7−4:虹色の旅路

 ………

 身を隠していた舞台袖から、こっそりと顔を出す。
 何て言うか、壮観、って感じ。大量のゲストが椅子やら床やらにぶっ倒れている。例外は全くない。映画のワンシーンみたい。
「……あら、そこにいたの?」
 気配に気づいたらしい先輩がこちらを振り返り、にっこりと笑いかけてくれる。
「気がついたらいきなり中にいたので、驚いて隠れちゃいました。また騒ぎになったら大変だし」
「無事で良かった。……ジュース、アンタは飲んでないわね?」
「はい。隠れてるのに必死だったんで、そんな余裕なかったです」
「そう。……アンタはあの子と違って、拾い食いするタイプじゃないものね」
「確かに、グリムがいたら危なかったかもなぁ……」
 もっとも、舞台裏で林檎ジュースを配る準備をしている様子なんか全くなかった。唐突な言葉が現実になったのは恐らく『夢の主が望んだからその通りになった』って事なんだろう。夢の主の望みを叶え目を醒まさせないように作られている、魔法領域の仕組みを逆手に取った感じだ。
 手招きされるままシェーンハイト先輩の隣に立てば、袖から覗き見るよりずっと迫力のある光景が目に飛び込んでくる。ホールの大きさや立派さもさる事ながら、その広大な床を埋め尽くすきらびやかな人、人、人。
「……映画みたいだなぁ」
 思わずさっきの感想を改めて口にしてしまう。
「スパイアクションものか、サスペンスかしら。ゲストのフリをして集まった敵を一掃して、主人公たちが勝利に酔いしれるクライマックス」
「目撃者は画面の向こうの観客だけ、みたいなヤツですね」
 先輩が僕を見て微笑む。満足のいく答えが出来たみたい。
「共演者として表彰される未来を想像した事もあったけど……こんな形でアナタとここに立つのも悪くないわね」
 先輩の手が頬を撫でる。うっとりと夢見るような視線がこちらに向けられていた。僕も目を離せない。
「愛を誓うならふたりきりで、ね?」
 聞いてるだけで蕩けてしまいそうな甘い囁き。答える言葉なんてひとつも浮かばない。ただじっと、シェーンハイト先輩の目を見つめている事しか出来ない。
 そんな甘い静寂を、乱雑に扉が開く音が遮った。ふたりして正面の大きな扉を振り返る。
『ヴィルさん、ユウさーーーーーーーーん!!!!』
「ぐえっ!」
 矢のように飛んできたオルトが僕に体当たりをかます。違う、多分抱きついてきた。ぶつかる瞬間に速度を緩めたのか見た目ほど衝撃はなかったけど、それなりにびっくりしたし舞台の奥まで吹っ飛んでいる。
『ふたりとも大丈夫!?怪我は無い!?』
「アタシは大丈夫だけど…………ユウは?」
「だ、大丈夫です。びっくりしましたけど」
 起きあがれば、改めてオルトが抱きついてくる。
『よかった。心配したんだよ。止める間もなく一人で行っちゃうんだから』
「ご、ごめんね。びっくりさせちゃって」
 頭を撫でると、ぐりぐりと胸元に顔を押しつけてきた。グリムみたいで可愛い。
「オルトーーーーー!!!!到着するや僕たちを投げ捨てるとは何事だーーーーーーーっっっっ!!!!!!」
 そして正面の扉からは、セベクやシルバー先輩、グリムにエペルにハント先輩も続けて入ってきた。みんなも元気そうだ。
「皆さんもご無事で何よりです」
「オレ様がついてるんだから当たり前だろ!」
「そうだったね。さすが親分」
 ふふん、とグリムが胸を張る。頭を撫でても嫌がらない。ご機嫌だ。
「ああ、ヴィル!無事でよかった!」
「おかえりなさい、ヴィルサン!」
 エペルが抱きつき、ハント先輩が寄り添う。シェーンハイト先輩は二人に手を伸ばして身を寄せた。
「……アタシはまたアンタたちに、みっともないところを見せちゃったみたいね」
 優しく、安心したような表情で微笑む。
「ごめんなさい。それから……ありがとう」
 三人が身を寄せ合う姿は、見ていて心が和む。本当に取り戻せて良かった。
