7−5:虹色の旅路 後編
………
雲の多い空に獅子の咆哮が轟く。
己の存在を世界に示す、産声のようであり力強い声だった。
祝福するように太陽の光が雲を払って、雨が止んでいく。潤った大地と湿った風に、新しい時代の始まりが来たような気がした。
キングスカラー先輩はこちらを振り返り、わずかに微笑む。
「お互いやる事は終わったな」
「まぁ、ここに関して言えば、確かに」
キングスカラー先輩は自然な動きで僕の手を取る。抵抗する間もなく抱きしめられた。先輩の匂いと温もりで、どこかほっとしている自分がいる。
「お前とこうしていると心が安らぐ」
ぽつりとキングスカラー先輩が呟く。
「ああ、全く。不幸だよなァ。こうしてただ触れ合うだけで理由も根拠もなく安らげる相手が、すぐ帰りたがる異世界の人間だなんて」
「あはは……」
「せめて今だけでも……俺のものでいてくれないか」
「今、って」
「この夢にいる間……いや、お前が良ければ夢から醒めた後も、ずっと」
「よし、特に弱ってませんね?」
「弱ってなきゃ優しくしてくれないのか?薄情なプリンセスだな」
「だからプリンセスじゃないですって」
もう少しでうっかり流される所だった。とはいえ抜け出そうにもびくともしない。
「先輩、そろそろみんな来ますから離してください」
「…………」
「はい無言で扉に施錠しない!!そんな事してもオルトがビームで突破してきますよ!!」
舌打ちしてやっと腕を緩めた。
それでほっとしたのも束の間、少し身を離した所で肩を掴まれる。
「ちょっ」
反射的に顔を見上げてしまい、あっさり唇を奪われた。浅く短く触れるだけだったのが、徐々に深く長くなっていく。突き飛ばすなり殴るなりすればいいのに、パニックになってしまった。
さっきの『闇』と同じ事をされたと思うんだけど、感覚が全く違う。気持ち悪くて仕方なかったのに、先輩のは拒否出来ない。……むしろちょっと気持ちいいというか…………。
唇が離れて、見えた先輩の表情はとても嬉しそうだった。
「……なるほどな。アイツの言ってた事も一理あるってワケか」
「な、何の事ですか!?」
「何でもねえよ。ただの消毒だ」
上機嫌の先輩が僕の額に口づける。ちょっと潤んでいた目尻もあやすように触れてくる。
「……そういや首も舐められてたか?立ったままじゃ埒が明かねえな。ベッド行くか」
「行きませんよ!?」
「何もしねえよ。ちょっと消毒するだけだ」
「嘘こけ!仮に本当にそうで後はガチ寝するだけだとしてもこっちは困るんで!!!!」
そう僕が叫んだ瞬間に、王宮へ繋がる扉が向こう側から吹っ飛んだ。あまりの爆音に僕もキングスカラー先輩も動きが止まる。
『ユウさん!!無事!!??』
音割れしそうな勢いの声が聞こえたかと思うと、オルトがこちらに向かって突っ込んできた。キングスカラー先輩と僕の間に割って入り、険しい表情で先輩を睨みつけている。
「……おやおや、怖い顔をするようになったじゃねえか」
「お、オルト落ち着いて。みんなが来てくれたなら大丈夫だから」
『ユウさん、甘やかしちゃダメだよ。悪い事をしたら身を以て理解してもらわなくちゃ!』
「気持ちは解るけど、今はそんな事してる場合じゃないから!」
一体どこから見られてたんだろう。オルトが怒ってるのってまぁ、そういう事だよね。多分。ちょっと恥ずかしい。
「ユウ~~~~!!!!」
吹っ飛んだ扉の方から、グリムが走ってくる。後ろには他のみんなの姿もある。みんな元気そうだ。
「グリム!」
手を広げて迎えると、まっすぐに飛び込んできた。勢いを殺すために一回転して、そのまま抱きしめる。
「ごめんね、グリム。心配かけたね」
「ケガはねーか?」
「大丈夫。ありがとね、親分」
慣れた匂いと暖かな毛並みに頬擦りする。しかしグリムは違和感を覚えた様子で目を丸くした。
「んん?なんかユウからレオナの臭いがするんだゾ」
