2:果てを望む砂塵の王




「なあなあ、学園長!オレ様たち、ちゃんと犯人を見つけたんだゾ!コレで約束通り試合に出してくれるんだろーな!?」
 鏡舎を出た所で、ローズハート先輩たちと話していた学園長にグリムが話しかけた。さっと学園長の表情が変わる。
「あぁ~……っと。そんな約束……してましたねぇ」
 絶対に無理だと思って、既にトーナメント表を作ってしまった、と学園長は呟いた。
「えええええ!!!!ひでぇんだゾ、詐欺なんだゾ!嘘つきの尻は燃やしてやるぅ!!!!」
「い、いやいや、燃やすのは待ってください!今、何かアイデアを考えますから!」
「グリム、取材のテレビカメラに訴えた方が効くかもよ」
「子分、ナイスアイディア!!」
「あーあああああああナイスアイディアじゃないです!!ちょっとストップストップ!」
 学園長は仮面の上からでも解るくらい困っていた。容赦してやる義理はないけど。
「えーとえーと、そうだ!エキシビションマッチで特別参加枠、というのはいかがです?トーナメント本戦が始まる前に余興として行えば問題ありません。きっと目立ちますよぉ~」
 目立つという提案に、グリムは耳をピンと立たせた。……なんでそんなに目立ちたいんだろ……。
「目立てるんだったら何でもいいんだゾ!テレビで活躍するオレ様を見て、スカウトがいっぱい来ちゃうかもなんだゾ!」
「……あの、うちの寮、魔法使えるのグリムしかいませんけど。あと六人の補填選手はどうするんですか」
「補填選手……うーん、どうしましょう……それから対戦相手も……」
「オメーそれも忘れてたんだゾ!?」
 もはや呆れを通り越す勢いだ。ハーツラビュルの先輩たちまで白い目で学園長を見ている。
 エースとデュースは顔を見合わせて笑った後、グリムの方を向いた。
「話は聞かせてもらったぜ」
「その助っ人の件、僕たちが請け負おう」
 これに異を唱えたのはローズハート先輩だ。
「キミたちはハーツラビュルの所属じゃないか」
「大会のルールに『他の寮のチームに入っちゃいけません』なんて書いてねーもん」
 うぐ、とローズハート先輩が詰まる。どうやらその通りらしい。これを見たクローバー先輩が笑った。
「そんな事、考えた事もなかったな」
「何それ面白そう~!オレもユウちゃんたちのチームに入りたいな~」
「ケイトはうちのレギュラーメンバーだろう?」
「ちぇっ」
 ちょっと拗ねた調子のローズハート先輩を見て満足したのか、舌打ちの振りをしながらもダイヤモンド先輩はご機嫌な笑顔だ。
「先輩たちの試合応援するだけなんてつまんないし、どーせなら試合出たいじゃん。いいだろ?」
「別に構わねーゾ!オレ様の足ひっぱるなよ」
「対戦相手がいねえなら、俺たちサバナクローが相手になるぜ」
 声に振り返ると、ジャックがキングスカラー先輩たちと一緒に鏡舎から歩いてきていた。
「教師チームが相手なんて、ママゴト丸出しだろうがよ」
「へーぇ、ジャックくんってば面倒見が良いんだねぇー?」
「か、勘違いすんじゃねえ。借りをさっさとチャラにしちまいたいだけだ!」
 エースがニヤニヤ笑って肩を叩くとそっぽを向く。ツンデレのテンプレみたいな返答だなぁ。
「それは助かるけど、寮長の了解とらないとじゃない?」
「いいだろ?先輩方」
 ジャックは黙っていた先輩たちを振り返る。心なしかいつもより後輩らしく見えた。ちょっと可愛い。
「ただでさえヘトヘトなのにもう一試合増やそうってか。ジャックくん、鬼ッスね……」
「あー……もうめんどくせぇ。まとめてかかってこいよ、草食動物ども」
 ぐったりした感じで言い放った後、鋭い目でこちらを睨む。
「エキシビションっつっても、接待試合はしてやらねえからな。覚悟しておけ」
「上等だ!マジフトでもオレ様が勝つんだゾ!」
「……よかった、またトレイン先生に三時間ほど小言を言われる所でした」
 トレイン先生の苦労が忍ばれる。何かと言えばフォローや補佐に回ってるんだろうな、この調子だと。
「オンボロ寮チームは助っ人含め四名。あと三名選手を集めれば試合が出来ますよ!」
「オイ、全然足りてねーじゃねえか!」
「そもそも、選手の補填は学園長がしてくださるんじゃなかったんですか?」
「ええ?いやあ、マジフトはチームスポーツですから。人選は重要ですよ、出場する人が選ばないと!」
「うちから誰か募る事もできなくはないけど……確かに人選は重要だし、一方的に決めるべきではないだろうね」
「……あっ、そうか!寮生って、寮に住んでるヤツの事なんだゾ?」
「まあ、大雑把に言うとそーだね」
 グリムの質問にエースが答える。グリムと顔を見合わせれば、同じタイミングで笑みが浮かんだ。
「なら、オンボロ寮にはオレ様たち二人以外にも住んでるじゃねーか!」
「頼れる先輩のゴーストたちが、ね」
 グリムと僕のやり取りを見ていた学園長がぎょっとする。
「ゴーストの皆さんを選手に登録するって事ですか?」
「昔強い選手だったって言ってたヤツもいるし、うってつけなんだゾ!」
「イヤなら、今すぐマジカルなミラクルで補填の選手を出してください。今すぐに。出来るなら」
「うっぐ……」
「オレ様、呼んでくる!きゃっほーい!テレビに出られるんだゾ~!」
 グリムは返事を待たず、ご機嫌でオンボロ寮の方に走っていった。
「……なんでもありだな。幽霊相手にまともな試合が出来るのか?」
「グリムにマジフトを教えたのはゴーストたちだよ。ディスクも使ってるトコ見たし、試合にはなるんじゃないかな」
「ユウなんて魔法が使えないんだぜ?どうとでもなるって」
「……なんだかテレビに出ると思ったら、急に緊張してきたな……」
 いつの間にか僕も出る事になってる。もう一人くらいゴースト来てくれないかな。絶対やる事ないし、あまりやりたくないんだけど。
「そうそう、その前に皆さん。マジフト場で、黒い石のようなものを見ませんでしたか?」
「黒い石?」
「学園長が落としたんですか?」
 ぱっと思い浮かぶのは、前にグリムが美味しいと言って食べていたあの石だ。いや同じものとは限らないけど。少なくとも今日は見ていないし。
「いえ、見覚えがないなら結構です。さあ、コロシアムへ急ぎましょう」


30/37ページ