真紅に想いを馳せて
あっという間に朝。
用意されていたホテルは自分には一生縁がないであろう高級な所だった。
小さい頃泊まったホテルはあくまで仮宿って感じでユニットバスだったり色々狭かったりしたけど、それでも当時は凄く豪華に思えていた。
そんな記憶が吹っ飛ぶレベルの設備。お風呂はトイレと別な上に浴槽まで広かったし、ベッドもとてつもなく大きいし、アメニティも至れり尽くせりの上にどれもめちゃくちゃ高そうだし、何もかもが豪華。ルームサービスにテンションが上がるグリムを止めるのも大変だった。生活費換算するのを脳味噌が拒絶するぐらいの金額。マジで勘弁してくれ。
先輩からの連絡には『宿泊セット』としか書かれてなかったけど、一応念のためスキンケア用品は持ってきていた。宿泊先にも用意されていそう、とは思ったんだけど、せっかく先輩が僕に合わせて作ってくれたものなので。
今となってはそれで良かったと思う。リュクスクチュールを着て、レッドカーペットを歩く先輩について歩くんだから、ちゃんとしておかないと後が怖い。
顔を洗って朝のスキンケアを進める。リュクスで昨日と同じ状態に整えてもらうんだから、付け焼き刃でもちゃんとしておかないと。
『いつか共演者として、一緒に歩きましょうね』
ふとシェーンハイト先輩の声が脳裏に流れる。いつもより優しくて甘い声。
昨日の事といい、先輩は僕が俳優の道を志す事に希望を持ってくれているみたい。それはとても光栄だし、あんなに実力のある人に期待されている事は純粋に嬉しい。
叶う事など有りえないから見られる、綺麗な夢かもしれないけど。
でも、それでもいつか。
僕が覚悟を決められたら、もしかしたら。
現実になる可能性はゼロではなくなる。途方もない道のりかもしれないけど、それすらきっと進んでいける。
……あの人と一緒なら、きっと。我ながらおこがましいけど。