7−4:虹色の旅路


 とりあえず日陰を探そうと周囲を見回せば、すぐ近くにある豪華な建物がすぐに目に入った。
 明るい青緑っぽい色の屋根に真っ白な壁、所々に施された金の装飾。スカラビア寮の建物に似ている気がする。
 僕らがいるのは建物の前の広場みたいで、ほぼ中央に位置する噴水には、老齢の男性とおぼしきデザインの黄金の像が建っていた。
『あれは「熱砂の国」の伝統的な建築様式だね。どこもかしこもピカピカで真新しい』
「という事は、ここは熱砂の国?」
『気温の高さからしてそうだろうね。でも、あの建物はデータベースに一致するものが無い。最近できたものか、夢の内容に関係して作られたものだと思う』
「……早く夢の主を捜し出して、覚醒に導きましょう」
「うう、立っているだけで汗が吹き出してくるぞ!」
『ま、まずい……これ以上タブレット内部の温度が上昇するとシャットダウンしてしまう!くっ、拙者のデバイス機器に対するイマジネーション強度が高すぎるせいで……!』
 みんなの悲鳴ももっともだ。早く日陰に、と思うけど見た所、隠れられそうな場所が無い。
 どこまでも広く立派な噴水広場だ。地面の石材も立派で綺麗で、キラキラと日差しを容赦なく反射してくるし、もう日差しを逃れるには建物を目指すしかないだろう。
「ふな~~~~っ!オレ様、もう我慢できねーんだゾ~!」
 グリムがそう叫んだかと思うと、腕から抜け出して噴水に飛び込んだ。
「ちょっと、グリム!」
「貴様、公共の場で何をっ!?」
「ぷぁ~~~~っ。身体がじゅわ~っと冷えていくんだゾ~」
「ああ、もう。噴水はプールじゃないのよ。さっさと上がっていらっしゃい!」
 シェーンハイト先輩に怒られて、グリムは不服そうな顔ながらも噴水の縁に上がってきた。ぷるぷると身体を振って水を飛ばす。……この気温だとあれも心地よさそう。
「噴水の傍の方が気持ちよさそうかと思いましたけど、焼け石に水ですね」
「そうね。やっぱり建物の方に行ってみましょう」
 そんな感じで話していると、噴水に建っている像をシルバー先輩がじっと見つめている事に気づいた。
「どうかしました?」
「……このご老人は、どこかで見た事がある気がする」
 そう言われて、改めて像を見上げた。恰幅の良い男性で、穏やかと言うか、お人好しというか、なんかそんな雰囲気がある。……言われてみれば、確かにどこかで見た事ある気がするなぁ。何だろう。
「そのじーさんは、伝説のオアシスの名君」
 不意に建物の方向から声がかかる。
 知ってる声だからと振り返れば、全く見慣れない服装の少年が立っていた。でも顔は間違いなく知っている人だし、服装以外の雰囲気はいつも通り。
「すげー正直者で、心配事があれば包み隠さず何でも臣下に相談し、一緒に解決策を探した。しかも、時代の変化に合わせて積極的に法律の改正もしたらしいぜ。かっけーよな!」
 そう言って屈託無く笑う顔も変わらない。
「この『カスルサルタナートアカデミー』は、オアシスの名君の寛大な精神を大事にしてる学校なんだ」
「オ、オメーは……カリム!」
 グリムが驚いて声を上げると、アジーム先輩はきょとんとした顔になって首を傾げた。
「オレ、お前らとどっかで会った事あったっけ?わりー、オレ人の顔覚えるの苦手でさ~」
 喋り方は僕の知るアジーム先輩と変わらない。そして、彼の周りには鳥のような光がひらひらと舞っていた。この夢の主は彼のようだ。
「今、『カスルサルタナートアカデミー』と言ってたわよね。アンタはそこの生徒なの?」
「おう!改めて……オレはカリム・アルアジーム。カスルサルタナートアカデミーの二年生だ」
 全然知らない名前の学校だ。舌噛みそう。
 アジーム先輩の服装は色合いが後ろの建物と同じだから、ここがその学校だって事なんだろう。噴水に像も立ってるし。
「どういう事だ?貴様はナイトレイブンカレッジで、スカラビア寮の寮長を務めていたはずだろう」
「ナイト……?うーん、なんかどっかで聞いた事あるような……。お前たちはそこから来たのか?」
