2:果てを望む砂塵の王




 鏡面が水面のように揺れる。
 何も映さなかった闇色に、景色が映る。


 薄暗い洞窟に、獅子が寝そべっている。無気力に洞穴の天井を見上げ、何かする様子はない。
 その以前の姿を、自分は知っている気がする。理想を語り、胸を張った姿は見る影もない。
 骨の檻を揺らす鳥が憂鬱そうに愚痴を言えば、理不尽に吠えていた。

 やがて動物が増える。
 何の動物かは分からないが、彼らはやせ細り毛並みも悪い。暗く淀んだ目で、寝そべる獅子を見た。

『食べ物も水ももう無い。腹が減って死にそうだよ!』

 窮状を訴える声を、獅子は面倒くさそうにあしらう。その言葉は動物たちの期待するものではない。
 動物たちは忌々しげに、これ見よがしに陰口を叩く。

『ムファサの時の方がマシだったぜ』

 獅子はその言葉に怒りを露わにする。

『目障りだ!失せろ!』

 獅子が吠えれば、動物たちは怯えるような嘲笑うような声を残して去っていく。残されるのは獅子ひとりだけ。檻の中の鳥は彼の声に応えない。

 生命の蠢く気配はない。そこかしこにあった、密やかな息づかいさえ今はもう聞こえない。
 希望の無い死へと向かう、絶望を見ている気分だった。
 その絶望は誰のものだろう。目の前にいる獅子だろうか。

 きっとうまくやれるはずだったのに、何もかもが想定と違う。
 そんな事が起きているのだろうか。

 それでもまだ、諦めなければ、真面目に取り組めば、きっとまだ、命あるうちに出来る事はあるはず。

 王になったのなら、それは投げ出してはいけない事だったはずなのに。


 鏡面が揺れる。
 映っていたものが溶けて消えていく。


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