7−4:虹色の旅路


「ここがかの有名な『クリスタル・ギャラリア』……その名の通り、透き通ったガラス天井がとても美しい!細部までリアリティがあって、これが夢の中というのを忘れて観光に没頭してしまいそうだ」
 ハント先輩の先導もあって、僕たちは街中まで逃げ込んできた。
 輝石の国の『美粧の街』は、クインズ・フィルム・スタジオのお膝元にあり、相互に影響しあって発展してきた街だという。美しき女王の伝承が残り、映画産業の中心地として知られているとか。
 街並みは非常に洗練されていて美しく、高級ブランドがこれでもかと軒を連ねている。
 シェーンハイト先輩のイマジネーションによって再現されている街並みに一分の隙も無い。作られている範囲も非常に広く、あの広大なスタジオと街ひとつがまるごとこの夢の中にあるそうだ。凄い。
「この街のメシ、どれもウメェんだゾ!」
「本当だ!このポークマリネのサンドイッチ、アップルビネガーが効いてて、たげんめぇ!」
 沢山あるお店の中で食事も摂れそうなカフェに入り、みんながその美味に舌鼓を打った。値段の表を見たら変な声が出そうになったけど、シュラウド先輩が夢の中で使えるお金を沢山用意してくれたので、みんな好きなだけ頼んで食べている。まぁ夢の中だから、食い逃げしたって問題ないんだろうけどさ。
「でも、夢の中でご飯を食べたり眠ったりするのって、ちょっと不思議な感覚だよね」
「……『闇』がいつ襲ってくるかもわからん状態だというのに、貴様らには緊張感というものがないのか?」
「腹が減っていては満足に力を発揮できない。親父殿も言っていただろう。食べられるうちに食べて英気を養った方が良い」
「つーか、セベクが一番食ってるんだゾ」
「僕はこの中では最も背が高い。だから貴様らより少し量が多いのは当然だ!」
 少し、と言うにはだいぶ差がある気がするけど、まぁ黙っておこう。面倒だし。
『みんな、盛り上がってるみたいだね』
 別行動をしていたオルトが外から戻ってきた。みんなが笑顔でおかえりと声をかける。
「『みんなが食事をしている間に、行きたい店がある』って言ってたけど……どこに行ってたの?」
『本屋さんだよ。さすがは映画産業で栄える美粧の街……というより、ヴィルさんのイマジネーションで作られた街。イマジネーション強度がすごいね。様々な情報が詳細に掲載された雑誌が豊富に揃ってた』
「やや!!オルトくんが手にしているのは……若手アクター情報マガジン『プリンス☆ファン』と映画情報誌『月刊シネマフリーク』だね」
 オルトが持っている雑誌には、ハント先輩が言っている通りの名前が書かれていた。どちらも表紙にはシェーンハイト先輩の写真が大きく使われている。
『ざっと内容に目を通したけど、どうやらこの夢の中でのヴィル・シェーンハイトさんは子役時代からたくさんの舞台や映画の主演に抜擢されているみたい。……「ライバル役」じゃなくてね』
 テーブルの上に雑誌が広げられ、みんながその内容に目を向けた。
 人物紹介ではその華々しい経歴が紹介されていて、インタビューもそつが無い印象。写真も非の打ち所がない。
 前年の主演作が大ヒットし、『ダイヤモンドムービー主演賞』にノミネートされた事が記事には綴られている。
 現実ならば絶対に有り得ない。シェーンハイト先輩はナイトレイブンカレッジに入学してから取り組むのに時間のかかる役者の仕事は受けていない。出演していないのだから、受賞は有り得ない。
「『ダイヤモンドムービー主演賞』って凄い賞なんですか?」
「輝石の国の映画産業の発展のため、優れた作品、そしてキャストやスタッフを表彰するために作られた由緒ある映画賞だよ」
 ハント先輩がすらすらと答える。
 元は輝石の国の国内で作られた作品を対象としていたが、時代と共に注目度が増し、現在では世界中の作品がノミネートされるようになった。業界関係者は誰もが受賞を夢見るような、世界最高峰の映画賞だ。