『はぁーやれやれ。さっきはどうなる事かと思ったけど、なんとかなったみたいっすな』
「あ、はい。魔力の回収出来ましたよ!」
『ヴィル氏の夢が再構築された時に通信が回復して、こっちでもキューブケースのデータは確認できたよ。まずは最初の任務達成、お疲れさま』
 タブレットの向こうから、いつもより優しい声が聞こえる。嬉しい。
 そして再会を喜んでいたシェーンハイト先輩は、シュラウド先輩に気づいてこちらに近づいてきた。
「イデア、アンタがいるって事は、状況はもう把握できているんでしょう?一体何が起きているのか、アタシにも説明してちょうだい」
『あ、ハイ……じ、じゃあ、とりあえずこの動画を見てもろて……』
 シュラウド先輩のタブレットが横向きになって、例の動画が再生される。
 毎回何となくみんな一緒に見て、初見の反応を見守ってるんだけど、シェーンハイト先輩の反応はいつにも増してて冷ややかだった。
「………………………ひどいわね」
『で、でしょ?さすがの拙者もマレウス氏の横暴には怒髪天を衝くってやつですわ』
「今のコメントは動画のクオリティに関してよ」
 いやそこかよ、と一部がずっこける。
「映画研究会のリーダーとして黙っていられないわ。わかりやすく要約されている事は評価できるけど、視聴者に訴えかける抑揚と熱量で語りかけるべきよ」
 言わんとする事は解る。シェーンハイト先輩らしい意見だ。
「オルト。アンタがいたんだから、もう少しなんとかならなかったの?」
『ヴィルさん。これはこれで、兄さんの作家性だから……』
「解説や実況は感情が入ってない方が聞きやすいって層も一定数いますからね……」
「だとしても限度があるわ。映像の出来が良いだけに見過ごせないのよ」
『あのー、情報以外の所に真剣にコメントするのやめてくれません?』
「……それにしても、腹立たしいわね」
 シュラウド先輩を無視しつつ、険しい表情で呟く。
「マレウスには何度か助けてもらった恩はあれど……アタシの幸せを勝手に定義して、あんな夢を見せていたなんて」
 言葉の端から怒りが滲む。何も知らない下級生が目の前にしたら怯えて何も出来なくなりそうなぐらいの迫力があった。
「これは一発お見舞いしてやらなきゃ気が済まない」
『そうこなくっちゃ!それじゃあ、これを渡しておくよ』
 すかさずオルトが封筒を取り出し、シェーンハイト先輩に手渡す。
『それは、マレウスさんとの最終決戦……パーティー会場への招待状。必ず出席してね!』
「……ポムフィオーレ寮長、ヴィル・シェーンハイト。謹んでイグニハイドの招待をお受けしましょう。迎えの馬車が来るのを心待ちにしているわ」
 先輩は艶やかな笑みを浮かべて、受け取った封筒を懐にしまう。心強い仲間がまた増えた。
「……それと、気になる事があるのだけど」
『はいはい、ハシバ氏のニセモノについてかな?』
「ええ、そう。アレは一体何?」
『ざっくり言うと、異世界の魔女の魔力がハシバ氏を殺す事を目的として作り出した敵性体っすな』
 シェーンハイト先輩の顔がさっと青ざめる。
『ハシバ氏に縁深い魔法士の夢に混ざり込んで取り入り、ハシバ氏が当該の夢の中に入ってきたら、彼を殺すために動き出す。そういう本能で動いてるモノ』
「……なるほど、それでアタシがユウに会うまでは大人しくて従順だったのね」
『予想通りではあるんだけど、やはり敵性体「イミテーション」は夢の主を害する行動を起こせると判った』
 シュラウド先輩が冷静に情報を並べる。
『敵性体の意思でマレウス氏の魔法領域に侵食して改変し、ルールを完全に無視して誰彼構わず傷つけようとする可能性がある』
「……そんなものが、ユウの命を狙ってるの?」
『そう。そして今回の事で、最優先事項がハシバ氏の命じゃなくなる場合がある事も判った』
「ど、どういう意味だ?」
