7−4:虹色の旅路
………
「……ごめんなさいね、付き合わせて」
「気にしないでくれ」
『今回ばかりは仕方ないよ。ヴィルさん自身、事前に不安を感じる自覚要素が無かった。予想は限りなく不可能に近い』
二人は励ましの言葉を口にするが、ヴィルの表情は暗いままだ。その様子をオルトはじっと見つめている。
『……ヴィルさん、訊いても良い?』
「何?」
『どうしてユウさんをセベクさんたちと一緒に行かせたの?傍にいてもらった方が回復は早くなりそうなのに』
オルトは出発前のヴィルと悠の様子を思い出して尋ねている。
事実として、精神的な負荷から来るバイタルサインの変調は、悠を抱きしめる事で落ち着いていた。今回の体調不良に関しても、悠の存在は回復に少なからず良い影響を与えるだろう、とオルトは見ている。
質問に対し、ヴィルは少しだけ考えるように黙った。
「……あの子に、あまり情けないところを見られたくないの」
静かに息を吐きながら、呟くような声で答える。
「今までも沢山見られてるけど、それでも。……アタシ、あの子の王子様でいたいんだもの」
子どもじみた己の考えを恥じるように、柔らかく微笑む。美しい笑顔を見て、オルトは目を細めた。
『そっか。……うん、分かる気がする』
二人の表情を見て、シルバーも穏やかな笑みを浮かべていた。
「……親父殿の言う通りだ」
「何が?」
「『愛しい者を想っている時の目は皆同じだ』と。今のヴィル先輩は、ヴィル先輩の話をしている時のユウと同じ目をしているように思う」
「……あら、そう?」
ヴィルの表情が綻ぶ一方、オルトは首を傾げた。
『感覚的な話だね。リリア・ヴァンルージュさんの夢の中でそんな事があったの?』
「ああ。外見の特徴が似通った人物の話をしている時に、ヴィル先輩の話になったんだ」
焚き火の灯りを映して、暗い色の瞳が色づいていた。肌もほんのりと赤らんで、柔和な外見をさらに愛らしく見せる。
色恋沙汰に興味の薄い自覚があるシルバーでさえ、誰かを愛するという事にわずかな憧れを抱くほど、魅力的な姿だった。
その姿を知るからこそ、冷ややかに絶望を語る声にも驚かされた。
普段の愛想が良くおとなしい姿からは想像できない、差し伸べられる何もかもを拒絶し突き放すような言葉。
「……ユウは本当に、ヴィル先輩の事が好きなのだろうと思う」
シルバーが真顔になったのを見て、ヴィルは開きかけた口を閉ざした。オルトもシルバーをじっと見つめている。
「本当は、ヴィル先輩とこれからもずっと一緒にいたいのだろうとも、思う」
「……そう思ってくれてるなら、嬉しいわね」
「……ヴィル先輩」
「何かしら」
「大切な人とどうしても離れなければいけない日が来るのは解っているとして。その時まで……あなたなら、どう過ごす」
沈黙が流れた。誰かが近づいてくる気配もない。
「……分からない。……だけど、出来る事を全てしてあげたいと思う」
穏やかな声音だった。悲壮でも諦観でもなく、純粋な愛情だけがそこにある。
「愛する人が選んだ道を邪魔する事はしたくない。望む事は何でも叶えてあげたい。……という気持ちで動けば、そういう事になるかしらね」
「……そうか」
「どうしてそんな質問をしたのか訊いても?」
「……俺も、見送らなければいけない、大切な人がいる」
静かな答えに二人はただ耳を傾ける。
「受け入れなくてはいけないと解っている。何か出来る事は無かったのかと、今でも思う時がある。だから……訊いてみたかった」
「……そう」
二人とも、詳細を尋ねる事はしない。穏やかな沈黙が流れる。
『むっ』
唐突にオルトが顔を上げた。二人の視線もオルトに向く。
『兄さんからのエマージェンシーコールだ!』
「何かあったの?」
『……屋台の人とお金の支払いで揉めてるみたい。熱砂の国の通貨を出力して持って行かなきゃ』
「俺が行こう。オルトはヴィル先輩とここにいてくれ」
『場所はこの裏の通りの並びにある果物の屋台だよ。そんなに距離は離れてないし、みんな一緒だからすぐに判ると思う』
「わかった」
オルトが出力した通貨を手渡すと、シルバーは素早く屋台の方に走っていった。
「……まあ、あのメンバーで何も起きないワケがないわよね……」
『そうだね。……何か情報に繋がってればいいけど』
