深紅に思いを馳せて
ホテルの部屋に帰り、入浴とスキンケアを終えて一息つく。
父と対面させた感触は悪くなかった。あの子に興味を持ってくれたのは純粋に嬉しい。きっとあの子がこの世界に残った時には、俳優として活動する助力となるだろう。
などと考えているとスマホが震えた。ちょうど考えていた人の名前が画面に表示されている。
「ダッド。どうしたの?」
『夜分に済まないね、ヴィル。明日の確認だ』
いくつか仕事の確認を済ませる。別に明日でも良さそうなものだけど、確認を怠らないのは父らしい仕事でもある。
「……それで、本題は?」
『ユウくんとはおつきあいしているのかい?』
スマホを落としそうになった。ド直球すぎる。
「な……なんでそんな事を」
『父親の勘だよ。……と言いたい所だけど、リュクスのスタッフがお前のオーダー品の話をしている所に出くわしてね。今回の衣装の進捗なら自分も聞きたいと言ったんだけど教えてくれなかったものだから』
「無理矢理聞き出したのね」
『一応、父親だからね。仕事と高い買い物は管理しないと』
「今更すぎるわ」
こうなるとユウに興味を持っていたのは自分が目をかけていると知られたから、という事になる。幸先良いと思ったのは錯覚だったか。
「父親だからって子どもの恋愛に口を出す気?」
『そんなつもりはないよ。お前がリュクスのドレスをねだるような子に夢中になる事は無いと知ってるつもりだからね』
「……どこまで聞き出したの?」
『あの子にブラックのドレスは似合わないんじゃないかな。見た目の幼さではなく、雰囲気だね。あの子に着せる花嫁衣装なら染まらぬ黒より白、それもとびきりの純白だ』
頭が痛い。デザイン画まで見てるじゃないの。
「……今日、彼を直接見たデザイナーにも同じ事を言われたわ」
元々、ユウの写真を見せた時から二色でデザインは進めていたらしい。本人を見たら白の方が良い、と確信を持って進言された。異論は無いのでそのまま進めてもらっている。
『間に合いそうかい?』
「ティアラと一緒に届く事になってる」
『それは楽しみだ』
「見せないわよ」
『どうして』
「どうしてもよ」
『息子の晴れ姿を一番に見たい父親の気持ちをないがしろにするのかい!?』
「別に晴れ姿じゃないから。ただ企画のサンプル制作に若年層の人間として協力しているだけよ」
声から子どものように拗ねている顔が目に浮かぶ。それも演技ではあるのだけど。
「とにかく、早とちりであの子に変な事を言うのだけはやめて頂戴」
『勿論。父親として、息子の恋路を全力で応援しているよ』
「ダッド」
「はははは!では、明日はよろしく頼むよ。おやすみ、ヴィル」
「……ええ、おやすみなさい」
電話が切れて、暗くなった画面を見下ろす。
最初はどうかと思ったけど、電話の声で聞く限り、父のユウへの印象は悪くなさそうだ。それはそうだろうけど。
未来。将来。
ユウが隣にいて、家族になっている世界。
想像しただけで胸が弾む。幸せすぎてにやけてしまいそう。
そんな未来はきっと訪れないのに。
ウェディングドレスなんて贈ろうとしておきながら、一歩踏み出すきっかけになってほしいと願いながら、それでもまだ不幸な結末を予感している自分がいる。
…………ずっとそうだったから。また肝心な所で掴み取れないのではないかと、心のどこかで怯えていた。
今は考えても仕方ない、と気持ちを切り替える。大事な仕事に影響を及ぼす訳にはいかない。仕事がダメになったらご褒美も台無しになる。
何も考えないようにベッドに入り、悪い想像から逃げるように意識を手放した。