7−5:虹色の旅路 後編


 さすがにもう夢の回廊の移動も慣れたものだ。何となく夢に入るタイミングも掴めてきている。
 涼しい朝の空気が乾いた暑さに塗り替えられ、何となく見覚えのある景色を眺めながらオルトが着陸した。
『霊素シグナル・トラッキング成功。指定された座標へ到着しました』
「……ん?もう終わり?なぁんだ。小型バスの運転手のおっちゃんより、全然お上品な運転じゃないッスか!」
 アナウンスを受けてブッチ先輩が笑顔で感想を述べつつ下りていく。さすがマジフト部の飛行術得意勢。
 僕たちも降りて、周辺の景色を見回す。
 少し開けた場所を見ると、さっきブッチ先輩の夢で見た噴水が見えた。でも水が出ていなくて、ただの像になっている。周辺の景色もなんだか薄暗く思えた。
「あの噴水は……ラギー先輩の夢と同じで、夕焼けの草原の王都みたいだな」
「ま、レオナさんとオレは地元が一緒ッスからねぇ。暮らしぶりは天と地ほどの差があるけど」
 まぁ庶民と王子様じゃそりゃそうだなんだけど。
 なんていうか、……街の雰囲気が違う気がする。さっきはもっとキラキラして賑やかだった気がするのに。
「ラギーは初めての夢渡りだったが……全く問題はなさそうだな」
「ちょっとちょっとー。誰にものを言ってんスか、シルバーくん」
 ブッチ先輩がニヤニヤと笑って返す。
「これでも一応マジフト部のレギュラーッスよ。こんくらいの揺れや回転は全然平気。むしろ物足りないくらいッスわ。シシシッ!」
「ラギー先輩は『ディスク泥棒』の異名を持つバックス。トリッキーな飛行は誰よりも得意なんだ。ナメてもらっちゃ困るぜ!」
「なんでジャックが嬉しそうにしてんだゾ……」
 それはそう。
 マジフト大会であんだけ揉めたっていうのに、結局ジャックは先輩たち大好きなんだよなぁ。微笑ましい事ではあるけど。
「おい、アズール先輩!貴様、遠慮がなさすぎるぞ。あまりに強い力で腕が外れてしまうかと思ったではないか!」
「人数が増えてきて、掴まる場所が限られていたんです。仕方ないでしょう」
 かと思えばあっちではセベクとアーシェングロット先輩が揉めてるし。
「それとも振り落とされて、はぐれてしまってもいいっていうんですか!?」
 セベクにそう抗議していたアーシェングロット先輩の身体がぐらりと傾いた。慌てて支えに行くと、見るからに顔色が悪い。酔い止めのおかげで気絶するほどではないけど、やっぱりしんどそうだ。
『アズールさん、大丈夫?構成霊素に少し乱れが出てきてる』
『なんというか「闇」との戦闘よりも、夢渡りとマジフトの試合と熱帯地域の気候でHPが削られてる感じがしますな』
『なら、冷たい飲み物と休憩でダメージの回復を図ろう』
「じゃあ噴水の近くのベンチに。肩に掴まってください」
「……すいません……」
 アーシェングロット先輩もこちらを気遣う余裕はなさそう。ついてきてもらった事が申し訳なく思えてきた。
 ベンチの埃を払って座ってもらう。寄りかかってもらえるように隣に座って、邪魔にならない程度に背中を撫でておいた。
「おやまあ、オクタヴィネル寮生は随分ヤワでいらっしゃる」
 ブッチ先輩が軽く煽ると、アーシェングロット先輩は一瞥したけど、すぐに視線を落とした。挑発に乗る元気も無さそう。
 その対応を見たブッチ先輩も、それ以上挑発を続ける気は無くなったみたい。
「しゃーないッスねぇ。土地勘あるのオレだけだし、そこいらの店でボトルの水かお茶を仕入れてきてやりますよ」
「ラギー先輩、俺も荷物持ちについて行きます」
「お、荷物持ちがいてくれるなら屋台の安いカップのヤツでも……ん?あれぇ?」
 ブッチ先輩は周囲を見回して首を傾げる。
「ここいらは王都の中でも一番人通りが多くて活気がある地区なんスけど……」
 そう言われてみんなも周囲を観察し始めた。さっき受けた印象は間違いじゃないらしい。
「ラギー先輩の夢で見た時よりも、なんつーか……車や人通りも少なくて静かですね」
「屋台も全然ねぇや。飲み物を売ってる商店もシャッターが下りてるし……そのへんの人に話きいてみましょーか」
 ブッチ先輩の夢の光景には多少の主観や願望もあっただろうけど、こう言うからには現実ではもっと賑やかな場所なのだろう。
 ブッチ先輩は広場の周囲を見回し、少し暗い表情ながら普通の雰囲気の女性に声をかけていた。人通りが少ないので、その一人さえ数分探したくらいなんだけど。
「あのぉー、お姉さん。ちょっといいッスか?」
「なんですか?……ひっ!ハイエナ!?」
 女性が声を上げれば、広場にいた人たちがこちらを見たり、そそくさと逃げていく。
「なにっ、ハイエナだって!?」
「こ、ここに食べ物はもう何もないよ!帰ってくれ!」
 そんな言葉を投げつけられたかと思えば、誰もが広場から消えていった。ちょっと柄の悪そうな人たちでさえ、気まずそうな顔で逃げていく。
 呆気に取られているブッチ先輩を、ジャックが疑惑の眼差しで見つめていた。
「ラギー先輩……」
「待ってよ、オレなんも悪いことして……ないわけじゃないけど、少なくともあんなに怯えられるような事はマジでしてねぇッス!」
「人間どものおかしな様子もそうだが……ジャックの言うように、ラギー先輩の夢よりも明らかに都が寂れた様子なのがより気になる」
 広場の噴水ひとつ取ってもそうだし、広場自体も全体的に薄汚れている雰囲気がある。市場に続いている道の方にも活気は感じないし、通りがかっていた人たちはみんな暗い顔だった。
「若様の見せる夢は、幸せな夢であるはずだ。それなのに、何故都が寂れている?」
『それ、拙者も気になってたポイント』
 何を幸せに思うかは人によるけど、少なくともこんな状況がキングスカラー先輩の幸福に繋がるとは思い難い。
 ……まさか『イミテーション』の影響じゃないよね?怖いんだけど。
『他に気になる事もあるし、少し調べてみるよ。オルト、あとは任せた』
『了解。それじゃあまずは、王宮に向かってみよう。レオナ・キングスカラーさんは夕焼けの草原の第二王子。王宮にいる可能性が非常に高いからね』

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