー
第二章 運命の悪戯か
シルフィは生まれ育った地に名残惜しそうに振り返る。小さな丘の上に立ち、今までいた場所を見つめれば少しだけ気後れしてしまった。これからの旅の期待感があるのは間違いない。ただやはり故郷を離れるのは寂しさが募るだ。そんな彼女の心情に気が付いたフェンは「シルフィ」と一声呼ぶ。優しい風がシルフィの結っている長い髪を遊んでいる。しばし故郷を見つめていたシルフィは寂しさを振り切る思いでこれから進む道へ顔を戻す。
「大丈夫、行こう!」
力強く足を運ぶシルフィの姿にホッと安心したフェンは軽く微笑むと後を付いていった。が、念のために口を開く。
「本当に良かったの?」
「何が?」
「旅に出る事?」
「なんで?」
「何でって言われても…」
本当にこの子は分かっているんだろうかと再び不安感が襲う。
シルフィが思ってるほどこの旅は楽しい物じゃない。楽しさなんて微塵もないかもしれない。旅に出た事を酷く後悔するかもしれないほど過酷なものなのだ。暗い表情になったフェンにシルフィはニコッと笑いかけた。
「だって私達しかできない事なんでしょ? 私達が世界を平和にさせる。邪導師を封印できなくて復活しても私だったら戦えるんでしょ?」
「そ、そうだけど」
「じゃあやっぱり迷う事無いよ! 私はどんな運命でも受け入れるよ!」
「っ!」
「もしかしたら死ぬかもしれない。それはそうかもしれないけど、でも。でも私は負けないよ!!」
自信に満ちた表情でそう告げたシルフィは更に陽だまりのように微笑む。
「あーこれからが楽しみ!」と大きく天に腕を突きあげ伸びをした。
彼女の後ろで驚きで動かないフェンは唖然と見つめていた。こんな子初めて見る。どこにそんな自信を持っているのか。なぜ言い切れるのか。フェンはただただ強い意志を持った彼女瞳に心が揺さぶられる。自分だけが不安、迷いを抱いていた事に恥ずかしくなったのだ。
『シルフィはそういう奴なんだ』
別れるときに言っていたソルフィアの言葉が頭をよぎる。あれはどういう意味だったのだろうかと思っていたが今、はっきりと理解した。
(……面白い子)
物怖じしなく正義感が強い。感情論で動いて恐らく後先考えない。だけども不思議と彼女から不安を感じない。シルフィはそういう子なんだ、とフェンは理解した。
「なに笑ってるの?」
無意識に頬が緩んでいたのかシルフィは軽くフェンを睨む。ぷくっと頬を膨らませ怒り始める彼女にフェンはたまらず吹き出した。
「面白いなぁ、て思って」
「なっ!? 面白いってなにが?」
「そういうところ」
「どういうところよ!?」
意味分からない!と言い放つとシルフィは勢い良く顔を背ける。笑い転げるフェンに恐る恐る横目で見やるとシルフィも笑みがこぼれた。
「これからね宜しくシルフィ」
「うん、宜しく!」
様々な思いを胸に二人は顔を見合わせると弾けるように笑みを向けた。
「そういえばこれからどこへ行けばいいの?」
「東の方へ向かいましょう、まずここの領域を抜け出さないと。ずっと東へ行くとファレーズ(大門)があるわ。そこへ行きましょう」
」
シルフィはわくわくしながら問うとフェンは東の方へ向き口を開く。これから彼女にとって未知なる場所へと足を踏み出す。初めての他の種族の領域へと進むのだ。
一面に広がる淡い緑の草原に一歩ずつ踏みしめる。静寂の地『マラキア』を離れてからずいぶん経つ。音一つも無い地を出ると見渡す限り草地が広がる草原に辿りついた。優しい風がとシルフィの頭上に結っている長い髪を遊ぶ。
『神秘の湖 ロト・ラージ』から出て幾分経った頃、『マラキア』に着いた。普段受けている水とは違い、自身を包み込むような空気、風にシルフィは感動した。興奮しながら物珍しそうに首をせわしく動かす様子にフェンは小さく笑った。ようやく外界をじっくり堪能できシルフィは駈け出した。風を受けながら草原を走り回り外界に来たのだと強く思うことができた。
「新しい地はどう?」
「なんか、すごいねっ!!」
興奮が冷めないのか語尾が強まる。今にも腕を振り回しそうな勢いでフェンに答える。上手く言葉にできないのか短い言葉で終わったが目を輝かせる表情で十分だった。
(子供みたい……)
さっきの会話から感じていたフェンは今、落ち着かない様子の彼女を見て改めてそう思った。
シルフィは忙しく動かしていた首を止めるとずっと視線を送っていたフェンを見た。光を消していたフェンはにこやかな顔を浮かべている。そんな彼女に首を傾げた。
「なんだか子供みたいね」
「なっ、子供みたいってどういうこと!?」
「そのままの通りなんだけど」
「何それ! ひどい!」
憤慨したシルフィは頬を膨らませ始める。キッと睨みつけるがフェンは彼女の怒った顔がよほど面白いのかケタケタと笑う。
「そこが子供っぽいのよ」
「だからどこ!?」
意味が分からないとますます不機嫌そうに眉に皺を寄せる。感情豊かな所を自分は理解していなかったのだ。からかうと予想通りの反応を見せてくれフェンは楽しくて仕方が無かった。
「ふふ、おもしろい!」
再び転げ笑うような姿にシルフィは憤慨した。なによ!ち一言吐き捨てると腕組み顔を背けた。意味不明なことを言われ、それが面白いと告げられてもちっとも嬉しくなかった。