1:癇癪女王の迷路庭園




 絵本のような夢を見た。


 小さな男の子が、母親の言いつけを守って真面目に勉強している。
 鳥籠の中の小鳥みたいに、窓の外を時々寂しそうに見ていた。

 ある日、男の子と同い年ぐらいの男の子たちが窓を叩いて遊ぼうと誘った。
 男の子は誘いに乗って部屋を抜け出し、外の世界の楽しい事を知る。
 その日から毎日のように部屋を抜け出して遊びに出ていたけど、それがバレて、母親の監視はもっと厳しいものになった。

 男の子にはたくさん大好きなものがあった。宝物のようなケーキ、友達と遊ぶクロッケー、友達、母親。
 それなのに母親が好きになって良いと言うものしか、好きだと言えなくなってしまった。

 でも男の子の中には、まだまだたくさん大好きなものが増えていった。
 蜂蜜を入れたミルクティー、ハリネズミやフラミンゴなどの動物たち、いろんなお菓子。
 小さな胸の中にはちきれんばかりの大切な大好きを、男の子はしまいこみ続けた。

 母親から離れ学校に行っても、学校には別のルールがあって、それを守らなくてはいけない。
 ルールを破ったら、自由は奪われてしまう。罰として大切なものを壊されてしまう。だから、ルールは守らなくちゃ。楽しい事や好きなものを守るために、守らなくちゃいけない。

 ルールという茨にすっかりがんじがらめにされた男の子は、自分の気持ちをうまく伝えられず、茨のトゲでみんなを傷つけてしまった。その事に気づかず、目を背けて、男の子は痛くて寂しくて泣きたいのをいつもこらえて、みんなの大切なものを守ろうと、ひとりで必死に頑張っていた。

 そうしていたら怒った顔の男の子が、茨のトゲを全部引っこ抜いてしまった。怒った男の子にトゲは痛いんだと教わって、やっと男の子の胸にずっと刺さっていた茨のトゲが抜け落ちた。
 その傷から男の子の大好きなものへの思いが溢れだして、ようやく男の子は泣く事ができた。

 その日から、男の子の周りにはたくさんの友達が集まるようになった。
 薄い関わりも濃い関わりも、楽しいも嬉しいも悲しいも苦しいも、みんなのたくさんの気持ちが溢れるようになった。

 男の子は大輪の薔薇のような、華やかな笑顔で、その中心にいる。
 これからもきっと、ずっと。


 長い割に理屈も起承転結もあったもんじゃない、めちゃくちゃでおかしな物語。

 あの男の子の笑顔がどうか失われないでほしいと、心から思った。


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