鏡面が水面のように揺れる。
　何も映さなかった闇色に、景色が映る。


　海の匂い。激しい風。雨の音。
　大きな船が雨と風に揺らされている。暗い空に雷鳴が轟き、見る者を恐怖に陥れる。

　少女が青年を抱えて泳ぐ。
　嵐から逃げるように陸地に向かい、穏やかな砂浜に彼を寝かせた。
　少女の下半身は魚のような形になっている。まるでおとぎ話の人魚だ。

　青年は程なく誰かに保護される。
　人知れずその背中を見送る少女の目は、憧れにキラキラと輝いていた。彼女の決意を鼓舞するように、彼女の思いを祝福するように、波が飛沫を上げて水滴が空を舞う。

　……その姿を見て笑う者がいる事に、彼女は気づかなかった。


　鏡面が揺れる。
　映っていたものが溶けて消えていく。