1:癇癪女王の迷路庭園
真っ青な空。新緑と薔薇の匂い。
あれだけめちゃくちゃになったお茶会の会場だけど、数日しか経っていない割には体裁が整っていた。ところどころ不揃いで不格好だけど、掃除は行き届いているし、新しく植えたらしい薔薇の木にはつぼみも結んでいる。割とすぐ綺麗に直りそうだ。
決闘の時はテーブルセットはしまわれてたから、お茶会の準備に不備はなさそう。あのちょっと雑然としながらもお洒落な空間が今回も出来上がっていた。
出迎える寮生たちはみんな和やかな表情だが、何人かは僕とグリムに気づいて首を傾げている。入り口の寮生は寮長の招待だと知っていたが、全員には伝わっていなかったようだ。
エースたちにひっついて隅っこに座っていると、ラッパの音が高らかに響いた。
「我らがリーダー、赤き支配者!リドル寮長のおなーりー!」
「リドル寮長、バンザーイ!」
以前と同じように、高らかな宣言に寮生たちの声が続く。
ローズハート寮長は背筋をピンと伸ばして歩いてきた。その立ち居振る舞いも変わらないが、会場の空気は以前と違い柔らかく感じる。パーティーらしい雰囲気、とでも言うべきだろうか。
「庭の薔薇は赤く、テーブルクロスは白。……ティーポットの中の眠りネズミは……入ってなくてもいい……んだよね……」
指さし確認のような朗々とした言葉が、段々と所在なさげになっていく。見かねたクローバー先輩が笑いかけた。
「すぐに変わらなくても大丈夫さ。ジャムはスコーンに塗ればいいんだし」
寮生たちもそんなやりとりを温かく見守っていたのだが、ローズハート寮長の視線が一点に留まって一気に緊迫する。
何かと思って目を向ければ、以前は生け垣に阻まれて見えなかったであろう場所に、白い薔薇が残っているのだ。青ざめてしまった寮生もいる。
「ちょっとちょっと、エースちゃんデュースちゃん!薔薇の木は君たちの担当だったよね!?」
「す、すみません!見落としてました」
「何だよ、結局変わってねーじゃん」
素直に謝るデュースと、不満げに口を尖らせるエース。以前なら首をはねられていたであろうが、今日の寮長は違った。
「全く……仕方ないね。今日はお客様を招いているのだから、これぐらいはきちんとしてほしかったけど」
寮長は自分の席から降りて、薔薇の方に歩いていく。慌てて寮生たちが追いかけていき、僕たちもそれに倣った。
白い薔薇は生け垣の一面に広がっていた。袋小路になっている部分なので、単純に見落としたのだろう。
「ふふ、薔薇を塗るなんていつぶりだろう」
ローズハート寮長は何だか楽しそうに笑っていた。杖を高く掲げると、放たれた光が大きく広がって薔薇の木に降り注ぐ。光に触れた薔薇が、次々に赤く染まっていく。どれもムラも塗り残しも全くない、非の打ち所のない真っ赤な薔薇だ。
デュースもグリムも一つずつの作業、ダイヤモンド先輩ですら一株まとめてだったのに、一帯の薔薇があっという間に真っ赤に染まってしまった。寮生たちから感嘆の声があがる。
「リドルくんは実践魔法が得意だから、これぐらい朝飯前ってヤツだよね」
「やっぱり、寮長は凄え……!」
デュースは素直に感激しているが、エースは面白くなさそうだ。じゃあ出来るヤツがやった方が速いじゃん、とか思ってそう。
不意に振り返ったローズハート寮長と目が合った。途端に表情が綻ぶ。
「ユウ、来てくれたんだね!」
あまりに屈託のない笑顔でビビったが、野次馬の寮生に囲まれているので逃げるわけにもいかない。
「すまないね、パーティーのどのタイミングで招待客を迎えに行くか資料が全くなくて、挨拶の時間が無くなってしまって」
「あ、いえお構いなく。お招きいただきありがとうございます」
「来てやったんだから感謝しろよ!」