『敵性体の性格次第だけど、例えば夢の主を痛めつける事に本能以上の喜びを見出すようになったら、ハシバ氏そっちのけで没頭する可能性もあるって事』
 ここは夢の中だ。何をしても現実の肉体には干渉できない。『イミテーション』が夢の中で僕を殺そうとしているのは、現実の僕の肉体を乗っ取るためだ。
 ツノ太郎の魔法領域内で僕を『殺せる』彼らの攻撃が、他の人に向けて行われたら、恐らく僕が殺された場合と同じ結果になる。そうなったら、ツノ太郎の魔法領域が解除された後もその人の意識が戻らないままになるとか、とにかく現実でも無事じゃ済まなくなる可能性は高い。
『今のところ対象者の夢に異常は見られないけど、今後は常に変調を警戒しておく必要がありそうだ』
「性格次第って……そんなに個体差があるの?」
『まー見た目だけだけど、拙者の夢にいたハシバ氏とは結構印象が違いましたな』
『「イミテーション」はユウさんが領域内に入るまで悪性が露出しないから、兄さんの夢にいた「イミテーション」が悪性を露出するとどうなるのかは不明なんだけど、細かな体型とか、外見の雰囲気はかなり違ったね』
「イデアの夢の中のユウって、どんな感じだったの?」
『清楚で大人しくて優しい子』
 シュラウド先輩の答えに、シェーンハイト先輩は難しい顔で首を傾げる。
「……だいたい同じじゃない?」
『うーん、どうだろ。僕も少ししか会った事ないけど、兄さんの所にいた「彼」は、存在を否定されても兄さんを攻撃する確率は低いと思うんだ。「闇」に飲まれそうになった兄さんを僕と一緒に引き上げようとしてくれたり、僕が危険だと解ると逃げるように言ったり』
「確かに、そこだけ聞くとだいぶ印象が違うね」
 ハント先輩が肯定する。
「我々の見た『イミテーション』は明らかに苛烈な性格に見えた。……現に、あれほど執着していたヴィルに殺意を向けていたからね」
 夢の中で先輩を追い詰めるあの展開は、恐らく『イミテーション』の意思によるものだろう。かなり容赦が無いものだった。心を殺してしまいかねないほどに。
 あの『闇』の中で無気力になった先輩を愛でていた感じを見るに、そういう意図があったんだろうと思う。
 ただ、そんな精神攻撃が一時的な効果しか出ないくらい、シェーンハイト先輩は強い人だった。洗脳状態だったから敵の思惑通りに追い詰められちゃっただけで、なんか現実にああいう目に遭っても全然屈しなさそうだもん。
 今回は先輩の強さに助けられたけど、今後はもっと警戒しなくちゃ。
「普段のユウクンよりプライドが高そうっていうか……ちょっとヴィルサンに似てる気もした、かな?」
『なるほど。サーバーを構成している夢の主自身の性質や、夢の主が持ってるハシバ氏へのイメージも性格に影響するのかもしれない』
「アタシはユウの事を性格が悪いなんて思った事ないわよ」
『じゃあ、気が合うな~と思った事は』
「沢山あるけど…………待ちなさい。それってつまり、ニセモノにも影響するほどアタシの性格が悪いって言いたいの!!??」
「話が脱線しているぞ」
 セベクに指摘されて、シェーンハイト先輩が不承不承、という感じで黙る。現実に戻ったら怖そうだなぁ。忘れてくれればいいけど。
『とにかく「イミテーション」にはまだ不明点が多い。不審な魔力が観測されている座標に行く時に再度注意はするけど、夢の世界に出てくるユウさんには油断しないで』
「…………肝に銘じておくわ」
 シェーンハイト先輩は沈んだ表情で頷く。
 そこでずっと黙り込んでいたシルバー先輩が顔を上げた。
「……そういえば、『イミテーション』が消えた場合、それを補って『闇』が作ったユウが現れるのではないのか?会場には見当たらないが」
『あ、それはないよ』
「え?」
『「イミテーション」がいなくなったら、その夢に「ハシバ・ユウ」は登場しなくなる。最初から存在しないものとして、シナリオが再構成されてる感じ』
「ど、どういう事だ!?」
