真紅に想いを馳せて


「さて、そろそろ行こうか」
 食事を終えて、雑談も一段落。
 一時は半端なく居心地の悪い事になってたけど、何とか平和に終わりそうだ。
「この後も仕事?」
「ああ。配給会社のお偉いさんと試写会の流れのミーティングだ」
 外はすっかり暗いけど、大人にとってはまだまだ仕事の時間、という事らしい。むしろ忙しい中、無理して時間を作ってくれたんだろうな。
 現に、シェーンハイト先輩は少し心配そうな顔だった。
「イベント登壇者としては、細かいところまで詰めておいてって言いたいけれど、早めに休む事をお勧めするわ」
 だけど、すぐに表情はヴェニューさんの息子から『ヴィル・シェーンハイト』になる。
「夜更かしは美容の天敵。寝不足顔を世間にさらして、隣に立つアタシの顔に泥を塗らないで頂戴」
「畏まりました。ヴィル・シェーンハイトさん。では失礼するよ」
 僕たちがまとまらない感じでお礼を言う中、サングラスをかけて颯爽とヴェニューさんは去っていく。背中が見えなくなっても何となく動けずにいた。
 凄くかっこよかった。シェーンハイト先輩の父親だって事に驚きはしたけど、納得もすぐ出来て、緊張したけど充実した時間を過ごせた。
 なんだかとびきりの思い出を頂いてしまったような気分。
「なかなかおもしれーヤツだったゾ」
「やっぱ本物のスーパースターは迫力が違う!褒められても慣れてるってカンジで、それも嫌味がなくてさー」
「優雅でスマートな方でしたね。あんな大人になりたいものだ」
「すごく優しそうだった。余裕のある大人ってああいう人のことを言うんだろうな」
 みんなが口々に感想を述べる。それに頷いていると、シェーンハイト先輩が厳しい表情で言い放った。
「甘いわね、アンタたち」
「え?」
「映画プロデューサーとしてのエリック・ヴェニューはショービズの鬼。高い目標を掲げ、達成する為には手段を問わない」
 条件交渉に妥協はないし、些細なミスも許さない。
 そう言われて、さっき少し雰囲気が変わった様子を思い出す。仕事のスイッチが入りかけてた、って事なんだろう。見てみたかったような、見たくなかったような。
「明日、粗相なんてしようものなら舞台裏まで引きずられて即退場よ」
「コ、コエ~……」
「アンタたちも明日遅刻なんてしないように」
 ジャガイモどもの返事する声が揃う。
「今日はもう、ホテルに行って早く寝た方が良さそうですね」
「映画スタジオの見学もあるしな。ゆっくり休んでおこう」
 アーシェングロット先輩の提案に、バイパー先輩が頷く。
「休む前に、メイクのレッスンをする事。いいわね」
 ぴしゃりとシェーンハイト先輩が言う。再びジャガイモどもが揃って返事をした。

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