7−4:虹色の旅路


「本年度のダイヤモンドムービー賞、栄えある『最優秀主演賞』は」
 長い溜めが入る。高揚した空気を落とさない最高のタイミングで、その名は告げられた。
「ヴィル・シェーンハイト!」
 ただ一人にスポットライトが当たる。誰もが祝福の声を上げ、拍手の音が会場を満たし、紙吹雪が舞った。
「アタシが……本当に?」
「おめでとう、ヴィル様!」
「おめでとう、ヴィル!さあ壇上へ!輝く王冠は君のものだ!」
 すぐ傍のアシスタントや自分を招くプレゼンターだけじゃなく、会場中の人々が祝福してくれる。会場の外のファンも、きっと喜んでくれているだろう。
 愛想を振りまきながら、ステージの上へ向かう。コメントを求められ、とびっきりの笑顔を向けた。
「……みんな、祝福してくれてありがとう。お祝いに、アタシのお気に入りの林檎ジュースで乾杯といきましょう!」
 会場中のゲストに林檎ジュースの入ったグラスが配られる。ゲストだけでなくスタッフにも振る舞われ、アシスタントもプレゼンターも、会場の外のファンも、祝福の杯を手にしていた。
「グラスは行き渡ったかしら?では……最高の美しさに!」
『最高の美しさに!』
 人々が声を上げ、掲げたグラスからジュースを口にする。一人の例外もなく、笑顔で飲み干していた。
「ふ、ふふふ……うふふふふふ!ははは……あーっはっはっはっは!」
 気づけば笑っていた。面白くて仕方ない。
「ヴィ……ヴィル様?」
 様子がおかしい自分に、アシスタントのネージュが首を傾げる。プレゼンターも、会場のゲストも、外のファンも、みんな戸惑った様子だった。
 疑問には応えずに、自分らしい衣装へと姿を変える。
 ポムフィオーレ寮長の証。クラシカルなデザインに毒を秘め、頭に飾った冠は常に美しく輝く。
「皆様、甘い毒はいかが?口に合うかしら」
 その言葉に誰もが青ざめる。これがアトラクションの演出なのか、本当に何か仕込まれているのか、判別がつかずただ壇上を見つめていた。
「えっ、ど……毒!?」
「アンタ、とんだ大根役者ね。悪夢にしたって酷すぎる」
 冷ややかにネージュの顔をした何かを睨む。顔かたちは確かにネージュだけど、動きも何もかも猿真似でしかない。
「本物のネージュの可憐さは、愛らしさは……憎たらしさは、そんなもんじゃないわ。芸を磨いて出直していらっしゃい!」
「待って、ヴィル様……ヴィーくんッ!」
 ネージュが壇上に上がってこようとする。それを無視して、手にしたグラスに指を添えた。
「何も失わず、何も恐れない。輝く王冠は私のためにある。……『美しき華の毒』!」
 林檎ジュースに魔法がかかる。否、魔法はもうかけてあった。そういう事にする。
 ここにいる者たちは、『ヴィルの用意した林檎ジュース』を口にした。魔法がいつかけられたのかなんてもう関係ない。これから口に出す『呪い』は、物理的事実を飛び越えて現実になるのだ。
「呪いのかかった林檎を口にしたものは、血も凍り二度と目覚めることはないであろう」
 言葉は傍に置かれたマイクを通り、中継映像までも伝って、林檎を手にした全ての人に届けられた。
 その瞬間、会場中のゲストが倒れ始める。外の客も、壇上のプレゼンターも床に伏し、こちらへ来ようとしていたネージュはステージの真下で無様に倒れた。
 クインズ・パレスが静寂に包まれてから、持っていたグラスを床に叩きつける。破片とジュースが紙吹雪の残る床に飛び散った。
「偽りの王冠なんか、誰が被るもんですか」
 荘厳なホールの伝統ある舞台の上で、背筋を伸ばし見えない空を見上げる。
「今この時、誰がこの世で一番美しいかは……アタシが決めるわ!」

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