『これは推測だけど、マレウス氏が無意識にそういう設定にしてるんじゃないかな。拙者の夢にいるハシバ氏を見た時の反応からして、絶対に存在を許さないってレベルじゃなさそうだけど、それ以外に理由が思い当たらない』
 何となく場が静まる。みんなが僕の顔を見てるけど、僕だってそんな事言われても困る。
『こっちとしては助かるけどね。つまり外見が現実と異なるハシバ氏がいたら、それは「イミテーション」だって事だから』
「承知した。……そろそろ次の夢に向かうか?」
『あ、そ、その前に……。次の夢に渡る人数を少し絞りたい』
 シュラウド先輩の言葉で、互いに顔を見合わせる。
『あまり霊素データが大きくなりすぎると、遅延やバグが発生しかねないから』
 オルトも頷いて同意を示す。
『霊素シグナル・トラッキングによる座標指定はまだ安定性が低いベータ版。次の夢に移動してみたら、一人足りない……なんて事になっても困るし』
「そう……なら、ルーク、エペル。アンタたちは自分の夢に戻りなさい」
「気が合うね、ヴィル。私もちょうどそれを提案しようとしていたところだよ」
 シェーンハイト先輩が指示を出せば、ハント先輩が賛成を示す。
「イデアくんに加え、ヴィルが仲間に加わった。二人がいれば、ピンチも裸足で逃げ出すはずさ」
 多分、戦力としての優先度の話。まぁ正直言うと物凄く心強い。
「そして、夢での移動にはシルバーくんのユニーク魔法が必要だ。であれば、彼が背中を預けられる同寮のセベクくんも同行するのがいい」
 勿論、移動先の座標指定を行うオルトは必要不可欠。
「そして敵性体『イミテーション』対策の人員であるユウくんと、我々をまとめてくれる『親分』たるグリムくんも欠かせない」
「当然なんだゾ!」
「……正直な事を言えば、ユウには安全な所にいてほしいのだけど……」
 シェーンハイト先輩が心配そうな顔で頭を撫でてくる。照れくさい。
『でもヴィル氏のおかげでこれから先の「イミテーション」事案に希望が見えてきたのも事実なんだよね』
「何でよ?」
『ハシバ氏の進入で「イミテーション」の悪性が露出すると、現実のハシバ氏との大きな齟齬になる。実際、それでヴィル氏は違和感に気づいたワケでしょ』
「……まぁ、否定はしないけど」
『危険もあるけど、夢の主を目醒めさせるきっかけとしての意義は大きい。何よりハシバ氏自身が、自分の手で決着をつける事を望んでいる』
 シェーンハイト先輩が僕の顔を見る。僕は笑顔で頷いた。
『そして悪性が露出しないとはいえ、持っていないわけじゃない。ハシバ氏がいない状態で彼に攻撃した場合、何が起きるのか未知数すぎる』
「確実に連中の標的になるユウがいた方が、むしろ安全だって言いたいの?」
『残念だけど試行錯誤を繰り返してる時間は無い。確実に仕留めるためにも、変な希望を持つより明らかになっている条件に充分な対策をした方が早い』
「……そこまで言うなら仕方ないわね」
 先輩が深々と息を吐く。
 心配してくれるのも嬉しいけど、シェーンハイト先輩のおかげで自信は回復したし、多分、大丈夫。
 今の話だと先輩も一緒に来てくれるワケだし、やっぱり強い人が一緒にいると心強い。シルバー先輩とセベクが弱いっていう意味じゃなくて、戦力は多ければ多いほどいいというだけの話。
『じゃあ、エペルさんとルークさんは、自分の夢に戻って召集まで待機だね』
『……とりあえずこの夢から出る瞬間だけ、痕跡をごまかすためにシルバー氏たちと一緒に出て、そこからはオルトの誘導で、各自の夢に帰還って事で』
 ハント先輩とエペルが、改めて僕たちに向き直る。
「『毒の君』、そして『白百合の君』。短い間だったが、二人の絆を感じる場面に立ち会う事が出来て光栄だった」
「あらそう?現実に戻れたら、もっと沢山見れるわよ」
「それは楽しみが増えた!『竜の君』との決戦に向け、私も抜かりなく刃を研いでおくとしよう」
「ええ、よろしくね。ルーク」