 多くの映画賞がそうであるように部門賞がいくつも設定されていて、中でも『主演賞』は最も注目度が高いとの事。
「……現実では『白雪の君』が弱冠十四歳、史上最年少でこの賞を得ている」
 確か、シェーンハイト先輩とネージュの年齢差は一歳。先輩がナイトレイブンカレッジに入学する前に、ネージュの受賞が決まったという事になるだろう。
 ……逃避ではない、と思いたい。
 だけどライバルが栄誉ある賞を最年少の記録まで更新して受賞した事に、何も感じずにいられる人ではないとも知っている。
 苦々しいものが喉の奥に引っかかってるような気分。罪悪感のような自分勝手な後悔のような、どうにも消化しきれない気持ちが膨らんでいる。
「だが、先ほど見た彼は役者ではないようだった」
「あの人間、まるで従順な召使いのように振る舞っていたが……全てはヴィル先輩を幸せな夢に耽らせるための策略、という事か」
『うん。エペルさんやルークさんの時と違って、「闇」が常時夢の主に張り付いている状態だ』
 雑魚の『闇』は基本的に無限湧きの印象があるけど、ゲームマスターも同じなら、僕たちがシェーンハイト先輩の前に再び行ったら何食わぬ顔であのネージュもいるのだろう。ちょっとしたホラーだな。
『兄さんの時も同様だった事を考えると……寮長クラスの魔法士は、マレウスさんも警戒して監視の目を強めているのかもしれない』
「……ちょっと待って。これが幸せな夢だっていうなら、ストレス源であるネージュを付き人にしてるなんて、ちょっと変だよね?」
 エペルが首を傾げる。確かにそうかもしれない。
「僕なら顔を見るのも嫌な相手となんかずっと一緒にいたくないし……余計に心の闇が深くなりそうな気がする、かな」
「ヴィルのヤツ本心ではネージュに意地悪して、こき使ってやりたいって願ってたのかもしんねーんだゾ。アイツならあり得る!」
「え~~~っ!?さすがのヴィルサンも、そこまでは……か、完全には否定しきれないけどさ……」
 グリムが自信満々に言い切る一方、エペルは僕の方をちらっと見て歯切れを悪くしていた。気づいてない顔をして紅茶を飲む。
『これはあくまで憶測だけど……「最高の美しさを目指し、ストイックに高みを目指すヴィル・シェーンハイト」の在り方には、かなり深くネージュさんの存在が関わっている』
「負けたくない相手がいるからこそ、ヴィルは自分を奮い立たせ、努力を重ねる事が出来た……という事だね」
『うん。「無かった」事にするには、ヴィルさんにとってネージュ・リュバンシェの存在は大きすぎる』
 現実世界における重要な要素の変化や欠落は、夢の世界での齟齬や破綻を生みやすい。だけど潜在的な防御本能が働き、この夢の中では『ライバルになり得ない存在』として設定されているのかもしれない。
『で、ライバルが存在してないから、ダイヤモンドムービー主演賞はあっさりヴィル氏が穫るってこと?』
「ノン……!そんなシナリオは、ヴィル本人が一番許せないはずだよ」
 ハント先輩が憤りを見せる。その言葉には何となく共感を覚えた。
 好む、って言うと変かもしれないけど、先輩はいつも正面から、正々堂々と勝つ事を望んでいた。外見も技術も文句を言われないレベルに磨いて、賞賛を集めてきた。ここ一番ではネージュに負けていたとしても、その姿勢は揺るぎなく、尊敬に値するものだ。
 そんな在り方さえ、ここでは歪められている。表面的な『幸せ』に惑わされるように。
「ネージュくんは、確かに数々の痛みをヴィルに与えただろう。しかし……ヴィルは誰よりもネージュくんの実力を、強さを知っていた」
 勝てない苛立ちはあった。嫌いな気持ちも、多分ある。
 でも、ネージュの努力や実力を否定する事は無かったように思う。