「すみません」
「いいんだよ、二人を招待したのはボクだからね」
グリムの不遜な言葉にも怒らないなんて、と内心驚く。
本当に憑き物が落ちたような変わりようだ。まぁ新参の僕より、彼の姿を一年見てきた寮生たちの方がもっと驚いているだろう。
ふと、じっと見つめられている事に気づいた。
「あの……何か?」
「そのメガネ、度は入ってないのかい?」
「ああ、はい。視力は健康です」
「そうか、じゃあ問題ないね」
何が?と問いかける前に、全身に光が注いだ。身体が光った、気がする。
見下ろすと、服が変わっていた。前にダイヤモンド先輩に着せられたあの服だ。メガネも無い。同じく、グリムもリボンがハーツラビュルのデザインに変わっている。
「なんっ……!?」
「ああ、やっぱり素敵だね」
うっとりと微笑まれた。寮生たちのどよめきが耳に入った様子はない。
「最初に見た時から思ってたんだ、なんて可愛らしいんだろうって。本当に絵本の中のお姫様みたいだって」
「お姫様ではないですが!?」
「うん、知ってるよ。でもとても似合ってるし、素敵だ。ずっと見ていたいくらいに」
そう言うと、僕の手を取って王子様がするように口づけた。美少年の笑顔と優しく甘い言葉、全く嫌みも不自然さもない仕草に、頭がくらくらしている。
「子分、顔真っ赤だゾ」
「さあ、こちらへどうぞ、お客様がた。……エースたちもおいで」
寮長が手を引いて席まで案内してくれた。わたわたと移動している間に、寮生たちにカップが渡っていく。
気づけばローズハート寮長の隣に座っていた。楽しそうに準備を進める寮生たちの姿が全部見える。
「そんなに緊張しないでくれ、リドルは君と会うのを楽しみにしてたんだから」
クローバー先輩が紅茶を注ぎながら笑う。
「でもあの、こんな目立つ所にいなくても良いのでは……」
「揃いの人形みたいで可愛いと思うが?」
「ホントホント。ヘアアクセ、リボンじゃなくてティアラの方が良かったかな。変えちゃう?」
「このままで結構です!」
そんな話をしているうちに、乾杯の準備が整ったとクローバー先輩に報告が入った。クローバー先輩が合図して、ローズハート寮長が頷く。
「では、なんでもない日を祝して、乾杯!」
乾杯、と寮生たちの声が応える。その様子に、ローズハート寮長は安堵しているみたいだった。
グリムはすぐさま目の前のお菓子に手を伸ばす。ケーキや焼き菓子を頬張って幸せそうだ。行儀が悪くてひやひやするが、機嫌が良いのは正直ありがたい。
「あ、あの、監督生」
声をかけられて振り返ると、何となく見覚えのある生徒が立っていた。多分あの日、生け垣でうずくまっていた生徒だ。
「君か、どうしたんだい?」
「す、すみません寮長」
「ボクがいない方が良ければ席を外そうか?」
「いえ!大丈夫です!寮長もいてください!」
生徒は何故か深呼吸する。
「あの時は、本当にありがとう。おかげでちゃんと寮長に謝れたし、許してもらえた」
「それは……丸く収まったようで何よりです」
「これからは、俺も寮長を支えられるようになろうと思ってる。お菓子を作る担当に入ったんだ。まだまだ戦力外だけど、いつかトレイ先輩みたいに、おいしいケーキを作れるようになるよ」
よかったら食べに来てくれよな、と付け加えられた。
「楽しみにしています。頑張ってくださいね」
社交辞令半分、前向きな気持ち半分で、笑顔で返した。生徒は顔を輝かせ、それじゃあまた、と言って席に戻っていく。
「……哀れな犠牲者一名追加~」
「人を化け物みたいに言わないでくれる?」
「まぁ、ゴーストプリンセスだし、当たらずとも遠からず、みたいな?」
「だからゴーストでもプリンセスでもないですってば」