 二人は微笑み合う。お互いへの信頼を感じる姿だ。とても心強い。
「本当はもう少しだけみんなと一緒に冒険したかったけど……いざって時に役に立てるように、もっと修行しておく事にするよ」
「エペルも気をつけてね」
「うん。……みんなと次に会う時までには、装備を自力で変えられるようにしておきたいな」
「良い心がけだ。俺たちも見習おう」
 シルバー先輩が深々と頷いて、弟弟子を見る。
「セベクも同じ一年生のエペルに負けないように、鍛錬を怠るなよ」
「ふん!当然だ」
 セベクは胸を張り、強い眼差しをエペルに向ける。
「見ていろ、エペル!装備の変更もユニーク魔法も、貴様よりも素早く正確に成功できるようになってみせるぞ」
「ふぅん?頑張ってね。ま、僕も負けないけど!」
 セベクの宣言に対し、エペルは負けん気の強い笑顔を浮かべる。
 良いライバルができたみたい。寮が違えばやり方も違うし、お互いに良い刺激になりそうだよね。
『……よし、ヴィル氏のダミーデータの用意完了。オルト、そっちで出力よろ』
『了解!』
 オルトの返事の後、夢の中のシェーンハイト先輩の姿が出力される。いつもより短い髪とか違和感はあるけど、間違いなく綺麗な人。
「……こうして見てみるとアタシって、……本当に美しいわね!コーディネートのセンスも非の打ち所がない」
 そして当の本人はキラキラした笑顔で自分のダミーを見てはしゃいでいる。可愛い。
「総柄のタッキースタイルは一歩間違うと悪趣味に見えるから、プライベートでは避けがちだったんだけど……シックな色味とエンブロイダリーの組み合わせなら、大胆にアウターに取り入れるのも悪くない。学園に戻ったら、挑戦してみようかしら?」
『出た、理解不能なポムフィオーレ言語』
 専門用語を連発するという意味では、イグニハイドもありそうだけどな。寮言語。
『盛り上がってるトコ悪いけど、次の予定が詰まってるんで移動してもらっていいっすか?』
「あら失礼。それじゃあ、出発しましょう」
 途中まで一緒の二人はすぐに離れつつオルトの誘導を受けられるように背中に回り、残るメンバーは腕や胴につかまる感じになるだろう。
「では、ヴィル先輩。俺の腕につかまってくれ」
「夢の移動はシルバーのユニーク魔法で、よね?スマートなエスコートをお願いするわ」
「……善処する」
 そんなやり取りを聞いていたグリムが、なんか悪い笑みを浮かべた。
「オイ、ユウ。聞いたか?ヴィルのヤツ、あんなコト言ってるぜ。『夢の回廊』にどんな反応するか楽しみなんだゾ」
「そっか。グリムは知らないんだね」
「ふな?」
「『嘆きの島』で、シェーンハイト先輩が高い所から飛び降りて、落ちていく僕たちを助けてくれたんだよ」
 思い出すと今でもちょっとお腹の辺りが苦しくなるけど、あの勇敢な姿は忘れられない。
「だから先輩は苦手って事は無いと思う」
「そうなのか?」
「綺麗な景色だし、余裕なんじゃないかな」
「おい、何をこそこそ喋っている!早くシルバーにつかまれ!」
「あ、ごめんごめん」
「いちいち大声出すんじゃねーんだゾ~」
 再び一つの塊にまとまる。確かにこれで次の夢まで移動するのは大変そう。分離前提でこれだけ不安あるし。
「……では、これより夢を渡る」
「じゃあ、僕たちはここで一度お別れだけど……ユウクン、みんな!けっぱれ!」
「キミたちの旅路に幸運あれ!ボン・ボヤージュ!」
 二人の笑顔が眩しい。ふとシェーンハイト先輩の顔を見れば、優しい微笑みを浮かべていた。
 心強い仲間が増えた。……まだまだ先は長そうだけど、どうにかなるといいなぁ。
「いつか会った人に、いずれ会う人に……『同じ夢を見よう』!」
 シルバー先輩の詠唱と共に、虹色の光が視界を埋め尽くす。
 ……そういえば、次の行き先聞いてなかった。誰の夢だろう?

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