2:果てを望む砂塵の王
シャワーを浴びるために包帯などを全て取ったのだが、顔の腫れは赤みが残る程度まで引いていて、足も腫れてはいるけど痛みは落ち着いていた。魔法薬って凄い。
足の湿布と包帯だけはゴーストに手伝ってもらって巻き直した。……キングスカラー先輩、試合の合間にあんな綺麗に手当できるってすげえな。それともあれも魔法なんだろうか。
今日はもう疲れたし、とっとと寝てしまおう。
階段を上って部屋に入れば、グリムがすでにベッドで寝息を立てていた。
せっかくゴーストがクッションを集めた寝床を作ってあげたのに、何が気に入らないのか気がついたらこっちで寝ている。
枕を取られませんように、と思いながら自分も横たわる。腹の横辺りで寝ているグリムの背を手探りに撫でてから目を閉じた。
疲れ切っているので、意識はすぐに眠りに落ちる。それなのに、閉じたはずの瞼に自室の光景が浮かんできた。眠ったままのはずなのに視界は動いて、鏡の前で止まる。
鏡は静かに光を放つ。額の内側の鏡面に、白いもやのようなものが立ちこめていた。まるで鏡の向こうに、知らない世界でもあるみたい。
そう思った瞬間。
左下の隅に、じわりと黒い影が滲んだ。あ、と思った瞬間に、もっと大きな影に染まる。心臓が止まるような心地で、その瞬間を目撃していた。
はっと意識が覚醒する。外はすっかり明るい。
暖炉の上の鏡を見た。室内の景色を映すばかりで、白いもやも黒い影もどこにも見あたらない。
……夢?
妙にリアルな夢だった。一瞬の恐怖が、目覚めた今も焼き付いてしまっている。今になって鼓動が速くなった。深呼吸して落ち着ける。
見慣れた景色が夢に出てくるのはよくある事だ。……何を怖がる必要があるのだろう。
気を取り直して、布団の中で広がりきっているグリムを起こすためベッドに向かった。