「まぁまぁほらほら、一枚撮らせてよ。リドルくんと並んで!」
ダイヤモンド先輩が寮長を手招きする。寮長はごく自然に僕の手を取った。慌てて立ち上がる。先輩のスマホカバーのキャラクターがカメラのレンズを強調するので、自然とそっちを見てしまった。
「うん、ばっちり!あとでリドルくんのスマホにも送るね。マジカメにもアップしていい?」
「別に構わない……よね?」
頷こうとした寮長が僕を見る。
「あの、……そもそもマジカメって何でしょう?」
ずっと引っかかっていた事を思い切って尋ねた。あ、と何人かが気づいた顔になる。
「そっか、ユウは異世界から来たから知らないのか……!」
「マジカメは『マジックカメラテレグラム』の略称でSNS……ソーシャルネットワーキングサービスっていう、インターネットを介した交流ツールだよ」
「写真をアップしたり、コメントしたりするんだよ」
「あ、いや、SNS自体は故郷にもあったんでそれは……いいんですけど……」
記憶を必死でたぐり寄せる。最初にこの服を着せられた時だったか、撮影と一緒にアップしてもいい?って訊かれた気がする。
「……つまり、僕のこの姿が、ネット上にアップされてる?」
「うん。凄い反響だったよ。服が可愛いって褒められたし『ナイトレイブンカレッジって男子校じゃなかった!?』ってのもいっぱい」
マジか。
ちょっと頭が混乱している。思わず頭を抱えた。
「い、今からでも消しとく?」
「いや……多分、あんま意味なさそうですし……大丈夫です……」
「そんなに落ち込む事?」
「…………良いよもう。うん。元の世界に帰れさえすれば関係ないし!」
「あ、じゃあリドルくんとのツーショット、アップしていい?」
「もうご自由にどうぞ」
ありがと、とダイヤモンド先輩はスマホを操作する。
盲点だった。確認を怠った自業自得。
とはいえ今は全寮制の学校の中にいるわけだし、自分目当ての不審者が不法侵入するような事も起きないだろう。……そう信じるしかない。
「じゃあもういいだろ、オレともツーショット撮ろうぜ!」
「お断りします」
「何でだよ!!」
「悪用されそうだから」
「ひどくね!?」
「まあまあ、デュースちゃんとグリちゃんも一緒に撮影して、トリミングすれば良いじゃん」
「なんて事を言うんですか、先輩……」
ダイヤモンド先輩の発案に、デュースがおののいている。
「ところで、寮長の詫びタルトは?」
不機嫌なエースの言葉に、寮長がぎくりと顔を強ばらせた。
「まさか用意してねえの?」
「そんなワケないだろう。ちゃんと一人で作ってきたよ」
そうは言いつつ、緊張した顔で銀のカバーのついた皿を持ってきた。カバーを開ければ、いちごがたっぷり乗ったタルトが出てくる。いちご以外の飾りは無いしちょっと焦げたり歪な所はあるけど、十分おいしそう。初めて作ったにしては立派なタルトだ。
「うん、いちごの艶を出すナパージュを塗る一手間もかけてるし、初めてにしては上出来じゃないか」
「はい、すかさず甘やかし入りました~。ほっといて実食といきますか」
ダイヤモンド先輩の撮影が終わってから、タルトを切り分ける。切り分けてもやっぱりおいしそうないちごのタルトだ。
全員がほぼ同時に一口食べた。
いちごの甘酸っぱい味、タルトのサクサクした食感、それを上書きする勢いで襲い来る塩味。
「しょっぱい!!!!」
奇跡的に全員の感想が揃った。それを聞いた寮長は目を丸くして、自分の分を口に運ぶ。即座に固まり、大急ぎで紅茶を流し込んでいた。
「なんだこりゃ!?なに入れたらこうなるワケ!?」
「げ、厳密に材料を量ってルール通りに作ったんだ。こんな間違いはないはず…………あっ」
寮長は何かに気づいた顔になった。