「あ、ああ」
 どうやらシェーンハイト先輩と同じく、ナイトレイブンカレッジには通っていない事になっているらしい。当然、シルバー先輩がクラスメイトである事も覚えていない。
 それ以外の部分は、シルバー先輩から見てもやっぱりいつものアジーム先輩みたいだ。全く影響を受けてない、って事になるのかなぁ。
「ところで、ナイトレイ……お前たちの学園ってどこにあるんだ?」
『黎明の国にある、賢者の島っていうところだよ』
「黎明の国っていうと、海をまたいだ北の方か。はるばる熱砂の国までよく来たな!歓迎するぜ」
 太陽の笑顔、健在。いやそれは良いんだけど。
「なるほど、お前たちは北の方から来たから、そんな格好をしてるんだな。日差しよけの帽子もかぶってないし、こんな通気性が悪そうな生地の服で……って!よく見りゃお前ら、みんな汗だくじゃねーか!」
 さっきから日陰に行こう行こうと思いながら、結局日なたで話し込んでしまった。そろそろみんな限界だ。
「うう……黒い生地がきつい日差しを吸い込んで蒸し風呂状態だ!」
『僕も、急激にギア内部の温度が上昇して冷却が追いつかない……』
「おいおい、大丈夫か?よし、オレが冷たくて美味い水を出してやるよ!」
「ホントか?飲みたい、飲みたい!」
「任せとけ!」
 アジーム先輩は太陽のように笑って、どこからともなく杖を取り出した。衣装と色合いを揃えたデザインの杖は、見るからに高価そう。
「それじゃいくぜっ!熱砂の憩い、終わらぬ宴。歌え、踊れ!」
 詠唱と共に光が舞う。眩しい太陽の光の下でも、その輝きは衰えない。
「『枯れない恵み』!」
 杖が一際眩く光り、次の瞬間に柔らかな雨が降り注ぐ。昼の明るさは変わらないのに、肌には冷たい水が触れて体温が下がっていった。涼しい。
「うむ、よく冷えていて美味い!身体中に染み渡るようだ!」
 手に受けて水を飲んだり、全身で受け止めて喜ぶ仲間の一方、シェーンハイト先輩は雨除けの障壁で身体を守っていた。
「ありがたいけど、ばしゃばしゃと顔に水をかけないで。メイクが崩れるじゃない」
 アジーム先輩にしっかり抗議しつつ、マジカルペンを振って手元にガラスのコップを呼び出す。
「このコップにいただける?」
「お、コップを呼び出せるのか!ってことは、お前も魔法士なんだな」
 そしてアジーム先輩は抗議を気にする様子はなく、雨は維持しつつ杖からも水を出してコップに注いでいた。シェーンハイト先輩が水を飲んで一息ついた所で、アジーム先輩はふと切り出す。
「もしかしてお前たちの学園も魔法士の学校なのか?」
「ええ。……『も』ってことは、カスルサルタナートアカデミーも魔法士養成学校なのね」
 熱砂の国にも魔法士養成学校があるなんて知らなかった、とシェーンハイト先輩は続けた。その言葉に気分を害した様子は無く、アジーム先輩はニコニコ笑っている。
「おう。二年前にオレのとーちゃんが作ってくれたんだ!まだピカピカだぜ」
「へー……エッ?作ってくれた!?」
「オレが十四歳になったくらいかな?魔法が発現したんだけど、近所に魔法士養成学校がなくってさ。ないなら作っちまえって事で、建設を急がせたらしいぜ」
『無いなら作ろう精神は理解できるけど……スケールがデカすぎますな』
 さすがの『S.T.Y.X.』も学校は作ってなさそうだもんなぁ。……いやでも、僕が知らないだけであるのかもしれない。あの島で生まれ育った人もいるって話だし。
 シュラウド先輩は家庭教師とか、そういうのなんだろうなぁ。……それも要らないのかも。
「なあなあ!ここで会ったのも何かの縁だ。お前たちの学校の話をもっと詳しく聞かせてくれよ!」
 これは願ったり叶ったり。
 現実との齟齬を突きつけるために、夢の設定を知る事は重要だ。何となくみんなで視線を合わせ、小さく頷き合う。

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