7−5:虹色の旅路 後編


「この際だからユウくんに訊いておきたいんスけど」
「はい?」
「レオナさんの事、どう思ってる?正直に」
「…………良い人だなぁ、とは思ってますよ」
「そうじゃなくてさぁ。やっぱりヴィルさんの事が好きなの?だからレオナさんに冷たいワケ?」
「……まぁそれは、恋人でもないのにやたらベタベタする必要ないでしょう?」
『僕から見て、ユウさんは誰かに対してスキンシップを嫌がったりしてるイメージは無いよ』
 何とかはぐらかそうと試みているのに、オルトが間に入ってきた。嫌な予感がする。
『ヴィルさんと一緒の時が確かに一番落ち着いていたけど、ジャミルさんもアズールさんも平等にリラックスさせようとしてた』
「アズールくんも。へーぇ」
「ええ、そう。ストレスコントロールの一環ですよ」
『兄さんと再会した時も体当たりみたいに抱きついてたし』
「なんですって!?」
「アレはどれかというと安心感で……ヴァンルージュ先輩の夢、しんどかったので……思わず……」
 ただでさえ状況が前に進まなくて困ってたし、悪い人じゃないのは解ってたし。何となく甘えていい雰囲気あるし。
『なのに、ラギーさんから見て、ユウさんはレオナさんに冷たいんだ?』
「そうなんスよ!!なんならちょっと避けてるでしょ!?」
「いやぁ…………だって……王子様だし……」
「確かに王子様ッスけど!そんな事言ったら他の寮長だって大概VIPでしょうが!」
「僕は一般人ですよ」
「こっちは寮を挙げてレオナさんの恋路を応援してる立場なんスよ。半端な答えじゃ納得しませんからね」
「そこまでするぅ!?」
「お世話係の進退がかかってんだから!!」
「あ、自分のためなんすね……」
 漏れた、いや飛び出した本音にジャックが若干引いてるのも気にせず、ブッチ先輩はこっちに詰め寄ってくる。
「そういえばジャックの夢で、レオナ先輩との接触に安心する事があると言っていなかったか?」
 そこでタイミング良くシルバー先輩が何の悪気もなく言ったものだから、ブッチ先輩の目が一層輝いた。
「そうなんスか?」
「いや、あのぅ……」
「いい加減楽になっちまいましょうよ。相談なら乗りますって」
「……とてもそうは見えねぇっすけど……」
 なんか段々頭が混乱してきた。ここで僕が喋って何になるって言うんだ。
「そりゃ、キングスカラー先輩は王子様ですし、顔は良いし身長高いし声もかっこいいし何かいい匂いするし、体温高くてあったかいしすんごい心地良いしなんかホッとするけど、それはそれ!!!!」
 ろくろを回すポーズから手の中のものを投げ捨てるジェスチャーをすると、何人かが視線を送っていた。どうでもいい。
「僕は元の世界に帰るので、こちらで誰かと特別な関係になる気は一切ありません!アーシェングロット先輩の言うように、ストレスコントロール以上の意味はありませんから!!」
 言ってしまった。でもこれが本音だし、嘘ついてもしょうがない。元より嫌われる事は承知の上でやってる事だ。
 軽蔑されるだろうと思った。
 でもブッチ先輩は目を丸くしたままきょとんとしている。
「……いい匂いするんだ?」
「は?そりゃ王子様なんだから良いもん着てるだろうし、あと香水だか香油だか付けてらっしゃるでしょう?」
「……へぇ。へぇそっか!」
 ブッチ先輩は何か機嫌良さそうに笑っている。なんか意味深なんだけど。
「そもそも、皆さんが思ってるほどキングスカラー先輩が僕を好きとも限らないでしょう?願望が反映される夢の中でこうなってるんだから」
 タブレットに表示された記事をつついて示せば、何人かが難しい顔になる。
『うーん。でも本当に何とも思ってないなら、こんな情報を設定する必要もないんじゃないかなぁ』
『……ジャミル氏の夢のカリム氏みたいな関係性の、逆バージョンなのかも』
「逆バージョン?」
『都合良く自分の恋人になってる夢は見られない。受け入れられないから。だけど存在を無かった事にもしたくない。愛しているから』
 シュラウド先輩の言葉は淡々としているけど、声にはどこか同情めいた響きがあった。
『……だからせめて、幸せになっている事にしたかった。自分が認める事の出来る相手を選んで、この世界に存在している事にはしたかった』
 室内が静まりかえる。
『まあ、オタクの妄想ですけどね』
 気まずい空気を察してか、シュラウド先輩は茶化してごまかした。
「……だとすると、ユウと話した場合のレオナ先輩の反応は未知数だな」
