2:果てを望む砂塵の王




 先生から寮に帰る許可を貰い、エースたちの手を借りてオンボロ寮に戻った。泊まって世話をしたいという申し出を丁重に断りに断って、談話室のソファでやっとくつろいでいる。
 差し入れの魔法薬の効果で、痛みもなんだか弱まった気がしていた。体内の魔力を使う事で回復を早める効果があると書かれていたが、魔力が無くても効く事は効くらしい。
『ユウ、お疲れさま~』
『お腹すいただろ、お弁当温めてきたよ』
「お弁当?」
『出来立てカツサンド弁当!……引き取って冷蔵庫に入れてたから、もう出来立てじゃないけどね』
 ゴーストたちが予約してくれていたという人気のお弁当。そういえば、昼もすっ飛ばして気絶していたから食べてなかった。
『グリ坊は昼間に食べたから、心おきなく食べておくれ。グリ坊~、ご飯じゃぞ~』
 グリムの分は食堂のビュッフェから貰ってきたようだ。
 カツサンドは全体的にしっとりした状態だけど、ほかほかと湯気を立てておいしそう。野菜たっぷりのコンソメスープはグリムとお揃い。
「メシだメシだ~!」
 はしゃいでやってきたグリムが、ぴょんと跳ねてソファに座る。挨拶をしてから嬉しそうに口に運んでいった。
「カツサンドうめえか?」
「うん?これはこれでおいしいよ」
 オーソドックスなトンカツ、お肉ぎっしりのメンチカツ、ぷりぷりのエビカツ、ジューシーなチキンカツ、食べ応えしっかりなまぐろカツと、豪華な五種類のカツがそれぞれ分厚いパンでサンドされている。細かくソースの味まで違うのだから、作り手のこだわりが凄まじい。数量限定、予約殺到も納得だ。
「そうか!出来立てはもっとうまかったんだゾ!」
「そうなんだね。いつか食べてみたいよ」
 にゃはは、とグリムがご機嫌で笑う。でもなんだかいつもに比べて勢いがない気がした。食べ終わるととっとと遊びに行ってしまうのに、妙にソファにくつろいでいる。
 ゴーストが淹れてくれた食後の紅茶でほっと一息。
「なあ子分」
「うん?」
「その……頭、まだ痛むか?」
 後頭部を触ってみたけど、ひりっとした感触はあるが先ほどまでと全然違う。
「もう痛くないよ」
「ほ、本当か?」
「うん、薬のおかげだと思うけど」
「そうかそうか、それは良かったな!」
 きゅっとグリムの口元が閉じる。黙って先を待った。
「子分。その……ゴメン、なんだゾ」
 思わず何度か瞬きしてしまった。無言の僕を見て、むっとした顔になる。
「な、なんなんだ」
「また変なもの拾い食いした?」
「してねぇっ!」
「あー、いやごめん。びっくりしちゃった」
『グリ坊はねぇ、ハートのトランプ兵に言われた事気にしてるんだよ~』
「エースになんか言われたの?」
『お前の無茶に付き合わせてたら、ユウが頑丈だって言っても、命がいくつあっても足りないぞ、ってね』
『お前さんがなかなか目覚めなかったから、グリ坊も今回ばかりは落ち込んでしまったという事じゃな』
「お、落ち込んでなんかねぇ!……ただちょーっと、ちょーっとだけ、悪かったかもなー、って、思っただけなんだゾ!」
 思わず笑みが零れる。
「なにニヤニヤしてんだ!」
「僕からもグリムに言わなきゃいけない事があるんだ」
 ちょっと怯えた顔になる。悪い知らせだと警戒しているらしい。
「キングスカラー先輩と戦った時。一緒に戦ってくれてありがとう。グリムに何度も助けられて、本当に心強かった」
 さすが親分だね、と言い添えると、ぱあっと明るい笑顔になった。
「トーゼンなんだゾ!オレ様は親分だからなっ!」
 偉そうに胸を張る。機嫌が直ったようで良かった。
「オレ様とユウは最強のコンビだ!来年はマジフト大会のトーナメント戦にも出て、大活躍するんだゾ~!!」


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