7−4:虹色の旅路
鏡舎の裏に集まった僕たちは、ジェイド先輩の偽者から得た情報を共有した。
つまりアーシェングロット先輩がいないところで、契約書の入ったアタッシュケースを開ける手段が無いって事を。
「アズールって、味方だったら頼りになると思う事多いけど、敵になるとマジでめんどくせぇ~」
フロイド先輩の率直な感想に苦笑しつつ、しかし手詰まりになってしまった現実から逃げる事も出来ない。
「さっきの保管庫のように、イデア先輩が開ける事は出来ないだろうか?」
『無理無理。アタッシュケースの魔法に関しては、構築式が割れてるマレウス氏の魔法由来のものじゃなく、アズール氏が自ら施した魔法だから』
ツノ太郎の魔法領域に設置されたものだったら構築式から分解する事で開ける事が出来たけど、内部の人間が勝手に構築したものについては勝手が違う、という事らしい。
『すごーく時間をかければ出来るかも知れないけど、恐らくはその間に「闇」が復活しちゃう。あの二人を排除した意味がないでしょ』
『僕がビームでアタッシュごと中身を焼いちゃうのは?』
『それもダメ!いま判ってるのは表面の防衛魔法だけ。この強度なら、確かにオルトのビームなら破壊できる可能性はあるよ。でもその内側にアズール氏が何も仕込んでないとは言い切れない』
計算高い上に夢の世界の設定も細かいアーシェングロット先輩だ。
自分のかけられる防衛魔法の限界を把握していて、『もしも』に備えた罠を設置している可能性はかなり高そう。シュラウド先輩がここまで警戒するのも解る気がする。
『かかってる魔法がどんなものか完全に把握し切れてない状態でやるのはヤバい。何かの拍子に周囲を巻き込んでドカン!……って可能性もあるんだから』
『じゃあ、みんなには離れててもらって、僕一人でなら……』
「待て。オルトの誘導がなければ、俺たちは正確に夢を渡る事は不可能。お前を失った時点で、この作戦は失敗に終わる」
それもそうだ。いまここだけのために、任務全体の進行に支障を来すワケにはいかない。
「第一、お前だけを危険に晒すような真似はしたくない」
それも勿論、そうだ。
が、そうなるとやっぱり手だてがない。
「ぐぬぬ……せっかく契約書を手に入れられるのに、八方塞がりではないか!」
「じゃーさぁ、アズール本人に開けてもらえば?」
フロイド先輩の提案に、全員が目を丸くする。いち早く我に返ったバイパー先輩が冷たい視線をフロイド先輩に向けた。
「開けてくれと頼んで『はい、わかりました』と言うわけがないだろう」
「そーじゃなくってぇ、アズールをブチ切れさせて強い魔法を使わせんだよ。それをアタッシュケースにぶつけんの」
「……例えば、『王者の咆哮』とか?」
「そう、それが一番都合いい」
触れたものを砂に変える魔法。紙一枚程度なら数秒もかからない。
物理的に手に取れるものを砂にするので、『魔法の込められた物体』の物体の方を砂に出来れば、実質魔法を無効化出来る。
今回で言えば、中身が『黄金の契約書』である以上、魔法をかけるなら周りのアタッシュケースの方になるだろう。防衛魔法を破壊した上で『王者の咆哮』の効果がアタッシュケースまで届けば、その勢いのままに中身ごと砂に出来る。
あの魔法は一見して射程など無さそうに見えて、実は魔法エネルギー弾の表面にその性質を添加して、そのエネルギー弾がぶつかったものを砂に変える、なんて応用技も出来るらしい。それを先に作った砂に偽装するとかして、『砂を操る事も出来る魔法』と認識させたりもしているようだ。
んで、アーシェングロット先輩の性格からして、この魔法を使う時は対象から距離を取るだろう、との事。
海の中に暮らす人魚にとって『乾き』は大敵。キングスカラー先輩から奪って自分自身の力にしたと言っても、その恐れはアーシェングロット先輩自身にもあると考えられる。
人魚の自分が怖いものならば、同じ人魚であるフロイド先輩やジェイド先輩にも効果が高いと踏む可能性は高い。いや人間からしても砂にされるの怖いトコなんだけど、それはともかく。
「……それ、本当に上手くいくのか?」
「だが、今はフロイドの作戦に賭けてみるしかないだろう」
「ああ。そして僕たちに迷っている暇はない!」
「そんな心配しなくても上手くやるってぇ」
訝しげなみんなに対し、フロイド先輩はいつもの調子で返す。でもいつになく気力に満ちている気もした。
「なんか、今日はイケる気がすんだよね」
「ふふ。その言葉、信じていますよ」
絶好調の片割れに笑顔を浮かべつつ、ジェイド先輩はみんなを見回す。
「では……参りましょうか」
反対意見は誰からも出ない。
ここが正念場だ。