2:果てを望む砂塵の王
絵本のような夢を見た。
小さなライオンの子どもが、膝を抱えてうずくまっている。
美しいのに愛想がない。賢いのに情けがない。口が達者で生意気で屁理屈ばかり。なんて扱いづらい子どもだろう。
ああ、恐ろしい。触れたものを砂にする魔法だって?不吉だ、災いの象徴だ!神様はなんて力をあの子に与えたんだ。危険すぎる!
ライオンの子どもは賢かった。大人たちの陰口にも、決して出さない本音にも、全部気づいてしまっていた。心ない言葉は茨のトゲのように、どこにいても何をしても彼を傷つけた。
優秀な彼は、一番になりたかった。一番だったら、皆が自分を認めてくれると思ったから。国の『一番』である王様は、皆に愛されていた。
王様になりたかった。彼は第二王子だった。でも王様は第一王子がなるもので、彼が死なない限り、第二王子にその権利は回ってこない。
子どもはたくさん努力して、頑張って、一番を目指した。陰口のトゲの痛みにも耐えた。
いつかみんなは認めてくれる。お前が一番だと言ってくれる。
第二王子は頑張って、頑張って、耐えて耐えて耐え続けて、王となった第一王子に息子が生まれた事で夢は閉ざされ、それっきり心がボキリと折れてしまった。
ライオンの子どもは国を離れ、違う文化に触れた。世界の広さを知った。
努力をしても届かないもの、諦めなくてはならない多くのものがある事。
故郷でも感じていた事を、彼は身を持って確信していく。
実らない努力は無意味だと結論する。
彼は知っている。全ての人が同じ結論になど至らない。
世界は不公平だ。誰かが得をした分、誰かが割を食う。
そういう風に出来ている。
彼はまだよく解っていない。生命の円環に頂点は一つではなく、全ては円の中に収まっていて、はぐれものなんて本当は存在しないという事。
生命の歩む道はひとつではなく、誰もが同じ事をする必要はない事。
多くの人に好かれる王を、好きになれない人だっている事。
そういう人にだって、受け入れ導いてくれる王が必要な事。
かつて根拠もなく糾弾され迫害され、誰かの幸福の帳尻合わせのために苦しめられた者たちを守るには、同じ痛みを知る王が必要な事。
ライオンの子どもは成長し、立派な獅子となった。傍に寄り添うのは嫌われ者のハイエナや群れからはみ出した狼など、大きな集団から遠ざけられた動物たちばかり。
それでも、身を寄せ合ったその温もりは、大きな集団と何も変わらない。
いつかその使命に気づいた時、彼は憧れた王と肩を並べる存在となるのだろう。
こんなご都合主義の結末でも、あのライオンの子どもの心が、癒やされてくれますようにと、心から願った。