真紅に想いを馳せて
なんだかんだと食事は進み、もうデザートの時間。
楽しい時間の終わりが近づいている。
「お待たせしました。デセールの『タルトフィーヌ・ポム』です」
「あれ、みんな同じもの頼んでたんだ?」
「ええ、このレストランのスペシャリテですから」
スライスした林檎を使った薄焼きのタルト。綺麗に並べられた林檎が芸術的で、見ても楽しめるし味も絶対に美味しい。
「林檎は輝石の国では最もポピュラーなフルーツよ」
「ああ。ドリンクやデザート、ジャム、料理……様々なものに使われているね」
「特にこのレストランでは、ジュースにも料理にも特別な高級林檎を使っているのですよ」
二人の言葉を受けて、ウェイターさんが誇らしげに答えた。
「選ばれた土地でこだわり抜いて作られた、至高の林檎でございます」
「へー!なんかすごそうなんだゾ!」
「ああ。こんな機会じゃなきゃ、オレらじゃ食えないような高級品種なんだろうな」
子どもたちの期待の眼差しを受け、ウェイターさんは更に自信満々の顔になった。
「なんと!この林檎はあの豊作村で作られたものなのです!」
そして僕たちが固まる。否、ヴェニューさんは感心した様子だった。そして子どもたちが驚き喜んでくれると思っただろうウェイターさんが微妙な顔になってしまった。
「なんか、すげえ耳馴染みのある地名なんですけど……」
「そうね。急に学園の寮に戻ってきた気分になったわ」
「豊作村の林檎が高品質で優れているのは間違いないのですが……」
「身近な奴のせいで高級感が薄れるな」
「同級生に、豊作村の出身の子がいまして。ご実家が林檎農家で、よく林檎を差し入れしてくれるんです」
「そうでしたか……」
説明すると、ウェイターさんはちょっとしょんぼりした雰囲気だった。そんな気がする、の範囲だけど。一流の店で働くプロだからね。
「生産者の顔が見えすぎだっつーの!」
「ここにエペルさんがいたら、さぞかし大喜びしたでしょうね」
「アイツの事だから、豊作村の林檎の素晴らしさを何十分も熱弁するだろうな~」
「アタシたちにとっては全く珍しくない林檎だけど、美味しい事に変わりはない」
「そうですね。何せ一流の料理人によって作られたお店のスペシャリテ、なんですから」
言いながらウェイターさんに微笑みかけると、自信を取り戻した感じで一礼された。いい人だ。
「エペルに……豊作村に感謝しながらタルトフィーヌ・ポムをいただきましょう」
そうして誰とも無くデザートを食べ始める。
薄いのに触感が絶妙に残った甘酸っぱい林檎と、同じく薄いけどサクサクのタルト生地。添えられたバニラアイスも柔らかい甘さで、一緒に食べると林檎の酸味が際立ってまた美味しい。
今日の食事は幸せしかない。もうこれだけでお釣りがくる気分。
「そういえばさぁ」
「うん?」
「ユウって、子役デビューしたきっかけってなんだったの?」
ただの雑談だ。解っている。エースに他意はない。
でもここで振ってほしくなかった。ヴェニューさんの目が興味深そうにこっちを見てるのが分かる。
「……えっとね、親の仕事先からのスカウトって感じかな」
「インテリア関係のお仕事という話でしたが」
「古くからの取引先の中に撮影スタジオとかもあって。僕と姉が産まれた時、そこのスタジオの方からベビーモデルやらないかって言われてたらしくて」
「そんな昔から!?」
「それは断ったらしいけど」
「今の話は初めて聞いたわ」
「お姉さんがいるんだね」
「あ、はい。双子の姉がいます。顔は似てないんですけど」
男女の双子、という物珍しさが色んな人の興味を引いたらしい、というのは昔から聞いている。
「うちはサラリーマン家庭なので、親が芸能活動に対して慎重な考えで、僕たちが自分の意思で決められるようになるまではさせられないって」
「堅実な親御さんだな」
「それでずっとスカウトというかお仕事の話はあって、姉が興味を持ってやりたいって言い出して、十歳の時に事務所に入れてもらった感じで」
へぇ、とエースが感心した感じで息を吐く。
「ドラマだったっけ?出た事あるの」
「ほぼ名前もない端役だよ」
「ほぼ、という事は名前のある役もやった事はあるんですね」
「……まぁ、はい。台詞は少なかったけど、主人公の子ども時代の役を一回だけ……」
理屈の分からない子どもながら、とても勉強になる事ではあった。
主人公の祖父役の俳優さんが凄く気にかけてくれて、本当に孫みたいに可愛がってくれたし。あの経験があるから、今もお芝居が好きなんだと思うし。
「まぁ数ヶ月で辞めちゃったので、今となってはただの思い出なんですけどね!」
「……それは勿体ない」
ヴェニューさんが呟く。なんかさっきまでと雰囲気が違う、気がする。
「ダッド」
そしてシェーンハイト先輩の声で、さっきまでと同じ優しい雰囲気に戻った。
「君の出演作、僕も見てみたいな。いつ頃の作品かな?」
「いやもう闇の鏡も届かないようなド田舎の秘境のローカルの話ですんで、どこにも残ってないと思います!!」
「それは残念だ」
慌てて誤魔化したけど、怪しまれてるかも。いや別にいいか。異世界の人間とかどうせ信じられない人には信じられないし。
エースを見るとちょっと申し訳なさそうな顔をしていた。察してくれたようで何より。
「でも、アタシも勿体ないとは思ってるのよ」
シェーンハイト先輩が僕を見つめて言う。本当に、とても心配そうな顔をするものだから、僕も何も言えない。
「無理強いは出来ないけど、いつでも歓迎するわ」
「あ、ありがとうございます……お気持ちだけ頂いておきます……」
「ヴィルにここまで言わせるなんて相当な事だよ」
やはり一度見せてほしいな、とあくまでにこやかに言われる。お世辞半分だと思うけども、慌てる事しかできない。
「いえあの、本当にそんな大層なものでは……」
「こいつ凄いんすよ。女装したら完璧に女にしか見えないように振る舞うし、泣き真似なんかマジで涙出すし!」
「子分は最強なんだゾ!自分よりでっけえ相手だってボコボコに倒しちまう!」
「こう見えてハッタリも駆け引きも大変お上手なんですよ」
「人を見る目もあるようで。いつもヴィル先輩をはじめとした凄い人たちに囲まれてますよ」
「やーめーてーえー!!!!」