 自分は同じ苦労を知り得ない。だから安易に否定も出来ない。
 そう言って僕たちを諫めていた姿を思い出す。気高く誠実で、どこまでも綺麗な人。
「だからこそ『VDC』の日は追いつめられ、あ、あ、あんな行動に……」
 ハント先輩の目に涙が滲む。
「本人に自覚が無いままに踏みにじられているヴィルのプライドを想うと、胸が張り裂けそうになる」
 芝居がかった口調と大げさな動きで疑いたくなるけど、多分全部本心からの言葉だ。
 シェーンハイト先輩を思う気持ちも、もちろん本物。
「今のヴィルは挫折や嫉妬を味わう事のない、幸せな状態だろう。だが、その代償に一番大切なものを失くしてしまった」
 キッと虚空を睨む。鋭い視線にみんなの中には緊張が走るが、それはそれとして固唾を飲んで彼の言葉を待つ。
「奮励の魂だ!彼を彼たらしめる、美しき女王の精神!」
 ポムフィオーレの寮長になるに至った、彼の心。
 あの能力が高く負けん気が強くて我が強いナイトレイブンカレッジの生徒である寮生たちから、信頼と崇拝を集める資質。
 それは決して、ナイトレイブンカレッジだけで育まれたものではない。彼が十八年の生涯をかけて築いてきた結果、与えられた栄誉と誇り。
「ああ、早く目醒めさせてあげたい。あんなヴィルの姿、見ていられないよ……!」
「ルークサン……」
 確かに、今の状態がシェーンハイト先輩にとって幸せなものだとは思えない。
 どんなに立場が違おうと、ネージュがストレス源なのは変わらないだろうし。根幹が変わらないのなら、あんな風に当たり散らしてストレスが発散できる人でもないはずだし。
 一刻も早く目覚めさせたい。
『……それと、もうひとつ。重要な情報を共有しておくね』
 オルトが沈んだ声音で、隠し持っていたらしいもう一冊の雑誌を開いた状態でテーブルに出した。さっきの映画情報誌などとは全く誌面の雰囲気が違う。多分、ゴシップ雑誌的なものだ。
 白黒で印刷された写真に写っているのはシェーンハイト先輩と、僕だ。
『人気俳優カップル、結婚秒読み。授賞式で公開プロポーズも!?』
 そんな見出しが踊っている誌面では、シェーンハイト先輩と僕が横並びで写っているイベントの写真などと共に、およそ見出しから情報が増えてない感じの文章が並んでいる。
「…………これって、夢の中のユウクン、だよね?」
「そうだろうね」
「他人事のように言うな……」
「まぁ、他人事でしょ。僕じゃないし」
『予想できてた事ではあるけど、やっぱりこの世界の「イミテーション」はヴィルさんに接近してる。それをヴィルさんも許してる』
「……さっき、彼は気づいた様子ではなかったか?」
「気づいたのはあくまで『ユウ』だから。NPCと僕の区別が出来てたワケじゃないですよ」
「そうだ、あの時なぜ他人のフリなどした?絶好のチャンスだったではないか!」
「どこが?」
「どこが、って……」
「『闇』はどこででも時間と場所の制約無く出てくるんだから、『イミテーション』だって出てくるかもしれないでしょ」
 そうやって『イミテーション』が出てきたら、今のシェーンハイト先輩にはそっちの『ユウ』が本物なのだから、攻撃はこちらに向く。結局揉めるし成果があるとは思えない。
「僕は情報収集優先で慎重に、って指示を守っただけ。……実際、それで良かったんじゃない?知らないで喋ってたら絶対ボロが出てたよ。そこで不審がられても結果は同じ」
「ぐ、ぅ……」
『まーセベク氏の気持ちは解りますわ。こういう時ぐらい都合良く覚醒してほしいよね』
 こういう時って何だよ。何となく言わんとする事は解るけども。
『でも現実にはそうはならなかった。だからこれまで通り、現実との齟齬を突きつける感じで目を醒ましてもらうしかない』
『ここでのユウさんは、ヴィルさんと同じく世界的な人気俳優だ。子役の頃から共演していてプライベートでも仲良しで、二人の交際はファンの間では公然の秘密になってる』