「え?ああ、召喚獣みたいなのにひっつかれてたからかな」
「ショウカンジュウ?」
「使い魔みたいなの」
「ふーん?」
首を傾げつつもそれ以上の疑問は出てこなかった。訊かれても困る。
追いついてきた面々も少し訝しげに僕を見ていて、ブッチ先輩だけは少し顔を寄せてから、合点のいった顔になっていた。何だよ。
「え、えっとぉ……そう!シュラウド先輩!ウイルス!」
『こっちでもさっき回収が確認出来たよ。やっぱりレオナ氏が自分で倒して持ってたんだ』
「俺じゃねえよ。キファジ……侍従長だ」
「イデアさん、どういう事ですか?」
『「イミテーション」がレオナ氏を騙そうとして返り討ちに遭ったって事』
ナイトレイブンカレッジでオーバーブロットを起こした面々は、魔力が活性化された状態の僕と多かれ少なかれ接触していた。その時に僕の『浄化・治癒』の属性を持つ魔力を受け取っていた可能性が高い。
その魔力で『黒薔薇の魔女』を自力で封印する事が理論上可能だった。
『「イミテーション」がいないワケだよ。もうとっくの昔に倒されて封印されてたワケだ』
「…………俺が何度ユウを作ろうとしても上手くいかなかったのは……」
『恐らくは「黒薔薇の魔女」の魔力のせいだね。露出前の悪性情報を違和感として感知して、拒絶反応を起こしていたんだろう』
「それってなんかスゴイんスか?」
「ヴィル先輩でも、本物のユウと顔を合わせるまでは偽者に騙されていたからな。特殊な事例なのは間違いない」
「ヴィル先輩でも気づかなかったっていうのかよ!?」
ジャックが目を丸くしている。そう言われてみると凄い事なのかも。
「あ、じゃあレオナさんとユウくんが殺し合いしてたのって、偽者と勘違いしてたからって事?」
「え、気づいてなかったんですか!?」
「いや、本物だと確信していた。ふざけた格好だとは思ったが」
「つまりレオナ先輩は無意識ながら、高い精度でユウの真贋を見極めていたという事か……」
『興味深い事例ではあるね。獣人属の感覚の鋭さのせいなのか、それとも全く紐付かない所謂「第六感」の領域なのか』
キファジさんが僕を知っていたのも、偽者を始末してたから。……その上で、顔を見ただけで僕を本物だと看破していた。
ウイルスを捕縛した時点である程度の予測が立ってたって事なのかな。それともキングスカラー先輩の影響が強くて、同じ精度で僕を見分けてたとか?うう、僕が考えても解りそうにないや。
「まあ少なくとも、ふたりとも嗅覚の相性は良さそうッスけどね。ユウくんも偽者のレオナさんには拒絶反応が出てたらしいし?」
『遺伝子的に真逆の情報を持つ相手の匂いは心地よく感じる事が多いんだ。本能的に安全な繁殖相手を選ぶためと言われているね』
「それ獣人属にも適用されるんですか?そもそもユウさんは異世界の人間なんですから、遺伝子的に遠いのは当たり前ではないですか」
確かに、それはそうかも。
「それにしてもさっきは驚きましたね。あのレオナさんが、仲間を助けて自分が『闇』に飛び込んでいくなんて」
アーシェングロット先輩の言葉にはちょっと棘を感じるのだが、シルバー先輩は素直に尊敬の視線をキングスカラー先輩に向けていた。
「さすがはサバナクローの寮長だ。素晴らしい勇気を見せてもらった」
賞賛だけを受け止めて、キングスカラー先輩は余裕の笑みを浮かべる。
「当然だろう?俺が真実の友を見捨てるわけがない。なぁ、ラギー?」
「マジでどの口がそれ言ってんスか?」
寮長が自信満々なのに対し、腹心は疑惑の視線を向けている。
「マジフト大会の時みたいに見捨てられるんじゃねーかって、オレ、すっげぇ怖かったんスからね!」
不安が無かったワケじゃないんだろうけど、ちょっと拗ねてるような雰囲気だった。理由があったとはいえ、命を奪う可能性のあるユニーク魔法まで食らった立場としては、簡単に信じられないよなぁ。
ブッチ先輩の素直な言葉を受け止めつつ、キングスカラー先輩は憎たらしく鼻で笑う。
