深紅に思いを馳せて
最初から誘う考えが全く無かったと言えば、嘘になる。
今も芝居を愛し見えない所で研鑽を続け、それなのに諦めていると笑うあの子を、自分は放っておけない。
いつかは同じ舞台に立ちたい。映画でもドラマでも何でも良い。あの子の全力の芝居とぶつかってみたい。
もし彼が鋭気を取り戻しもう一度夢を追いかけるなら、自分は援助を惜しまないつもりだ。それは先述の自分の望みを叶える為でもある。
それはそれとして、彼の事を自分はとても愛おしく思っていた。
後輩なのに同い年で、魔法は使えないけどとても勇敢で強くて、なのに守ってあげたくなる愛らしさを持った、世界で一番かわいいアタシのお姫様。男だけど。
顔と身長のバランスと髪型の雰囲気が見事に合致していて、鍛えて筋肉がついてる割に表面は滑らかで柔らかそうだから意外と違和感が無く、それでいて服を着れば着痩せして全く分からない。声は澄んでいてよく通るし、表情豊かで蠱惑的な顔もたまに見せてくれる。寝顔はまさに天使。
事なかれで流されがちと見せかけてしっかり毒は持っているし、相手を見て話す事にも慣れている。一度は道を違えても許す懐の深さもある。
向こうもこちらを想ってくれている事は知っているけれど、しがらみが多すぎてお互いにもう踏み出せない。
きっかけが必要なのだ。
自分の決意を覆すに足る、きっかけが。
そう考えたから、でも、仕事のついでとはいえ無茶なオーダーをしたものだと自分でも思う。
いやでもだって、デザイナーがあんな事を言うから。
『いま、ウェディングドレスのモデルを探しておりまして』
『いえ、まだ企画として提出する前でして。社内向けのプロモーションのためにまずは試作をすべきと考えチームを作ってる最中です』
『もし大切な方への贈り物をお探しでしたら、是非こちらのチームで担当させていただきたく』
彼らが何を察したのかはあまり考えたくない。同時に、自分は未熟な高校生である事も自覚させられた。恋に浮かれているようではいけない。大切な人を守るために、完璧に情報を隠しきらなければならない立場なのだから。
とはいえ、非常に魅力的な提案だった。そういうものに乗ってしまう素直さも時には必要だと思う。
ちょうど映画祭のタイミングに間に合いそうだと話を貰えて安堵したのも束の間、こんな事になってしまって心苦しい。
そして更に悩ましいのはあの子を連れて行くべきかどうか、だ。
いや連れて行きたい。凄く連れて行きたい。むしろ真っ先に声をかけるべきだと思う。
しかしその場合、他の連れはどうするべきだろうか。映画祭のスタッフを今から別で確保してもいいけど、見学の都合をつけてもらった関係でスタジオツアーの人員は減らしたくない。
何より、露骨すぎる。さすがに父が気付く。ちょっとまだどんな反応されるかも考えたくない。
などと考えながら放課後を迎えて、中庭の井戸でスマホを睨んで悩み倒していたら、モブに囲まれてしまった。
ごますりとおべっかを恥ずかしげもなく使ってくる連中の向こうにユウを見つけて喜んだのも束の間、グリムを置いていなくなろうとするし。
内心ひりつきながら動向を見守っていたが、新ジャガ一号が胡散臭いコンビに取り込まれているのを見た瞬間、天使のラッパを聞いた気がした。
アイツは絶対にユウに当たりを引かせる。
確信を持って見守っていれば、案の定その通りになった。
自分はその決定を覆させない。『自分は待ってやっている』という顔を作り文句を言わせなかった。そんな顔をしている自分に対し、抗議など出来ようはずもない。
アズールが提案している時点で怪しさ満点だったから、こうでもしなくてはブーイングが止まなかった事だろう。
これで願いは一つ叶った。
やるべき事も大舞台もあるが、そのプレッシャーに見合うご褒美がついてくる。
指折り数える気持ちで、当日を待った。