2:果てを望む砂塵の王
「技術的には可能、って言われてもさ、正直お手上げじゃね?」
ミートソースパスタを巻きながらエースが言う。
「まぁその通りだよね。魔法を使った痕跡なんて、専門器具じゃなきゃ感知できないって先生も言ってたし」
「もう少し特定できる何かが欲しいな」
スマホに表示されたダイヤモンド先輩の情報を読んでも何も浮かばない。どころか、どんどん混乱してくる。
「怪我人の数にばらつきはあるけど、どこも負傷者が出てる。明らかな偏りとは言えないよな」
「内容には違いがあるけど、不注意で起きた事に違和感は無い」
「…………ジャック・ハウルが何か知ってればと思うけど、……知ってても話してくれそうにないよなぁ」
「ジャックが?」
エースが首を傾げ、デュースは少し不安そうな顔になる。
「昨日の話。……なーんか含みがあったんだよね。何か言いたそうっていうか」
「確かに、様子がおかしいような気はした」
「二人とも別に仲良くねえのにそんなん分かるわけ?」
「うーん……だからまぁ外れの可能性もめちゃくちゃあるし……自信があるわけじゃないんだけど……」
「話を聞いた方がいいかもしれない。……繰り返しぶつかっていけば変わるかもしれないし!」
「どうかね。アイツめっちゃ頑固そうな感じじゃね?」
エースは否定的、というか冷静だ。証拠どころか確信も無いのに動くべきじゃない、と一貫している。
「つーかさぁ、今日のグリムずーっと黙ってっけどどうした?」
「朝からずっとだよ。怪我した人の話聞いた後からずーっと」
「う~、なんかずっとこの辺に引っかかってる感じで気持ち悪いんだゾ」
「何だよ毛玉か。トイレ行って吐いてこいって」
「だから違うっつってんだゾ!」
「毛玉じゃなかったら何が引っかかってるんだ?」
ぬうう、と唸りながらグリムは手を伸ばす。
「こう……もうちょっとで手が届きそうで……何だっけ……」
「気持ち悪いならココアババロア食べられないでしょ、ちょうだい」
「これはオレ様の!絶対にやらねー……んだ…ゾ……」
グリムがカップを取り上げて身を引く。次の瞬間ハッとした顔になった。
「あああああああああああああああ~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!」
グリムが食堂中に響きわたる声で叫んだ。迷惑そうな顔をする周囲の人たちに慌てて頭を下げる。
「なんだようるっせぇな!」
「デラックスメンチカツサンド!!!!」
「この期に及んでまだ未練があるのか」
「ちげえ!思い出したんだ!ヒトの身体を勝手に動かす魔法を使う奴!!」
エーデュースが真剣な表情になる。
「ラギー・ブッチだ!アイツが犯人に違えねえ!」
「ラギー……って、サバナクローのアイツか」
不釣り合いな内容でデラックスメンチカツサンドをグリムから手に入れた獣人属の少年。
確かに、あの時のグリムの様子はおかしかった。食い意地張ってるグリムが、相手にノリを合わせて特上の獲物を差し出すなんてあり得ない。
「……勝手に身体が動いた、っていう部分は合致するね」
「ジャックがもし何か知ってて黙ってる、っていうのも、同じ寮の奴が犯人なら納得だな。……なるほどね」
「こうしちゃいられねえ!とっとと捕まえてとっちめてやる!」
急いでココアババロアをかきこんだグリムが飛び出そうとするのをギリギリで押さえ込む。
「何すんだ子分!」
「一人で突っ走らない!」
「相手は何人も怪我させてるワケだし、手は多い方がいいっしょ」
「先輩たちに連絡しておく。多分、放課後になると思うが」
「昼休みだと午後の授業を理由に逃げられちゃうかもしれないしね」
「ぐ、ぐぐぎぎぎ……」
じたばた暴れるグリムを何とか席に戻し、息をつく。
「グリムが恨みを晴らしたいのは解るけど、ちょっと落ち着いてね」
「くそぉ、イライラしたら腹減ってきちまった」
「どういう理屈だよ……」
「エース、そのチョコクロワッサン寄越すんだゾ!」
「ぜってーやらねー。つか、テーブルに上るな!」