 さっきの若手俳優情報誌を探したら、ちょうど『ユウ』の記事もあった。プライベートに焦点を当てた内容で、家族構成や経歴も、シェーンハイト先輩に話した事がある内容を踏襲している。
 違うのは、ずっと隣にシェーンハイト先輩がいた事。
 誘拐事件に巻き込まれて挫けそうになっても、自分の男らしくない外見に悩んでも、シェーンハイト先輩が傍にいて、叱咤激励されて支えてもらって、同じ道を一緒に歩いていたと記事には書いてある。
 現実を知ってる身からすれば荒唐無稽な内容だけど、裏を返せば、これがシェーンハイト先輩の望みという事だ。
 苦しい時も悲しい時も、手の届かない過去さえ支えてやりたかった、という気持ちの表れなのだと思う。
 愛されているのだと理解できる。感謝する気持ちもある。
 だけど空しい。
 どんなに恋われても愛されても、離ればなれになるかもしれない。また傷つける事になるかもしれない。
 不安で一歩も前に進めない。進むべきでもないと思う。
「栄誉あるダイヤモンドムービー主演賞を受賞し、その場で長く互いを支えてきた人へ、永遠の愛を誓う……なんと素晴らしい!全力で祝福したい!!!!」
「でもこの相手、ニセモノのユウクン、なんだよね?」
「そうだよ」
「じゃあ祝福しちゃダメじゃないですか!」
「無論、解っているとも。私が祝福したいのは、ヴィルとユウくんの輝かしい未来だ。偽りの花嫁など断じて認める気は無いよ」
 ハント先輩は涼しい顔でしれっと言い放つ。変わり身早すぎて怖い。
『僕たちが接触した事で、ゲームマスターも警戒を強化しているだろう。さっきはいなかった「イミテーション」も、近くに張り付いてるかもしれない』
「……これで見る限り、見た目は現在のユウとほとんど変わらないな」
「そうかい?ライティングの加減などもあるだろうが、肌や髪の艶やかさは随分違うよ。体格も服に隠れずとも華奢なようだ。ユウくんの身長に合わせた、最も愛らしく見える理想的な体型に仕上がっている」
 そこまで冷静に述べて、僕の微妙な表情が見えたのか、ハント先輩はわざとらしく咳払いした。
「……二人が並べば『同一人物』には見えないと思うよ。よく知る人であればこそ、その差は歴然だ」
「だったら同じ場所にいたら、『理想のユウ』の方を本物だと思うでしょうね。僕が出ていった所で質の悪いモノマネだと思われて終わりだ」
「……本当に、そう思うかい?」
「そう考えるべきでしょう。さっさと終わらせるためにも、あまり一つの要素に期待しすぎない方がいいと思います」
 ハント先輩は何か物言いたげだった。敢えて無視をする。
「貴様はこう、もっと何というか……彼を信じる気持ちは無いのか」
「だーかーらー。勝手な期待して失敗したら、苦しむのはシェーンハイト先輩なんだよ」
『それはそうなんだけど……』
「僕の個人的な感情なんて二の次でしょ。顔を合わせた時に先輩が気づいてくれればハッピーラッキーよかったねって事でいいじゃん。何か問題ある?」
『あーナイナイ。全然大丈夫』
「イデア先輩まで……」
『そりゃあね、愛の力で洗脳が解けてハッピーエンドとか、期待したくなる気持ちは解るよ。王道だし』
 いかにもめんどくさそうな感じで言ってる。声だけで表情に想像がつく。
『でもさぁ、現実にそうならなかった時、誰が一番傷つくか解ってて言ってる?』
 みんなが黙り込む。一気に空気がお葬式だ。
『マレウス氏のシナリオセンスがド底辺でも、魔法士としては超一流。偶然や奇跡に期待するギャンブルは、ここではリスクの割にリターンが少なすぎる』
『まあ……センス以前に、マレウスさんは魔法領域に捕らえている人たちに対して「幸せな夢を見続けろ」っていうアバウトな命令を出しているだけにすぎないからね』
 オルトが補足する。
