7−4:虹色の旅路


 涼しくて爽やかな明け方の空気を通り過ぎて、再び熱が身体に触れた。
 落下そのものは特筆するほどの事は起こっていない。だけど合間に盗み見たシェーンハイト先輩の表情は明らかに険しかった。
『霊素シグナル・トラッキング成功。指定された座標へ到着しました』
『オルト、ちゃんと全員揃ってるか確認お願い』
 着地してすぐにシュラウド先輩が声をかける。オルトが目視で人数を数えているのを聞きながら、シェーンハイト先輩に目を向けた。
 視線に気づいて微笑んでくれたけど、明らかに顔色が悪い。
『……全員無事に移動できてるよ。みんな、どこも不調はない?』
「め~~~っちゃくちゃ気持ちよかった!!」
 一方、アジーム先輩は上機嫌だった。大興奮でシルバー先輩にキラキラした笑顔を向けている。
「なんだ今の!?魔法の絨毯でカッ飛ばした時みたいにスカッとしたぜ。シルバーのユニーク魔法、すごいな!」
 どうやら体調不良者が増える事は無さそう。それは良かった。
「オルト、シェーンハイト先輩が……」
 声をかけると、オルトもはっとした顔になった。じっとシェーンハイト先輩の顔を見つめてから、納得した様子で頷く。
『ヴィルさんの霊素の構成バランスに乱れが生じてる。気分はどう?』
 シェーンハイト先輩は無言で首を横に振った。身体を支えるように隣に立つと、僕の肩に腕を回してくれる。
「ヴィル先輩、あちらの木陰に座って少し休憩しよう」
 シルバー先輩が指し示した先に、腰掛けるのに丁度良さそうなところがあった。よろめく身体を支えながら、木に身体を預けるように座らせる。
 ここもかなり気温が高い。寮服だから制服よりは気温の影響を受けないけど、水分とか要るかなぁ。
「アタシとしたことが……足を引っ張ってしまうなんて、情けないわね」
「そんなこと気にすんなよ。落ち着くまでゆっくり座って休め、な?」
 アジーム先輩に言われて、シェーンハイト先輩も表情を緩める。お礼の言葉を口にして、しかしすぐに憂鬱そうな顔になる。
「飛行術は苦手じゃないし、三半規管は弱くないつもりだったけど……こんな事になるなんて」
「何か欲しいものとかありますか?」
「……大丈夫。少し休んでいればよくなると思うわ」
 顔を覗きこむ僕の頭を撫でて、先輩は力無く微笑んだ。出来る事は無さそうで、なんだか落ち込んでしまう。
「……とはいえ、ヴィル先輩が回復するまで全員で待機しているというのも時間が勿体無い。二手に分かれないか?」
「しかし、夢の中で別行動をするのは少々心配が……」
『現状、その夢の魔法構築式は安定してる。「闇」を引き寄せるような行動をしなければ、別行動をしても問題ないと思うよ』
 現在地は川沿い。アジーム先輩の夢と空気が似てる感じがするから、おそらく熱砂の国のどこかの街中だ。近くに市場があるみたいで、喧噪がここにも聞こえてきている。
 夢の世界の端っこにいるとか、すぐに移動しないと危ないとか、そういうのも無いみたい。
『「S.T.Y.X.」のエンジニアも常に君たちの霊素反応をリモートモニタリングしてるから、ヤバいトラブルはすぐに察知できるよ』
 シェーンハイト先輩の夢でも位置情報とか把握してたみたいだし、万が一はぐれても大丈夫そう。
『じゃあ、僕とシルバーさんはヴィルさんに付き添うね』
「いいだろう。では、僕たちは夢の主の探索にあたる」
「……ユウ、グリムと一緒に行ってらっしゃい。アタシは大丈夫だから」
 残る気満々で隣にいた僕に、シェーンハイト先輩が言う。
「え、で、でも……」
「あのメンバーじゃ何かあった時に不安だもの。アドリブの利くアンタがついててくれたら、アタシも安心して休めるわ」
「…………わかりました」
 ほんの少しだけ寂しく思いながらも、素直に立ち上がってセベクに並んだ。物言いたげな顔のセベクだったけど、結局無言で僕から目を逸らす。
「過去の経験上、夢の主は夢を渡った地点からそう遠くない場所にいる事がほとんどだ。ジャミルはきっとこの近くにいるはず」
 確かに、いつも結構すぐに夢の主に遭遇できてた。
 ……って事は近くの市場にいるとか?一体なにしてるんだろ。
「ヴィル先輩の具合が良くなったら、俺たちもすぐに追いかける。事を急いて、無茶な行動はするなよ」
「心配は無用だ」
 シルバー先輩に釘を刺され、セベクは不満そうに鼻を鳴らす。しかし驕りも無い真剣な顔で答えた。
「僕やユウたちも、夢の中での行動にかなり慣れてきているからな。何か異変があればすぐに引き返してくる」
 その言葉にシルバー先輩も真剣な顔で頷いていた。
『兄さん、何かあったらすぐに僕に連絡して』
『りょ。見守りモードにしておきますわ』
 タブレットがふよふよと僕たちの方に飛んでくる。
「それじゃあ、また後で」
 制服に着替えたセベクを中心に、屋台の方へと歩き出した。
 熱砂の国ならアジーム先輩もいるし、きっと大丈夫だろう。……大丈夫だと思いたい。

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