『キファジさんの反応を見るにレオナさんと面識がある可能性は高いけど、現実に明確な関係の成立が無い以上、齟齬を突きつけるのは難しいかもしれない』
「レオナ先輩の夢の作り込みは非常に複雑かつ精巧だ。少々ショックを与えたくらいでは目醒めさせるのは難しいだろう」
「そーだな。セベクみてーにポカッとやられただけじゃ、レオナは目を醒ましそうにねえんだゾ」
「いちいち僕と比較するな!」
 セベクは咳払いをしてから、みんなに向き直る。
「では、どうやってレオナ先輩を目醒めさせる?」
 民衆の怒りの限界がいつやってくるか分からない。僕たちが動くよりも先に彼らが動き出し、キングスカラー先輩を処刑した場合、夢の世界がどうなるかも分からない。
 それを避けるには一刻も早くキングスカラー先輩を目醒めさせる必要があるけど、どうするべきかが悩ましい。
 沈黙の時間は意外と短かった。
「……コントローラーを取り上げるしか、ないんじゃないでしょうか」
 アーシェングロット先輩がぽつりと呟く。
「彼が巨大なサンドボックスゲームをプレイしていられるのは、国の全てをコントロール出来る『国王』という立場だからです」
 王権がコントローラー。言い得て妙。
「国王の権限を取り上げてしまえば、彼は嫌でもサンドボックスゲームを止めざるを得なくなる」
『確かに!それが出来れば、強制的に現実に引き戻す事が出来るかもしれない』
「なら……」
「王様を玉座から引きずり下ろすしかない!」
 ブッチ先輩とジャックが声を揃える。ノリノリだなぁ。
 とはいえ、結局はそれが一番効果的だろう。国民に先を越されないように気をつける必要はあるけど。
「……つっても、どうやって?」
「過去の歴史では、王を追放するには革命を起こし、新しい王を立てるのが定石だ」
 セベクがすらすらと答える。
 王を排除するために、代わりに立てる旗が先にいるのか。
「でも、新しい王って?」
「うーん。細かい事は抜きにして……何故か生き延びていたチェカくんが『おじたん、ただいま~!』つって登場したら一発なんスけどねぇ」
「それだーっ!!」
 ブッチ先輩の何気ない提案に、みんなの声が揃う。
 キングスカラー先輩の夢を壊すにはうってつけの役者かもしれない。……ちょっとダメージ入りすぎないか心配ではあるけど。
「で、でもこの夢ン中じゃ、あの子はもう……」
『世界最先端の「S.T.Y.X.」の技術をナメてもらっちゃ困るなぁ!現実のチェカさんの写真から、データを作成してホログラムで出力をすれば……』
「勝手にそんな事していいのかよ!?」
『現実でやったらかなりマズいと思うけど、ここは夢の中だし……そもそも、夢の中とは言え勝手に存在を抹消してる方が倫理的に問題があると思わない?』
「仰るとおり。ぐうの音も出ないッスね」
 ブッチ先輩が肩を落とす。現実は非情。
「『S.T.Y.X.』のホログラムなら外見は問題ないと思いますけど……それだけでキングスカラー先輩を騙すのはちょっと厳しいかもですね」
『あ、やっぱりそう思う?』
「やっぱり?」
『正直言って、外見を作るのはまだ簡単なんだ。素材は限られても結構どうにかなる』
 チェカくんは未成年の王族だ。もしかしたら報道機関に対して多少情報の規制とか行われてるかもしれない。そもそもまだ幼いから年数比較で露出も少ないだろう。
『でも、生物の動きを真似るとなると、必要なデータが膨大になる。参考データを取り入れて動かせるようにしたとしても、本人の動きとは変わってくる可能性が高いんだ』
 更に言うと獅子の獣人属は割と数が少なく、子どもとなると資料も少ない。運動能力が人間の子どもと違うので、その辺りの差もキングスカラー先輩に違和感をもたらす可能性も高い。
 一度しか会った事はないけど、あの様子を見る限りかなり元気が良くて怖いもの知らずって感じ。そんな断片的な性格の情報を足してもうまくいくかどうか。
「しかし、動きも喋りもしないのでは、すぐに偽物だと看破されてしまうぞ」
「なんかこう……腹話術で喋らせるとか?」
「それもすぐにバレるだろ!せめて魔法で操るとか……」
 言い掛けてジャックが止まる。僕も察した。
「魔法で……?」
「操る……?」
 二人でブッチ先輩を見る。本人は自分の顔を指さして怪訝そうな顔をしていた。

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