「それじゃあ、あの時の事はこれでチャラだな?」
「いやいや。あの時の貸しから、だいぶ利子がついてますから」
しかしブッチ先輩もタダでは引かない。逞しくにかっと笑ってみせる。
「まだまだ甘い汁吸わせてもらう予定なんで、頼むから自分の命を粗末にするような真似はよしてくださいよ!」
「テメェ、素直に礼のひとつも言えねぇのか?」
「助けてくれてありがとうございまーすッ!シシシッ!」
すっかりいつもの二人だ。見てるこっちもちょっと安心する。
ふと嗚咽が聞こえた気がしてジャックを振り返った。いつも険しい顔のジャックが、目に涙を溜めて身体を震わせている。
「ふなっ!?ジャック、オメーなんで泣いてんだゾ!?」
「な、泣いでねぇっ!」
鼻をすすりながら言っても説得力が全くない。
誰よりも身体が大きく逞しくても、涙を流す姿は年齢相応の少年だった。
「おやまあ、どうしたんスか。ジャック坊やはレオナさんが帰ってきて安心しちゃった?」
「ゆ、夢ん中のレオナ先輩が……本当に、ひっでぇ有様だったから……」
ラギー先輩もだけど、と付け加えられてブッチ先輩は目を丸くしている。キングスカラー先輩はからかう事なく、しゃくりあげながら懸命に言葉を発している後輩を見つめていた。
「あんたらがひでぇ奴らな事には変わりねえけど、いつもの方がずっとマシだ」
いつものようにクールに取り繕おうとしているけど、気持ちはイヤってくらい伝わってくる。二人の先輩を心から心配していたから、取り戻せた事に本当に安心しているんだ。
「本当に良かった……目を醒ましてくれて……」
彼が信頼を向ける先輩たちは、その気持ちが解らない人たちではない。
ブッチ先輩はジャックに歩み寄ると、子どもを宥めるようにその背中を撫でる。
「ふん。そりゃ光栄なこって」
憎まれ口を叩きながらも、キングスカラー先輩もジャックに寄り添い、背中を軽く叩いて励ましてやった。
見ているこっちも一安心だ。
雲の多い空に獅子の咆哮が轟く。
己の存在を世界に示す、産声のようであり力強い声だった。
祝福するように太陽の光が雲を払って、雨が止んでいく。潤った大地と湿った風に、新しい時代の始まりが来たような気がした。
キングスカラー先輩はこちらを振り返り、わずかに微笑む。
「お互いやる事は終わったな」
「まぁ、ここに関して言えば、確かに」
キングスカラー先輩は自然な動きで僕の手を取る。抵抗する間もなく抱きしめられた。先輩の匂いと温もりで、どこかほっとしている自分がいる。
「お前とこうしていると心が安らぐ」
ぽつりとキングスカラー先輩が呟く。
「ああ、全く。不幸だよなァ。こうしてただ触れ合うだけで理由も根拠もなく安らげる相手が、すぐ帰りたがる異世界の人間だなんて」
「あはは……」
「せめて今だけでも……俺のものでいてくれないか」
「今、って」
「この夢にいる間……いや、お前が良ければ夢から醒めた後も、ずっと」
「よし、特に弱ってませんね?」
「弱ってなきゃ優しくしてくれないのか?薄情なプリンセスだな」
「だからプリンセスじゃないですって」
もう少しでうっかり流される所だった。とはいえ抜け出そうにもびくともしない。
「先輩、そろそろみんな来ますから離してください」
「…………」
「はい無言で扉に施錠しない!!そんな事してもオルトがビームで突破してきますよ!!」
舌打ちしてやっと腕を緩めた。
それでほっとしたのも束の間、少し身を離した所で肩を掴まれる。
「ちょっ」
反射的に顔を見上げてしまい、あっさり唇を奪われた。浅く短く触れるだけだったのが、徐々に深く長くなっていく。突き飛ばすなり殴るなりすればいいのに、パニックになってしまった。
さっきの『闇』と同じ事をされたと思うんだけど、感覚が全く違う。気持ち悪くて仕方なかったのに、先輩のは拒否出来ない。……むしろちょっと気持ちいいというか…………。