『実際にイマジネーションを働かせ、幸せな夢を想像してるのは夢の主本人だ。もちろん「悲しみや怒りっていうネガティブな感情を生み出してはならない」っていう縛りの中で……だけど』
『そんなん最初からレベルマックスで、敵が全部自分を避けていくゲームじゃん』
 全滅からのリトライ。障害を乗り越えるためのトライ&エラー。
 育成の苦労だってゲームの醍醐味でしょ、とシュラウド先輩は不満げに言う。
『悲しみや怒りの無い世界なんて歪んでる。そんなので誰も、本当の意味で幸せになれやしないよ』
「……マレウス様は……きっと、そういった『手応え』のようなものを楽しまれた経験が非常に少ないのだと思う」
 シュラウド先輩の言葉を聞いて、シルバー先輩が暗い表情で呟く。
「あの御方は生まれた瞬間……いや生まれる前から、熟練の兵士たちを一蹴できるほどの力を持っていらした」
 ヴァンルージュ先輩の夢の中で見た、生まれる直前の光景を思い出す。
 激しい雷を放って周りを威嚇して、ヴァンルージュ先輩しか近づけなかった。
「比喩ではなく、『最初からレベルマックスで敵が全員自分を避けていく』ような人生を歩まれてきたのだろう」
 そもそも、手応えを与えられる程度の相手がいない。だからそれは必然と言えばそうかもしれない。
『あー……ッスーーーー。そ、それは……そうなのかもしれませんが』
 シュラウド先輩が画面の向こうでため息をついている。
『うちの学園……特に寮長たちは怖いもの知らずばっかりだから、ちょくちょくマレウス氏に食って掛かるヤツもいたけど』
 思い浮かべてるのはキングスカラー先輩だろうか。まぁでも、あの人ツノ太郎を除いた生徒の中では多分トップの実力者なんだよなぁ。ツノ太郎には敵わないにしても、立ち向かう度胸があるのも納得というか。
 他の寮長さんたちも、戦う事になったら無謀な感じでなく、出来る最大限の力で彼と戦うだろうし。それが彼の実力への敬意だと思ってる人もいると思う。
『もしマレウス氏がイラッときてデコピンでもしようもんなら、相手は確実に保健室送り。良くて退学処分、悪くて国際問題って感じだもんね』
 ただ本人たちがどうあれ、現実にはそれだけでは済まない、という事だ。
「つまり学園に通う人間どもは、誰よりも思慮深く、誰よりも寛大なマレウス様の日頃の振る舞いに心から感謝すべき……という事だ!!」
「こんな時にまでオメーは……まったく、ブレねぇヤツなんだゾ」
「……ツノ太郎に入学許可証を送った人は、一体何を考えてたんだろうね」
 ぽつりと疑問が口を突いて出る。
「何を、って?」
「竜の妖精が強いのなんて、ここでは世の中の常識みたいなもんでしょ。いくらナイトレイブンカレッジが名門校でも、人間の魔法士じゃ敵うはずがない」
「当然だな」
「そんな最悪の場合は国際問題になる環境に、別に魔法を学ぶ必要もない、教師たちが制御も出来ないヒトを招いてどうすんの?世界で五本の指に入る魔法士が学んでますって宣伝効果より、リスクの方が高くない?」
「…………それは、そうかも?」
「マレウス様と学舎を共にする栄光を与るのだぞ。人間どもにもこの上ない貴重な経験となるだろう」
「デコピン一発で保健室送りにされるかもしれない爆弾と同じ学校に通う事が?生まれつきの能力で苦労もせず桁違いの結果出してくるヤツと肩を並べさせられて、正当な評価も得られない。卑屈になりこそすれ、得られるものなんてある?」
「貴様……若様を愚弄する気か!!」
「別にそういうつもりはないけど……ダメだ、いまツノ太郎の味方できないや」
 椅子から立ち上がる。
「待て、どこに行く!」
「頭冷やしてくる。商店街からは出ないから、ちょっとほっといて」
 そう言い捨てて、誰の顔も見ずにカフェを出た。

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