「もしかして……オイスターソースを入れたから?」
およそケーキに入れるべきではない材料だ。どうしてそうなった、と普通はツッコむ所だが、諸悪の根源が解っている僕たちはそちらを振り返る。本人は口元に手をやってうつむいているので表情は見えない。
「トレイが昔、レシピには載ってないけど、美味しいタルトには絶対隠し味でオイスターソースが入ってるって」
「んなわけねーだろ!ちょっと考えれば嘘だってわかるでしょーが!」
「……自分だってちょっと信じてたくせに」
「しかもこれ、隠し味って量のしょっぱさじゃないよね。どんだけたくさん入れたの?」
「だ、だって適量とか言われてもわからないじゃないか。正確に教えておいてくれないと……」
困った様子の寮長を見て、クローバー先輩が吹き出した。もう堪えられない、と爆笑している。
「まさかあの冗談を真に受けて、本当に入れる奴がいたなんて……!」
その様子を見ていた寮長はきょとんとして、でも徐々に口許に笑みが浮かんできた。
「そうだね、馬鹿だな、ボク……あははは!」
さっきまでの空気はどこへやら。みんなが笑い出してしまう。
「不味すぎて笑えてきたな」
「つーか、これもう笑うしかなくね?」
「でもなんか、これはこれで美味い気がしてきたんだゾ!」
「あ、それわかるかも。案外悪くないよね」
グリムの意見にダイヤモンド先輩が同調する。一年生は理解不能のジェスチャーをするが、クローバー先輩は笑顔だった。
「このタルトは甘くないから悪くない、だろ?」
その言葉に、ダイヤモンド先輩の表情がぎくりと強ばる。
「お前、甘いもの嫌いだもんな」
「そうなんですか?」
いつぞやのマロンタルト作りの時は、完成のタイミングで来ていたからむしろ甘党なのかと思っていた。
「え、と、トレイくん何で知ってんの?」
「『薔薇を塗ろう』を話のネタにするフリで、よくケーキの味を変えさせるだろう?もしかしたら甘いものが嫌いなのかなと、ずっと思ってた」
「……うわ、はっず……」
同級生の告発に、ダイヤモンド先輩は恥ずかしそうに顔を背ける。そしていつになく眉をつり上げてクローバー先輩を睨んだ。
「トレイくんさぁ、リドルくんの件もそうだけど、その『思ってたけど言わない』っての、良くないと思うな~、オレ」
「ははは。次の『なんでもない日』はキッシュも焼いてやるからな」
「そりゃどーも。……ケーキ並みにフォトジェニックなやつにしてね」
なんとも微笑ましい光景だ。つい数日前は、こんなに和気藹々とした時間を過ごせるようになるとは少しも思わなかった。
ちらりと横を盗み見ると、寮長もとても楽しそうに寮生たちを見ている。作法を気にして真面目な顔をするよりも、ずっと素敵だと思った。
こういう時にゴーストカメラを持ってきているべきなんだよなぁ。つい学校の鞄に入れっぱなしになっているけど。
「ボクの顔に何かついてるかい?」
「あ、いえ。ゴーストカメラを持ってくればよかったなと思って」
学園長から預かったカメラの話をすると、ローズハート寮長はにっこり笑って頷く。
「そういう事なら、庭が綺麗になった頃にまたパーティーに招待するよ。みんなの事を撮影してほしい」
「ありがとうございます、寮長さんも撮らせてくださいね」
そう言い添えると、少し複雑そうな顔をされた。
「リドル、でいいよ。君はうちの寮じゃないし、あんまり他人行儀なのも落ち着かないよ」
「あー……えー……それは逆に僕が落ち着かないので、ローズハート先輩、で呼ばせてください」
ずっと『ハーツラビュルの寮長』のイメージが強すぎて、なんとなく寮長と呼んでしまっていた。年齢的には恐らく年下なんだけど、でもやっぱり学年は上だし名前呼びするほど馴れ馴れしくは出来ない。
