7−5:虹色の旅路 後編


『よし……「S.T.Y.X.」からチェカさんのダミーデータのダウンロードが完了。出力するよ』
 オルトが言うが早いか、レストランの片隅にチェカくんが現れる。みんなが感嘆の声を上げた。
「これが夕焼けの草原のチェカ王子か……初めて見たが、まだこんなに幼いんだな」
「マジフト大会の時に学園に遊びにきてたんだゾ。保健室でレオナの腹の上に乗っかって大騒ぎしてたんだ」
「それはまたなんというか……怖いもの知らずな王子様ですね」
 本当にね。
 元気に跳ね回る姿は可愛らしくて、あの人はこんな子にも愛されているんだと安心したものだ。
 ……この夢では亡くなっている。本当に事故だったのかな。事故だったと思いたいな。だって夢の中で手を汚す必要は無い。
 あの人があの子の死を望む事は無いと、信じたい。
 ……信じよう。信じるべきだ。
 それに、あの人は自分に対しシビアな評価がつく世界としてこの場所を作り上げている。だったら、彼の計画する暗殺はまず成功しないはずだ。
 だからそこは望んでいない。あくまでも『王様になる』という願いを叶えるために都合良く排除されたに過ぎない。きっとそうだ。
 僕が考え込んでいる間に、ブッチ先輩がホログラムのチェカくんからちょっと離れた位置に立つ。
「王様も、ハイエナも、みーんなオレのオトモダチ!『愚者の行進』!」
 わずかに光の粒が舞って、チェカくんの身体が動き出す。表情も変わって、ホログラムがすっかり人間らしくなった。割とそれらしい気がする。
 ただまぁ、そっくり同じ動きをしているブッチ先輩がすぐそこにいるわけで。
「本当に愛くるしい子どもの動きですが……少し離れた場所で全く同じ動きと表情をラギーさんがしていると考えると、微妙な気持ちになります」
「マジフト大会の事件の時は、なんと卑劣なユニーク魔法だと思ったものだが……見事な手腕ではないか、ラギー先輩!」
「褒めてんだか貶してんだかって感じだけど……まあ、どーもッス」
 動きはかなり良かったけど、ブッチ先輩はまだ不安そう。
「でも、オレの魔法の継続時間はもって数秒。データは無抵抗だし、連続してかける事も出来なくはないッスけど……魔法が切れる度に動きが止まるから、かなりカクカクしてる」
 本当に大丈夫ッスかねぇ?と懐疑的だ。でも現状だとこれが一番それらしい気がするんだよなぁ。
「負担を考えると、ブッチ先輩の魔法はキングスカラー先輩の前に出る時まで温存したいところですね」
「移動はジャックくんにオオカミになってもらって、背中に乗せてもらえると助かるなぁ」
「それはいいっすけど。わんぱくなチェカ王子がずっと無言なのは、さすがに違和感があるぜ」
 それは確かにそうだよなぁ。
「仮にデータがあって合成音声が作れたとしても、誰が操作するにしてもブッチ先輩の動きと合わせて喋らせるのは厳しいかも」
『ここはやはり、チェカ氏に会った事があるラギー氏に、モーションだけでなく音声も担当していただくべきなのではありませぬか?』
『チェカさんのモデルに遠隔操作対応の小型スピーカーを搭載する事は可能だよ』
「ちょっと!アンタらオレの事こき使いすぎじゃないッスか!?」
 さすがにブッチ先輩から抗議の声が上がる。
「つーか流石に無理あるって。オレ、とっくに声変わりしてんスよ。まだオルトくんの方が適役でしょ」
『僕、チェカさんがどんな人物像か知らないもん』
「行方不明になっていた間に、声変わりをした事にすれば問題ないんじゃないか?『子どもの成長は早い。目を離したほんの一瞬で驚くほど成長する』……と父も言っていた」
「『ほんの一瞬』で声変わりするわけないって。何年子どもから目ぇ離してたんスか!?」
 まぁ妖精は時間感覚が違うらしいもんね。言いそう。
「ユウは出来ねえのか?」
「さすがに子どもの声は無理かなぁ。あとブッチ先輩の動きに合わせてってなると難しすぎる」
「そう言わずになんとか!!」
「まぁ声変わりは無理にしても、事故で怪我をしてから声が出しづらいとか言い訳のしようはあるんじゃないですか?」
「いくらなんでも無理でしょ!」
「あと僕、出来たら王宮内で別行動させてほしいんですよ」
「ふな?何でだ?」
「『イミテーション』を探したいんです。僕が一人で動けば出てくるかもしれない」
「……囮になるつもりですか?」
「僕が始末を付けるべき相手なので、僕が探すのは当たり前の事です」
 シルバー先輩とセベクは何も言わないけど、アーシェングロット先輩は不安そうな顔だ。
「大丈夫ですよ、戦うための装備は『S.T.Y.X.』から預かってますから!」
「……ええ、解ってます。解っては、いるんですけど」
「信じてください。ね?」
 ダメ押しで微笑みかけると小さく頷いてくれる。ほっとしつつ、みんなを振り返ればとりあえず異論は無さそう。
『単独行動は仕方ないとはいえ、基本的にはこちらの指示に従ってくだされ。特にラギー氏たちがヤバそうな時はすぐにフォローに入ってもらうつもりだから』
「わかりました。気をつけておきます」
 相手はキングスカラー先輩だ。戦力面では何人いても足りないだろう。キファジさんが味方してくれるとか、そういう期待は今の段階では出来ないし。
「ラギー先輩、ここまできたら腹くくるしかないっすよ!」
「うぅう、どうしてオレが……」
 みんなの視線を浴びて、居心地の悪さを跳ね返すように声を上げた。
「あー、もー!こうなりゃヤケだ。やってやろうじゃないッスか!」
 どうやら覚悟は決まったらしい。つぶらな瞳が野心に燃えて、ここにはいない『王様』を見据える。
「オレのユニーク魔法で革命を起こして、世界をひっくり返してやる!」

17/26ページ