2:果てを望む砂塵の王
『おかえり~。何かわかったか~い?』
「今のところはまだ何も」
「やっぱ大会に浮かれてうっかりやっちまったんじゃねえのか?」
「全員から話を聞く前に結論を出すのはちょっとなぁ」
とはいえそこまでで何も見つけられなければ、手がかりは無い。
一人目は階段、二人目は実験室。怪我の理由も状況も違う。共通点は『授業中じゃない』事ぐらいしかない。
『ユウ、来客だぞ。いつものハートのトランプ兵だ』
「エースか」
僕とグリムは立ち上がって玄関まで出迎える。制服姿のエースはいつも通りの笑顔で立っていた。
「よっ。晩飯まで暇つぶしに来ちゃった」
エースもデュースも、よく大食堂での夕食に同行してくれる。今日もその流れのようだ。
「デュースは?」
「オレが出てきた時はまだ部活から戻ってなかったから置いてきた。そのうち来るっしょ」
こちらに来ると確信してるのもなんだか面白い所だが、ツッコミは入れないでおいた。
エースは談話室のソファにどかっと座って、グリムに目を向ける。
「あれ、機嫌直ってるじゃん。マジフト大会に出られないって拗ねてたのに」
「ふふん、それは過去の話なんだゾ」
グリムが胸を張るので、エースは首を傾げる。僕が事情を説明すると、エースは難しい顔をした。
「それ、結局全部ただの事故だったら、何もしてもらえないんじゃね……?」
「ふ、ふなっ!」
「だって『事件解決』の報酬だろ。全部事故だったら事件じゃないじゃん」
「そ、そんなぁ……オレ様、騙されたのか……?」
「あんまりグリムのやる気そぐような事、言わないであげてよ」
「オレは正直、ユウが調査に乗り気なのが意外なんだけど?オンボロ寮がマジフト大会出たって、ユウは魔法が使えないから何もできねーじゃん」
指摘されて、少し考える。
「一応は僕も格闘技を真面目にやってた身だから、何て言うのかな。不正があるなら見過ごしたくない、っていうのはあるんだよね」
「へー?そんなもん?」
「純粋な興味もあるよ。有力選手候補が事故、目撃者あり、原因は本人の不注意のみ、が確認されただけで短期間に十例。そんな偶然珍しいでしょ」
「まぁね」
「あと……そうだね。嫌な想像しちゃうんだよ」
「嫌な想像?」
「例えば一連の事故が誰かの故意のもので、見過ごされたためにエスカレートして、あるいは不幸が重なって、もっと重大な事故になったら、って」
エースは真剣な顔で僕を見ている。グリムはきょとんとしていた。
「そうなったら嫌だから、出来る事はしたいんだよ。もし犯人がいるなら、調査している存在が牽制になるかもしれない。……学園長もそう思って、解決は二の次で僕たちを動かしたんだと思う」
「そうなのか!?」
「だって、異世界人の僕とモンスターのグリムだよ。常識知らず二人で、まともな情報収集できると思う?何の力にもなれないよ」
「あーね。そりゃそうだわ」
グリムが頭を抱えてソファを転がるのを無視して、エースは頷く。
「まあ、頑張りゃいいと思うけどさ。……ほどほどにな。首突っ込んだお前が怪我させられる事もあるかもだろ」
「大丈夫だよ、こう見えて身体が丈夫なのが取り柄だから!」
「知ってる」
エースは呆れ顔でため息を吐く。投げやりな言い方のようで、僕を心配しての言葉とは解りやすかった。なんだかくすぐったいが、悪い気はしない。
「まだ偶然の事故の可能性も捨てきれないしね」
そう言った次の瞬間、玄関の方から凄い物音がした。慌てて玄関に向かうと、激しいノック音と共にデュースの声がする。
「デュース、いま開けるから!」
「なに、お前もう腹減ったの?食堂まだ開かねえよ」
飛び込んできたデュースは、エースの軽口も耳に入らなかったらしい。いつにも増して動揺した様子で、大声で訴えた。
「大変なんだ!クローバー先輩が、階段から落ちて怪我したって!!……かなり酷い怪我らしいんだ」
エースと顔を見合わせる。
恐れていた事が、現実になったのかもしれない。