「……ごめんなさいね、付き合わせて」
「気にしないでくれ」
『今回ばかりは仕方ないよ。ヴィルさん自身、事前に不安を感じる自覚要素が無かった。予想は限りなく不可能に近い』
二人は励ましの言葉を口にするが、ヴィルの表情は暗いままだ。その様子をオルトはじっと見つめている。
『……ヴィルさん、訊いても良い?』
「何?」
『どうしてユウさんをセベクさんたちと一緒に行かせたの?傍にいてもらった方が回復は早くなりそうなのに』
オルトは出発前のヴィルと悠の様子を思い出して尋ねている。
事実として、精神的な負荷から来るバイタルサインの変調は、悠を抱きしめる事で落ち着いていた。今回の体調不良に関しても、悠の存在は回復に少なからず良い影響を与えるだろう、とオルトは見ている。
質問に対し、ヴィルは少しだけ考えるように黙った。
「……あの子に、あまり情けないところを見られたくないの」
静かに息を吐きながら、呟くような声で答える。
「今までも沢山見られてるけど、それでも。……アタシ、あの子の王子様でいたいんだもの」
子どもじみた己の考えを恥じるように、柔らかく微笑む。美しい笑顔を見て、オルトは目を細めた。
『そっか。……うん、分かる気がする』
二人の表情を見て、シルバーも穏やかな笑みを浮かべていた。
「……親父殿の言う通りだ」
「何が?」
「『愛しい者を想っている時の目は皆同じだ』と。今のヴィル先輩は、ヴィル先輩の話をしている時のユウと同じ目をしているように思う」
「……あら、そう?」
ヴィルの表情が綻ぶ一方、オルトは首を傾げた。
『感覚的な話だね。リリア・ヴァンルージュさんの夢の中でそんな事があったの?』
「ああ。外見の特徴が似通った人物の話をしている時に、ヴィル先輩の話になったんだ」
焚き火の灯りを映して、暗い色の瞳が色づいていた。肌もほんのりと赤らんで、柔和な外見をさらに愛らしく見せる。
色恋沙汰に興味の薄い自覚があるシルバーでさえ、誰かを愛するという事にわずかな憧れを抱くほど、魅力的な姿だった。
その姿を知るからこそ、冷ややかに絶望を語る声にも驚かされた。
普段の愛想が良くおとなしい姿からは想像できない、差し伸べられる何もかもを拒絶し突き放すような言葉。
「……ユウは本当に、ヴィル先輩の事が好きなのだろうと思う」
シルバーが真顔になったのを見て、ヴィルは開きかけた口を閉ざした。オルトもシルバーをじっと見つめている。
「本当は、ヴィル先輩とこれからもずっと一緒にいたいのだろうとも、思う」
「……そう思ってくれてるなら、嬉しいわね」
「……ヴィル先輩」
「何かしら」
「大切な人とどうしても離れなければいけない日が来るのは解っているとして。その時まで……あなたなら、どう過ごす」
沈黙が流れた。誰かが近づいてくる気配もない。
「……分からない。……だけど、出来る事を全てしてあげたいと思う」
穏やかな声音だった。悲壮でも諦観でもなく、純粋な愛情だけがそこにある。
「愛する人が選んだ道を邪魔する事はしたくない。望む事は何でも叶えてあげたい。……という気持ちで動けば、そういう事になるかしらね」
「……そうか」
「どうしてそんな質問をしたのか訊いても?」
「……俺も、見送らなければいけない、大切な人がいる」
静かな答えに二人はただ耳を傾ける。
「受け入れなくてはいけないと解っている。何か出来る事は無かったのかと、今でも思う時がある。だから……訊いてみたかった」
「……そう」
二人とも、詳細を尋ねる事はしない。穏やかな沈黙が流れる。
『むっ』
唐突にオルトが顔を上げた。二人の視線もオルトに向く。
『兄さんからのエマージェンシーコールだ!』
「何かあったの?」
『……屋台の人とお金の支払いで揉めてるみたい。熱砂の国の通貨を出力して持って行かなきゃ』
「俺が行こう。オルトはヴィル先輩とここにいてくれ」
『場所はこの裏の通りの並びにある果物の屋台だよ。そんなに距離は離れてないし、みんな一緒だからすぐに判ると思う』
「わかった」
オルトが出力した通貨を手渡すと、シルバーは素早く屋台の方に走っていった。
「……まあ、あのメンバーで何も起きないワケがないわよね……」
『そうだね。……何か情報に繋がってればいいけど』