唇が離れて、見えた先輩の表情はとても嬉しそうだった。
「……なるほどな。アイツの言ってた事も一理あるってワケか」
「な、何の事ですか!?」
「何でもねえよ。ただの消毒だ」
上機嫌の先輩が僕の額に口づける。ちょっと潤んでいた目尻もあやすように触れてくる。
「……そういや首も舐められてたか?立ったままじゃ埒が明かねえな。ベッド行くか」
「行きませんよ!?」
「何もしねえよ。ちょっと消毒するだけだ」
「嘘こけ!仮に本当にそうで後はガチ寝するだけだとしてもこっちは困るんで!!!!」
そう僕が叫んだ瞬間に、王宮へ繋がる扉が向こう側から吹っ飛んだ。あまりの爆音に僕もキングスカラー先輩も動きが止まる。
『ユウさん!!無事!!??』
音割れしそうな勢いの声が聞こえたかと思うと、オルトがこちらに向かって突っ込んできた。キングスカラー先輩と僕の間に割って入り、険しい表情で先輩を睨みつけている。
「……おやおや、怖い顔をするようになったじゃねえか」
「お、オルト落ち着いて。みんなが来てくれたなら大丈夫だから」
『ユウさん、甘やかしちゃダメだよ。悪い事をしたら身を以て理解してもらわなくちゃ!』
「気持ちは解るけど、今はそんな事してる場合じゃないから!」
一体どこから見られてたんだろう。オルトが怒ってるのってまぁ、そういう事だよね。多分。ちょっと恥ずかしい。
「ユウ~~~~!!!!」
吹っ飛んだ扉の方から、グリムが走ってくる。後ろには他のみんなの姿もある。みんな元気そうだ。
「グリム!」
手を広げて迎えると、まっすぐに飛び込んできた。勢いを殺すために一回転して、そのまま抱きしめる。
「ごめんね、グリム。心配かけたね」
「ケガはねーか?」
「大丈夫。ありがとね、親分」
慣れた匂いと暖かな毛並みに頬擦りする。しかしグリムは違和感を覚えた様子で目を丸くした。
「んん?なんかユウからレオナの臭いがするんだゾ」
「え?ああ、召喚獣みたいなのにひっつかれてたからかな」
「ショウカンジュウ?」
「使い魔みたいなの」
「ふーん?」
首を傾げつつもそれ以上の疑問は出てこなかった。訊かれても困る。
追いついてきた面々も少し訝しげに僕を見ていて、ブッチ先輩だけは少し顔を寄せてから、合点のいった顔になっていた。何だよ。
「え、えっとぉ……そう!シュラウド先輩!ウイルス!」
『こっちでもさっき回収が確認出来たよ。やっぱりレオナ氏が自分で倒して持ってたんだ』
「俺じゃねえよ。キファジ……侍従長だ」
「イデアさん、どういう事ですか?」
『「イミテーション」がレオナ氏を騙そうとして返り討ちに遭ったって事』
ナイトレイブンカレッジでオーバーブロットを起こした面々は、魔力が活性化された状態の僕と多かれ少なかれ接触していた。その時に僕の『浄化・治癒』の属性を持つ魔力を受け取っていた可能性が高い。
その魔力で『黒薔薇の魔女』を自力で封印する事が理論上可能だった。
『「イミテーション」がいないワケだよ。もうとっくの昔に倒されて封印されてたワケだ』
「…………俺が何度ユウを作ろうとしても上手くいかなかったのは……」
『恐らくは「黒薔薇の魔女」の魔力のせいだね。露出前の悪性情報を違和感として感知して、拒絶反応を起こしていたんだろう』
「それってなんかスゴイんスか?」
「ヴィル先輩でも、本物のユウと顔を合わせるまでは偽者に騙されていたからな。特殊な事例なのは間違いない」
「ヴィル先輩でも気づかなかったっていうのかよ!?」
ジャックが目を丸くしている。そう言われてみると凄い事なのかも。
「あ、じゃあレオナさんとユウくんが殺し合いしてたのって、偽者と勘違いしてたからって事?」
「え、気づいてなかったんですか!?」
「いや、本物だと確信していた。ふざけた格好だとは思ったが」
「つまりレオナ先輩は無意識ながら、高い精度でユウの真贋を見極めていたという事か……」