ちょっと残念そうな顔はされたけど、君がいいならそれでいいよ、と言ってくれた。ほっと胸をなで下ろす。
「青春だにゃ~アオハルだにゃ~」
耳慣れない声に顔を上げると、いつぞやの紫の猫っぽい少年がいた。フルーツタルトを片手にローズハート先輩の座る椅子の背もたれに裏からもたれかかっている。
「チェーニャ!」
「トレイのお菓子はいつ食べても絶品だにゃ~」
言いながら最後の一口をぺろりとたいらげた。
「どうしてここに?」
「なんでもない日だからお祝いに来ただけさ。おめでとう、リドル」
ローズハート先輩とクローバー先輩の幼なじみ。もしかしなくても、今回も前回も、心配で見に来ていたのかも知れない。違う寮でも、クローバー先輩から様子を聞いてるだろうし。
そう質問しようかと思ったけど、目が合うとウインクされて、何となく言いづらくなった。言葉にするのは野暮、という事だと解釈する。
「なんでもない日はハーツラビュルの伝統行事だ。キミには関係ないだろう?」
「それはそっちの人たちも同じじゃにゃーの」
「そういえば、オマエは結局どこの寮なんだゾ?」
「そもそもチェーニャはうちの学園の生徒じゃない。ロイヤルソードアカデミーの生徒だ」
「ロイヤルソードアカデミー?」
僕やグリムは耳慣れない単語にただ首を傾げたが、エースとデュースは殺気立った。
「まぁ細かい事は気にするにゃあ」
「気にするっつーの!他校の生徒が不法侵入とか大問題だろうが!」
エースがぎゃあぎゃあ喚くので、寮生も何事かという顔をしている。
「いま、ロイヤルソードアカデミーっつったか?」
「あの気取った奴らの仲間が来てるって?」
ざわめく声はお茶会の雰囲気にそぐわない殺気を放っていた。
「他校、って事は」
「ロイヤルソードアカデミーは、この賢者の島にある別の魔法士養成学校だよ」
同じく歴史ある名門校であり、学校単位での行事では競り合う機会も多いらしい。
「ナイトレイブンカレッジの生徒は、高確率でロイヤルソードアカデミーを敵視していてね」
「百年も延々負け続けてれば、そうもなるというか……」
とんでもない数が出てきて驚く。それだけ記録があったらそりゃみんな殺気立つか。新入生のエースたちでさえこれだけ敵意むき出しなのは相当だ。
「タルトも食ったしオレは帰るかにゃ~。改めて、なんでもない日おめでとう~」
「あ、待てコラ!」
抗議の声を無視してチェーニャさんは消えていく。まだ近くにいるはずだ、と寮生が何人か慌てて走っていった。
「あ」
「どうしました?」
「いや、ボクの作ったいちごタルトの最後の一切れが、いつの間にか無くなってる……」
七人で分けるので八等分していたのだが、確かに残っていた最後の一つが無い。
「チェーニャだろうな」
「一声かけてくれれば警告したのに」
「……まあ、盗み食いは良くない、っていう良い教訓にはなりそうだな」
クローバー先輩は苦笑するけど、ローズハート先輩は心配そうだ。
でも何となく、どんな味だろうと持っていっていた気はする。だってあの能力なら、ずっと会話を盗み聞きしててもおかしくない。友達が初めて作ったタルトだし、このままだと最後の一切れは廃棄コースだっただろうし。都合のいい想像でしかないけど。
「あ、ヴィルくんからいいね来てる。めずらし~」
ダイヤモンド先輩のご機嫌な声、警戒状態の寮生を宥めるローズハート先輩とクローバー先輩の声、未だ臨戦態勢のエースとデュースの声、なんだかんだと勝手気ままな皆の声。
賑やかなお茶会は喧噪の切れ間が無い。それをどこか幸せな事のように感じてる。
「にゃっはー、腹がはちきれるまでごちそうを食ってやるのだ!『なんでもない日』バンザーイ!」
グリムのはしゃぐ声が、青空の下に響いた。