『興味深い事例ではあるね。獣人属の感覚の鋭さのせいなのか、それとも全く紐付かない所謂「第六感」の領域なのか』
キファジさんが僕を知っていたのも、偽者を始末してたから。……その上で、顔を見ただけで僕を本物だと看破していた。
ウイルスを捕縛した時点である程度の予測が立ってたって事なのかな。それともキングスカラー先輩の影響が強くて、同じ精度で僕を見分けてたとか?うう、僕が考えても解りそうにないや。
「まあ少なくとも、ふたりとも嗅覚の相性は良さそうッスけどね。ユウくんも偽者のレオナさんには拒絶反応が出てたらしいし?」
『遺伝子的に真逆の情報を持つ相手の匂いは心地よく感じる事が多いんだ。本能的に安全な繁殖相手を選ぶためと言われているね』
「それ獣人属にも適用されるんですか?そもそもユウさんは異世界の人間なんですから、遺伝子的に遠いのは当たり前ではないですか」
確かに、それはそうかも。
「それにしてもさっきは驚きましたね。あのレオナさんが、仲間を助けて自分が『闇』に飛び込んでいくなんて」
アーシェングロット先輩の言葉にはちょっと棘を感じるのだが、シルバー先輩は素直に尊敬の視線をキングスカラー先輩に向けていた。
「さすがはサバナクローの寮長だ。素晴らしい勇気を見せてもらった」
賞賛だけを受け止めて、キングスカラー先輩は余裕の笑みを浮かべる。
「当然だろう?俺が真実の友を見捨てるわけがない。なぁ、ラギー?」
「マジでどの口がそれ言ってんスか?」
寮長が自信満々なのに対し、腹心は疑惑の視線を向けている。
「マジフト大会の時みたいに見捨てられるんじゃねーかって、オレ、すっげぇ怖かったんスからね!」
不安が無かったワケじゃないんだろうけど、ちょっと拗ねてるような雰囲気だった。理由があったとはいえ、命を奪う可能性のあるユニーク魔法まで食らった立場としては、簡単に信じられないよなぁ。
ブッチ先輩の素直な言葉を受け止めつつ、キングスカラー先輩は憎たらしく鼻で笑う。
「それじゃあ、あの時の事はこれでチャラだな?」
「いやいや。あの時の貸しから、だいぶ利子がついてますから」
しかしブッチ先輩もタダでは引かない。逞しくにかっと笑ってみせる。
「まだまだ甘い汁吸わせてもらう予定なんで、頼むから自分の命を粗末にするような真似はよしてくださいよ!」
「テメェ、素直に礼のひとつも言えねぇのか?」
「助けてくれてありがとうございまーすッ!シシシッ!」
すっかりいつもの二人だ。見てるこっちもちょっと安心する。
ふと嗚咽が聞こえた気がしてジャックを振り返った。いつも険しい顔のジャックが、目に涙を溜めて身体を震わせている。
「ふなっ!?ジャック、オメーなんで泣いてんだゾ!?」
「な、泣いでねぇっ!」
鼻をすすりながら言っても説得力が全くない。
誰よりも身体が大きく逞しくても、涙を流す姿は年齢相応の少年だった。
「おやまあ、どうしたんスか。ジャック坊やはレオナさんが帰ってきて安心しちゃった?」
「ゆ、夢ん中のレオナ先輩が……本当に、ひっでぇ有様だったから……」
ラギー先輩もだけど、と付け加えられてブッチ先輩は目を丸くしている。キングスカラー先輩はからかう事なく、しゃくりあげながら懸命に言葉を発している後輩を見つめていた。
「あんたらがひでぇ奴らな事には変わりねえけど、いつもの方がずっとマシだ」
いつものようにクールに取り繕おうとしているけど、気持ちはイヤってくらい伝わってくる。二人の先輩を心から心配していたから、取り戻せた事に本当に安心しているんだ。
「本当に良かった……目を醒ましてくれて……」
彼が信頼を向ける先輩たちは、その気持ちが解らない人たちではない。
ブッチ先輩はジャックに歩み寄ると、子どもを宥めるようにその背中を撫でる。
「ふん。そりゃ光栄なこって」
憎まれ口を叩きながらも、キングスカラー先輩もジャックに寄り添い、背中を軽く叩いて励ましてやった。
見ているこっちも一安心だ。